少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都6 殺人パンデミック3

5-6

 

 


5

 

 バスは明け方、茨城県水郡市に向かっていった。
「ガソリンがなくなる前でよかった」
岩本は言った。
「おそらく、ここが安全地帯でしょう」
朝霧の向こうに見えたのは自衛隊駐屯地の正門だった。岩本はバスを止めると、ゆっくり立ち上がった。
「後は、優奈さんに運転してもらってください。僕はここで」
自衛隊基地に稀代の殺人者であるお前は入れないってわけか」
結城が声を上げた。岩本はバスの中ですやすや眠っている子供たちと、勝馬の傷口を押さえている瑠奈と交代まで寝ている千尋の姿、そして前の席でグースカ寝ている都を見つめた。
「安全に連れてくるという使命は果たしました」
「お前はどこにいくんだ」
「さぁ」岩本はそういうと、ドアを開けて外に歩き出した。
「ん」
歩哨の自衛官が「助けてくれ、おーい」と走ってくる若者を見つめた。

 

 1時間後に子供たちは自衛隊駐屯地の食堂で食事をとっていた。
「すごい、大勢の子供たちがいるんだね」瑠奈が目をぱちくりさせた。
朝鮮人学校の寄宿舎の子供たちよ。先生たちが保護を求めに来たの」
と迷彩服の女性自衛官、朝霧愛華三等陸曹が笑顔で言った。
「よく入れてくれましたね」結城が感心したように言った。
「彼らはまぁ、北朝鮮の団体の学校の生徒でしょう。彼らを自衛隊の機密がいっぱいある駐屯地に…英断だと思います」
結城は言った。
「うちの駐屯地の一等陸佐は、いろいろ見てきているのよ。平和維持活動でアフリカの国にいって、いろいろとね。今回の英断はこの経験が生かされていると思うわ。あ、そうそう。君の友達の北谷君…命には別条ないって…私の顔を見てデレデレするくらいの元気はあったから大丈夫とは思ったけど」
「よかったぁ」と千尋
「それと、君たちに、駐屯地指令の番川一等陸佐が会いたいって」

 

「失礼いたします」
会議室で朝霧は敬礼してはきはきと報告した。
「報告。島都、結城竜両名をお連れいたしました」
「ご苦労」番川一等陸佐は敬礼した。数々の戦場を駆け抜けてきた雰囲気の迷彩服の人物だった。
「びしいいーーー」と敬礼する都。
「ど、どうも」
会議室に集まった佐官たちに結城は何度もお辞儀をした。
「あ、この度は助けていただき、心から感謝いたします」
「当然の行為をしたまでです。おかけください」
番川は言った。
「ここには事態が収束するまでいていただいて構わない。勿論コロナのリスクはあるが、今はそうはいっていられない」
「状況はどうなっているんですか」
結城が聞くと、番川はため息をついて「それを聞きたいと我々も思っているんだ」とため息をついた。
「我々は警察ともいろんな情報を共有していてね。実は君の事も聞いているんだ」
眼鏡をかけた国山平三等陸佐が言った。
「しかし今回ばかりは市ヶ谷から一切情報が入ってこない。いや、通信が遮断されているわけではないが、向こうが我々に情報を渡してこないんだ。茨城県も一向に災害派遣を要請してこない。我々はシビリアンコントロールの下、別命あるまでは動くことは出来ないからね」
番川は立ち上がった。
「テレビとかは?」
「主要なテレビ局は今砂嵐かカラーバーだよ。放送局に暴徒が押し寄せて、マスコミ関係者が身の危険を感じたんだ」
番川は話をつづけた。
「ネットからは情報が入ってくるが相当混乱していてね。だから頼みたいのはこの2つ。まず君たちが見てきたことを話してほしい。君たちが杉沢市からここに逃げてくるまでに見た事、遭遇した事…全て話してほしいんだ。信じられないことに我々が一番情報を持っていないんだ。いや、市谷は情報を持っているのかもしれないが、駐屯地まで情報が共有されていないんだよ」
「わかりました」
都は言った。「ものすごくデンジャラスな話になりますが、全て本当にあった事です」
「どんとこいだ」
番川は笑った。
 都は話した。養護施設襲撃、岩本無双、そして虐殺現場。
「なんという事だ」
国山がため息をついた。
「これほど状況がひどいとは。何とかできませんか」
「我々が独自に動くことは出来ない」番川が国山を諭す。
「我々は法によってきちんと位置付けられているんだ。それよりも驚いたのはこの自衛隊駐屯地のすぐ近くまで、君があの稀代の殺人鬼岩本承平と行動を共にしていたという事だ」
「あー、やっぱだめですかね」
結城がおずおずというと、番川は「そういう事じゃなくて」と手で制した。
「君らには何の責任もないよ。しかしあの男が我々のすぐ近くに来ていたのは」
「やっぱ自衛官も気になるのかな」都が目をぱちくりさせた。
「直接彼と対峙する役職ではない、あくまで警察の役目だが…。一応警察と協定は結んでいてね」
番川は言った。
「彼がヘリで逃亡を次に図った時には、我々が撃墜することになっている。オウム真理教サリンヘリへの対応と同じくね」
「つまり防衛出動」結城が口をあんぐり開けた。
「あいつ、ゴジラ扱いかよ」
「そういう事だ」番川は都の横に立った。
「もし君の茨城県警の知り合いの女性警部と何か話が出来たらすぐに話をしてほしい。と言っても今は日本中で回線が混雑していて難しいらしいが。LINEとかは?」
「既読になかなかなっていない」
都は言った。
「すごく忙しいんだと思う。お母さん大丈夫かな」
ふと脈絡なく都は天井を見た。「結城君、秋菜ちゃんは」
「連絡はついた。今勝馬の家で陸翔や勝馬の舎弟のアホの軍団と一緒だそうだ。まぁ、あそこにいれば大丈夫だろう。メッチャクチャ泣いていたよ」
結城はため息をついた。
「君たちが日常から突き放されて精神的に大変な気持ちはわかる。だがここに来てくれた以上君たちのことは必ず守る。だからできる事なら、私の事を長川警部だと思って接してほしい」
「ありがと。番川隊長!」都は敬礼した。番川は敬礼する。
「それともう一つみんなに羞恥してほしいんだが、自衛隊基地なうとかはツイートしないでくれ。家族とのやり取りはDMで。ここに匿っていることはばれたくないからな。今水郡駐屯地でエゴサして情報収集はしているのだが」
自衛隊の情報収集がエゴサっすか」と結城。
「馬鹿には出来んよ」番川は言った。
「ISILの秘密基地を米軍が特定するのもエゴサがよくつかわれたんだ。バカな戦闘員が『なう』ってやってバンカーバスター撃ち込むことに成功した事例もあるし」
「物理的炎上だな」
結城はため息をついた。

 

 食堂で高野瑠奈はぼーっとしていた。
「あ、都」
瑠奈が笑顔で笑った。
「さっき疲れたからお昼寝するって言っていたよね」
都は笑顔で言った。「目が覚めちゃった?」
「うん、目が覚めればよかった。昨日あった事が全部夢で…ううん、コロナがこの国に広がってみんなが学校に行けなくなったのも全部夢だったらよかった」
瑠奈が突然声を震わせた。
「数か月前みんなで当たり前に探検部の部室でお喋りして一緒に帰って…こんな日常当たり前だと思っていた。すぐに帰ってくると思ってた。でも、コロナが広まって、みんな学校に行けなくなって…ずっと引きこもって、スーパーに行くだけで怖がらなくちゃいけなくて、毎日お父さんとお母さんの無事を祈って…これが当たり前の毎日になっていた。そして今日のは何なの?」
瑠奈は都に抱き着いた。
「どうしよう。お父さんとお母さんと陸翔に何かあったら。ううん、このまま日本が滅茶苦茶になって、もう二度と会えないかもしれない。みんな殺されるまで終わらないかもしれない! もう何があってもおかしくないよ。誰かの役に立ちたいなんて思わなきゃよかった」
「だからこそだよ」
都は瑠奈の背中をぎゅっと抱きしめて言った。
「何があってもおかしくないからこそ、私たちは出来ることをしなくちゃいけないんだよ」
そして瑠奈の顔を見てにっこり笑った。
「それに、誰かの役に立ちたいって言っていた瑠奈ちん、すっごくかっこよかったよ。それにバスの中の瑠奈ちんも。ずっと何があっても勝馬君の肩の出血を押さえててくれた」
都はにっこり笑った。
「瑠奈ちんはすごく格好いいよ。格好いい女の子が心配することなんて何もないんだよ」
都は瑠奈をぎゅっと抱きしめた。
「ありがと。瑠奈ちん」
「都、三密って駄目じゃないの?」瑠奈が泣きながら笑った。都は笑顔で
「今は特別!」
とさらにぎゅっと抱きしめた。
「おお、似合いのカップルだね」千尋が笑顔で食堂に入ってきた。
朝鮮学校BL研究部を結成したから。彼女が朴ちゃん、彼女が安ちゃん。これから女性自衛官朝鮮学校にBLのすばらしさ布教してくるから」
朝鮮学校の制服を着た2人の女の子を従えて千尋が笑った。
千尋ちゃん、元気だねぇ」
都が目をぱちくりしていた。
「そうでもないよ。私もアップアップ。スマホを見てたら嫌なトレンドばかり上がっていてさぁ。正直お先真っ暗って気分になるけど、こういう現実を私から忘却させてくれるパワーがBLにはある。という事でBLの授業を受けたかったらいつでも来な」
「訓練している自衛官の邪魔にならないようにね!」
瑠奈は声を上げ、ため息をついた。「全く」
「番川一佐」
指令室の真っ暗な部屋で作戦会議中に番川一等陸佐のところに自衛官の国山が走りこんできた。
「先ほど、我々の駐屯地に朝鮮人学校の生徒がいることが外部に知られたようです」
「どこから漏れた」
番川が立ち上がる。
「周辺住民が目撃していたようです」
 Twitterのトレンドには「水郡駐屯地」「朝鮮人」「自衛隊スパイ」「朝鮮人暴動」という文字が踊り始めていた。

 

6

 

 右翼団体街宣車が北関東の地方都市の住宅地を走っていた。さらに軽トラックに乗った中高年や若者が日本国旗を振り、手には包丁や鉄パイプを手にしている。
朝鮮人を出せ」
「駐屯地に入り込んだスパイを出せ」
 駐屯地をぐるりと囲むように大勢の市民が国旗を振りながら現れて、駐屯地を取り囲む。自衛官が小銃を手に仁王立ちしてデモ隊を威圧する。
「開けろ、朝鮮人を引き渡せ」
狂ったように叫ぶ人間たち。
その様子を建物のフロアから双眼鏡で見つめる番川一等陸佐
「一佐。あれを」国山が双眼鏡を誘導する。後ろの方で国旗に括りつけられていたのは人間の首だった。
自衛隊なら真の国益を考えろ!」
群衆はわめき、そしてビニールに入った何かを砲丸投げみたいに駐屯地敷地に投げ込む人間もいた。
「うわっ」投げ込まれたものに自衛隊基地警備の迷彩服の自衛官が悲鳴を上げて飛びのく。ビニールの中から出てきたのは人間の首だった。
「警察は何をしているんだ」
番川が国山に言うと
茨城県の各地で暴動や殺人が発生しています。警察はその対応に追われていて、こっちまで手が回らないと思われます」
「なんだと」
番川の顔に国山緊張した表情で言った。
PKOに派遣されて現地で発生した大量虐殺を体験された一佐ならお分かりになるはずです」
国山の目が光った。
「司法崩壊が進行中です」
「くそっ」
番川は赤電話の受話器を取った。
「一佐…どうなさるおつもりで」
「朝霞の統監部にかける。それで埒が明かなければ直接市ヶ谷にかけるしかない。応援が来なければ暴徒を防ぐことは出来ない」
国山に番川は受話器を手にしたまま言った。

「水郡駐屯地へ行こう…ってハッシュタグもできている。有名なネトウヨ作家もあおっているし。これ滅茶苦茶ヤバいパターンじゃん。自衛隊で守り切れるのかな」
奥の会議室に集められた朝鮮学校と孤児院の子供たち。薮原千尋の声も真っ青になっていた。
「大丈夫ですよ。鍛え抜かれた肉体見ました。あの腕立て伏せの力。僕も勝負挑みましたけど全然かなわなかったっす。それに自衛隊は武器を持っているでしょう」
勝馬は必死で千尋を安心させようとするが、結城竜は顔をしかめたままだった。
「その武器を防衛省が使わせてくれればいいがな」
結城は言った。
「変だろ。こんなことがあったのに防衛省も政府も何も言ってこないなんて。それに自衛隊は武器の使用には上層部の許可が必要なんだ」
「ネットで見たことがある」
朝鮮学校の女子生徒の朴安星(パク・アンソン)が言った。
「軍隊が駐留していた技術学校で、周りを虐殺者が取り囲んでいる状態で、軍隊が守ってくれなくて、殺されそうな人たちを見捨てて帰っちゃったんだって。それで学校の中で何千人も殺されて」
「見た。今でもミイラになった犠牲者が廃墟になった学校に保管されているんだろ」
男子生徒が言った。
「俺たちもそんな感じで、差別や虐殺を失くす資料として未来の人の役に立てばいいな」
「みんな落ち着いて」
朝霧三等陸曹が言った。
「番川一佐はPKOの英雄と言われている人よ。ワンピースで言えばガープ中将みたいな伝説の将校なんだから」
「ほら、伝説の将校なんだろ。大丈夫さ。きっとコマンドーみたいな特殊能力を持っているんだよ」
勝馬は声を出した。
「あれですよね」
結城は言った。
自衛隊の現地の派遣国駐屯地にジェノサイドされそうになった人たちを匿って、500人以上救ったという。結構自衛隊マニアでは有名な人」
「そう」
朝霧三曹は言った。
「番川一佐は現地の人々の文化を尊重し、道路建設や井戸掘り、そして学校建設を行い、人道物資の警護も行って多くの現地の人々に信頼されていたわ。現地の人に上総掘りという井戸建設の技術を教え、農業用水路の浚渫やドリップ農法などの技術を教えたわ。一佐は福島の農家の出身で、農業の勉強をした後で防衛大に入った異色の経歴の持ち主だったからね。だから少数民族を虐殺しようとした人も、駐屯基地の正門で番川一佐に一喝されて、みんな帰っていった。海外の軍隊の将官はこれを見て、ジャパニーズ・シンドラーって讃えたそうよ」
「その割には出世していないですよね。これだけの英雄ともなれば、こんな田舎の駐屯地のボスに今頃なっていないと思いますが」
「手厳しいわね」
朝霧は苦笑した。
「番川一佐は自衛隊内部では英雄どころか、戦闘行為に一切関知しないという権力を越権した行為としてすごく疎まれたの。政府としては非戦闘地域という事で送り出したのに、実際はその国の虐殺事件のある種当事者になったわけでしょう。そのせいで国会では野党にすごく叩かれたからね。政府としては余計なことをしてくれたって感じなんだと思う。でも自衛隊内部では番川一佐よりも階級は高くても番川一佐を信奉して師匠として尊敬している高官はいっぱいいるわ」
「大丈夫なんでしょうか」
栗林優奈が子供たちを抱っこしながら言った。
「大丈夫。番川一佐なら何とかしてくれる」
「やっぱり、自衛隊基地の正門であいつらに向かって説教するんですか」
千尋スマホを触りながら言った。
「それは」朝霧の言葉が詰まる。
「やめた方がいいですよ」結城はTwitterのトレンドを見た。
「#番川は国賊、#反日自衛官って、出ていますよ。奴らは国の英雄とか関係ないんですよ。第二次世界大戦天皇陛下のために戦った元日本兵のじいちゃんたちをイベントに呼んで喋らせて、みんな戦争はよくない、憲法改正や差別は間違っているとか言っちゃったもんだから、ネトウヨイベントの参加者がじいさんたちをつるし上げて、それがYouTubeに上がっちゃった事件がありました。今番川一佐が連中の前に出てきたら、殺されますよ」
結城が真剣な表情で朝霧に言った。瑠奈は手を組んで必死に祈っていて、都はぎゅっと震えている子供たちを抱きながら目を光らせて結城と朝霧を見つめた。
「大丈夫だ」
勝馬が全員を振り返った。
「万が一自衛官がやられても、俺がまだいる。この最終兵器勝馬様が皆さんを守り、連中を一人残らずぶちのめす」
「この腕でか」結城は呆れたように言った。
「へ、へなちょこの結城にはわからんだろうが、俺には根性があるからな。それに相手が大人数であろうが、狭い通路で一人ずつぶちのめしていけばどうにかなるだろう」
「やる気かよお前」
結城は呆れたように言った。
「番長の血が騒ぐぜ。こんな喧嘩に立ち会えるんだからな。しかも何人ブッタ押しても怒られる事もない。瑠奈さん」
ふいに名前を呼ばれて瑠奈が顔をきょとんとさせる。
「数えてくださいよ」
「お皿を?」瑠奈に言われ勝馬がずるっとなった。
「そうだね」千尋は言った。
「探検部がいる以上、デビルマンみたいな物語の終結はあり得ないよ」
「そうだね」
都も笑顔で言った。
「どうせだったら私みたいなかわいい女の子がおいしいご飯をたくさん食べる幸せなラストシーンがいい」
都がぐっと指を突き出した。
「この状況からそれって、脚本家どころか掲載紙が変わらない限り無理だろ!」
結城は突っ込みを入れた。

 

「こちら東部方面隊水郡駐屯地。コード894xv54htd6712.もしもし。報告いたします」
朝霞駐屯地の東部方面隊統監部に、水郡駐屯地の番川一等陸佐は電話をしていた。
「多数の暴徒が駐屯地に終結。基地警備の歩哨ももはや押しとどめられません。威嚇射撃の許可を願います」
黒電話に向かって叫ぶ番川。マスクをして声はくぐもっているが、焦りの色は色濃くなっている。
 しかし防衛省からの返事は思いもよらないものだった。
「君が自衛隊法に違反して勝手に外国人を駐屯地に入れたのが原因だろう」
防衛省の幹部は言った。
「彼らは保護を必要としています。今日本で何が起こっているのかわかっていますか? 大量虐殺です。マスメディアも攻撃されました。情報ツールはネットだけになっていますがあちこちで殺人や破壊行為の映像が撮影されています。状況は全国規模」
「確かに問題だが、我々は防衛出動も治安出動も命令されていない。それに内閣は治安は平静を保っていると対外に伝えているんだよ。我々が動けばより混乱が確認するとは思わないかね」
防衛省の男は命令した。
「駐屯地に不正な方法で入れている人間を外に出せ」
市ヶ谷の執務室で国旗を横に窓の外を見ながら防衛大臣は言った。
「こ、これは命令だ」
「な、何を言っているんですか」
番川は息をのんだ。
「市民の意思を裏切ってもいいというのか。この国は民主主義国家だぞ」
「つまり」
正門に押し寄せる暴徒の数が増えており、さらにトラックの上でシュプレヒコールを上げている首相が愛読しているネトウヨ本のハゲの作者がシュプレヒコールを上げているのを見て番川は声を震わせた。
「彼らから支持されるためのシビリアンコントロールですか」
番川はおもむろに受話器を置いた。
 その時、一等陸曹が敬礼をして報告した。
「番川一佐。報告いたします。現場の状況はひっ迫。暴徒が駐屯地になだれ込むのは時間の問題との事です」
「連隊全隊員に通達」
番川は声を震わせた。
「威嚇射撃を許可する」
「大臣の許可は」国山三等陸佐が声を上げた。
「大臣の許可はとっている。直ちに通達せよ」
「はっ」
国山は敬礼をした。

 

―君たちはCOVID-19の非常事態宣言の中で外出自粛例を無視して集会を開いています。直ちに解散してください。
 89式自動小銃を担わせた自衛官の前で基地警備の隊員が必死で暴徒たちを押しとどめようとしているが、暴徒たちは隊員を小突いて押し倒し、突然けりを入れ始めた。それを合図に暴徒たちはいっせいに駐屯地に入ろうとする。突然、自衛官が空に向かって銃を発砲し、暴徒たちは悲鳴を上げて伏せる。その間に仲間の自衛官がリンチされていた自衛隊員を助け出した。
「これ以上の侵入は自衛隊法で処罰の対象になる」
現場の三等陸曹岩田陽介がメガホンで喚いた。その横で若い男女の自衛官が暴徒たちに油断なく銃を向けた。
「直ちに帰れ」
岩田三曹が叫んだ。
「これだから平和憲法の下の腑抜けた自衛官は」
トラックの上で作家のハゲ桃田直之はメガホンを取った。
「こんなところで日本人を守るために集まった愛国者は黙るとでも思ったのか。君たち! 自衛官は命令がないと撃たないぞ。すでに政府は我々を愛国的市民と認めているんだ。こんな腑抜けた反日自衛隊を恐れるな。日本人に危害を加える連中を皆殺しにするんだ」
「うおおおおおおおおおお」
鬨の声が上がった。鬨の声を上げている連中には中高年が多く、中には73歳のおばあちゃんもいた。
 岩田はその姿に目を見開いた。

 

「国山三佐。全連隊に通達」
指令室で番川は静かに言った。
「発砲を許可する」