少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都5 電脳湖畔殺人事件File❷

事件編

 

 

3

 

【事件関係者】
・紫藤公義(66):紫藤出版社長。
・紫藤敦彦(32):紫藤出版専務。実質的にニート
・紫藤恒彦(35):紫藤出版副社長。
・黒木秀己(47):作家。
・有川高姫(34):茨城県議。
・杉島進(26):無職。
・江崎幾司(70)弁護士。
米原桜子(23):紫藤家家政婦。
・二見守(20):紫藤恒彦給仕。

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杉島進(https://picrew.me/image_maker/31304

「いらっしゃいませ。江崎様と杉島さまと…あとは」
別荘の玄関から出てきた茶髪のかわいい家政婦さんは都と結城をきょとんと見つめて小首をかしげた。
「実はその辺で道に迷ってしまったんです。このままじゃ凍えてしまうので一晩泊めてもらえませんでしょうか」
都は手を組んで今度はマリア様にでもお願いするみたいに言った。
(わざとらしーぞ。おーい)結城は心の中で突っ込みを入れる。
「あ、そういう事でしたら旦那様に」
家政婦の米原桜子(23)はそういってとりあえず一行をお招きしようとしたが…。
「なんだ! 桜子ちゃん。道に迷ったぁ? そんな奴は雪山に放り出して凍え死にさせておけ。自己責任だ自己責任!」
と小太りの駅前で見たさっきの男が顔を出した。手にしたワインで随分出来上がっているらしい。
「ちょっと敦彦様! そんなことをしたら本当にこの人たち死んでしまいますよ」
「その時は、あの事件みたいにネットを味方につければいいんだよ。へっへっへっへ」
紫藤敦彦(30)はへらへら笑いながら都を見て
「あれぇ。かわいい女の子じゃない。僕こういう小さな女の子が好きなんだぁ」
となれなれしく都の肩を掴んだ。
「野郎!」と体を入れようとする結城を都は後ろ手に制した。
「こんなかわいい女の子を野外に放り出しておくなんて駄目だよね。さぁ、入って入って」
敦彦はそういって、都と結城を招き入れた。
「本当にごめんなさい」桜子はぺこりと謝って扉を閉めた。意気揚々とスキップしながら廊下を歩いていくデブ野郎を見ながら、結城は
「こうなりゃ、俺と勝馬で来るべきだったぜ。都は板倉のバイクに乗っけてよ」
とほそる。
「でもそうなったら勝馬君のバイクは」目をぱちくりさせる都。
ダウジングでもやって探せばいい」
結城にしては珍しく無茶苦茶だ。
「さぁ、皆さん。お待たせしましたぁ」
パーティー会場に江崎弁護士と杉島進を連れてきた紫藤敦彦は高らかに宣言した。
「日本という国の為に反日左翼の手先のクソガキ、秋山優那をぶっ殺した英雄杉島進大先生の登場です!」
この時、結城が驚いたことは3つあった。一つは長川警部が今日花を手向けていた少女の名前がここで読み上げられた事…そしてその殺人者がここにいると言われた事…そして第三にこのトチ狂った挨拶にその場にいた全員が拍手した事だ。都も同じだったらしく、顔が青ざめているのを結城は見た。
「ブラボー、ブラボーーーー、杉島進君。日本のヒーロー、侍スピリットの実践者。さぁ、こっちこっち」
やたらハイテンションな髭眼鏡が杉島を連れて会場の特等席に座らせた。結城はその時までに思い出した。2年前ニュースになった少女劇団員殺人事件の犯人。報道されたそいつはへらへら笑いながら手錠をマスコミに見せてパトカーに連行されていた。確かにこいつは杉島進だ。
「弁護士先生もありがとうございます。本当は日本の名誉を守るための愛国者として無罪にしていただきたかったのですが…先生の事は見直しましたよ」
敦彦の兄弟だろうか。顔つきは髭以外は似ているが、やたらがっちりした男が背後にいた蝶ネクタイの給仕の若い男性に「おるぁ。二見…弁護士先生にコーヒーをお出ししないか!」と足払いをかけてすっころばせ、その場にいた全員がどっと笑う。笑っていないのは、その光景に戦慄している家政婦と都と結城だけだった。
「何やってるんだ!」
結城は慌てて若い男性を助け起こそうとする。しかし若い男性はその手を振り払った。
「いいんです…」
その男性は言った。
「僕はもうとことん不幸にならないとやっていけませんから」
男性はそういうと立ち上がり、壊れた人形のようにダイニングに向かっていった。都はその魚のようなよどんだ眼にゾッとする。結城はパブロフの犬を思い出した。あれは有名な実験だが実は続きがある。そう、人間はあまり虐待されると自分は無力だと虐待を避ける事さえしなくなり、情緒が混乱して虐待される自分が自然だと考えてしまう。
 都は必死でその場にいた人間全員を見回した。笑ってはいるが目が笑っていない少女がいた。
千尋ちゃん」
都が小声で言った。
「マジかよ」結城は目を疑った。彼は薮原千尋がどういう女の子か知っていたので、あのいじめを笑う千尋を見てそっくりさんかと思ったが、その千尋と自分たちが目が合って、千尋が物凄くコミカルに驚いてそして笑っているふりを続けたので真意を察した。
「全く使えない馬鹿ですね。こんなんだからあの枕営業女に騙されるんですよ」
とぼとぼ仕事に戻る給仕の青年を見て、高飛車そうな女が笑った。
「で、あそこにいる子は何?」
「外で凍えていたのをね、僕が拾ってきたんだよ」
敦彦はへらへら笑う。「日本人として正しいでしょう。困っている人を助けるのが」
「そういう事か。寒かっただろう」
髭眼鏡が都と結城に手を伸ばした。全くさっきの行為を悪びれていない。悪いことだと思っていないし、この子供たちも支持してくれると思ったんだろう。都はかなり無理をして
「ど、どうも…敦彦さんに助けていただいた、島都です」
「どうも、結城竜です」
ドン引きしながらも必死で笑顔で対応する都と結城。
「黒木秀己です。作家…君たちわかるかな」
「ああ、知ってますよ。日本の歴史とかいっぱい書いているんですよね(ネット百科事典パクリ野郎として)」
結城が「学校にもあったなぁ」と適当な事を言うと、
「なんと、君たちの学校にも日教組の圧力に負けない骨のある教師がいたのか。どこの高校だね。講演会をしたい」
と食らいついてくる黒木。都が咄嗟に
「ええと、貴方は」
と聞くと女はちょっと不機嫌になって
「あら、私を知らないの? 私は有川高姫。『JBCから日本帝国を守る英霊の党』として茨城県議をやっているの」
「知ってます知ってます(頭のおかしい極右として)」
結城はゴマすりの仕種をしながらおもねるように言うと、有川は結城に一冊の真っ赤っかな拍子の本を見せた。
「これが私がこれから出版する本。このパーティーはその本の出版パーティーなわけ」
「『なぜルワンダはアフリカ一の発展を遂げたか』」
結城は声を上げた。「なんでなんですか」
「古来の民族を押しやってのうのうと特権を享受していた少数民族を皆殺しにしたからよ。そのおかげでこの国は優秀な民族本来の力を発揮し、経済と福祉を発展させたのよ。今の日本と1994年以前のルワンダの共通点、愛国放送の千の丘ラジオと私たちの共通点を細かく分析しているわ」
(どこから突っ込んでいいのかわからん)
結城竜は笑顔で冷や汗を流していた。
「ネタバレなんてお優しい」
敦彦の兄弟がちょび髭と眼鏡姿で笑った。
「先ほど挨拶した紫藤敦彦の兄の紫藤恒彦といいます。紫藤出版の重専務をしております。こちらが私の父であり、社長の公義です」
将軍のような髭を結わえたいかにもカルト教祖みたいな初老の男が結城と握手する。
「紫藤公義と申します。ああ、君たちはあの淫乱女の事件を知っていますかな。あの女がうちの弟に枕営業を仕掛けた挙句、誹謗中傷で僕らを苦しめた事件です。あそこにいる杉島進さんがあの反日女に天誅を食わせてくれましてな。これで女性の権利とか同性愛者の権利とか人権ペストを広めようとしている連中もビビッて震えあがりました。これで日本民族の正しい血統を反日勢力から守ることが出来る」
(なんで礼儀正しくて愛想がいいのに、言っている事はトチ狂ってるんだ?)
結城は笑顔で心の中で父子に突っ込みを入れつつ、目をそらすと、都がいなくなっていた。
「あら、あいつ…どこに」
すると都が千尋に向かって笑顔で、
「すいません、お花を摘み摘みしたいんですけど、お便所はどこですか?」
と言うと、千尋はわざとらしく
「あら、おトイレにはお花なんて生えていませんわよ。私が案内しましょう」
と都の手を引いて歩き出した。

「で、何で都がこんなところにいるの」
トイレで千尋が声をかけると、都はぶーと頬を膨らませて
「だって、千尋ちゃんが知らないおじさんと手を組んで歩いていたんだもん。知らない人についていっちゃダメだって、学校で言われたでしょ」
と手をパタパタしておめかしした同じ探検部の少女に声を出した。
「あいつは知ってるよ。だって私の先輩を殺した奴だもん」
千尋はポニーテールのかわいい顔をクールにパーティー会場の部屋に向けた。
「その先輩が、秋山優那さん。2年前、劇団の前で殺されたんだよね」
「そこまで知ってるんだ…」
千尋は頭をポリポリした。部室ではBLネタばかりふっているお気楽腐女子少女は思い詰めていた。
「長川警部から聞いたよ。この事件では杉島進って人が頭がパーって事で無罪になっちゃって、そしてその人に優那さんの個人情報や住所を渡してお金や武器を渡して殺人をするように言い含めた人がいるって」
「そいつがこの別荘に全員集まっているのよ」
千尋は言った。
「そうか。千尋ちゃんはその犯行を暴くために」都が言うと千尋はため息をついた。
「暴くも何もこいつらはそれを公的な場所で自慢しているもん。そして警察も全く何も言わない。連中を支持している人がネットにもわんさかいるし、その中には有名な政治家もいる。私がここにいる理由はただ一つ…復讐。復讐の為にあいつ…あの女好きのデブと別垢でネトウヨ少女を演じて相互になって…」
千尋ちゃん…」
都は言った。
千尋ちゃんはここで復讐の惨劇が起こるかもしれないって思っているんだね」
「そう」
千尋は遠い目をした。
「復讐をするかもしれないのは、さっきいじめられていた給仕の二見守さん。優那先輩の彼氏。先輩の為にいろいろやって逆にスラップ訴訟を起こされて、名誉棄損で何千万という債務を背負って、あいつらに働かされているってわけ、糞だろ…守さんは前は凄く真っすぐで優しくて強い先輩だった。でも強いパイセンだからこそ自分よりも大切な人を殺されてそれを引き起こした連中にお金を払い続けなければいけない現実に…頭がおかしくならないとやっていられなかったんだよ」
千尋は言った。
「そして優那先輩を死に追いやった連中が一堂に会するのがこ・の・日。先輩が復讐するとしたらこの日…だから私は止めに来た…」
「そうなら私に言ってくれればいいじゃん。千尋ちゃん水虫臭い」
都は頬を膨らませた。
「そうね…でもこれはうちらの問題なんよ。警察なんて信じられない…。うちらの問題だから。さぁ、戻りますよお姫様」
千尋はそういいながらトイレから出て行った。
千尋ちゃん」
都は千尋をトイレでポツンと見送った。

「うまく紛れ込んだ…」
暗闇で黒い人影は声を震わせた。
「後は優那さんの命を奪ったあいつら全員を…この手で」

 

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紫藤敦彦おっさんメーカー|Picrew

 

4

「わはははははは」
紫藤父子兄弟と薮原千尋は大笑いしながらトランプに興じている。
「そろそろ部屋に戻ろうかしら」
有川は酔ったように黒木に寄りかかる。
「では私が部屋まで連れて行こう。二見…あとでシャンパン持ってこい」
と黒木が有川を抱き上げるようにして連れて行った。二見は絶望した目でそれを見送ってからパーティールームと一体となったダイニングで皿洗いに没頭している。
「あの2人…同じ部屋に行くのか」
お茶を飲みながら結城はため息をついた。
「やはり興味あるかね。好きものよのー。どれ、わしも混じってこようかの」
江崎弁護士が日本酒片手に笑いながら千尋のところへ行く。千尋の先輩を殺した杉島進は横でガタガタ神経質そうに震えながら左手で猪口を持っていた。
「結城君…千尋ちゃん、どうして私に何も言わなかったんだろう」
都はぎゅっと椅子の上で膝を抱えて千尋を見た。
 結城は頭をかいた。
「あの台風の事件のせいだろ」
都は目をぱちくりさせ結城の方を見た。
「あいつ、都を巻き込みたくなかったんだ」
そこまで言ったときだった。
「あ、2人とも…私の部屋に布団敷いたわよ」
米原桜子が2人に声をかける。
「本当にすいません」
都と結城が頭を下げると桜子は突然顔を近づけてきた。
「貴方たち、本当は何の目的で来たの?」
と耳打ちしてきた。
「ほ、ほえ?」
「私聞いちゃっただから、千尋さんと貴方は知り合いよね。トイレで話しているところ」
「‼」
都はあわあわすると、桜子は笑って
「大丈夫よ、誰にも言わないから。ただあなたたちも高校生探偵なのかなって思っただけ」
桜子はいたずらっぽく笑う。
「も…って…」
結城が見上げた時、突然公義は大きく伸びをした。
「では私は風呂に入ってくるとしよう…一番風呂は私だ」
と言うと、都と結城に「君たちも仲間に入っていいんだぞ」と言ってパーティールームを出て行った。
「都ちゃんもおいでよ。ひひひひひ」
敦彦がねっとりした声で手招きすると、薮原千尋が、あの能天気腐女子女が、色っぽい顔で
「敦彦さん。あの子に色目使っちゃだめですよ」
と敦彦の顎をすーっとやると、敦彦はぐふぐふ笑いながら喜ぶ。
(薮原強すぎだろ)
結城が幾分真っ赤になって目を剥いた。ふと敦彦が立ち上がった。
「僕も酔っ払って来ちゃった。千尋ちゃん…一緒にどう」
(どひゃぁああああああ)
結城が焦っていると、恒彦が「敦彦…やめておけ、もとはと言えばお前が枕営業に引っ掛かったんだろ」と言った。
「なんだよ! お兄ちゃん。僕がなんで千尋ちゃんと●●しちゃだめなんだよ」
(ストレートに言うな!)
結城が心の中で突っ込みを入れた。
「僕帰る!」
敦彦はぷんぷん怒ってパーティールームを出て行った。
「あいつはいつまでもガキなんですよ」
恒彦が馬鹿にしたように言った。

 別荘の檜風呂―。
「ふふふふ、今日は愉快じゃ」
公彦はその親父の肉体を湯船につけながら鼻歌を歌った。
「優那ちゃん、君が悪いんじゃ。君が息子のものにならないから」
公彦は恍惚とした顔で天井を見上げた。この男は誹謗中傷に苦しみ、殺害予告に恐怖して、無能な警察に絶望して社会を信じられなくなっていく女の子をネットで観察する事に、性的興奮を感じていた。そうやって苦しんで絶望してこっちに慈悲を乞えばいいのに、あの子は戦おうとしやがった。だからあのイカレポンチをけしかけて地獄に落としてやったのだ。
「ああ、いい気持ち」
公彦は芋虫のような唇をたゆませる。
「あの女の死を思い出すと…気持ちいい」
 公彦はふと自分の胸を見た。自分の胸から何かが出ている。それは風呂の光に照らされ、刃がギラリと光っていた。胸の骨や内臓を切りながら刃物が激痛とともに上がってくる。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
公彦は自分に降りかかった信じがたい運命にぐちゃぐちゃになった肺胞で叫んだ。

「あ…」
都は突然スマートフォンを取り出した。
「長川警部から電話だ。ちょっと出てくるね」
都はそういって廊下に出た。そしてピンクのスマホを耳に当てる。
「もしもし、長川警部。どうしたの?」
その様子を廊下の玄関付近から米原桜子が見ていたことを都は知らない。
「もしもし、長川警部?」
―都か。

 長川警部はセダンで那珂市の国道を走っていた。イヤホンを耳に都に連絡を取る。
「今どこにいる? いや、どこでもいい。そっちに勝馬君いるだろ」
―さっきまで一緒だったんだけど、お別れしちゃって…多分今常陸太田市ってところから南茨城市に帰っていると思うけど…事件?
「ああ、まぁ彼からも証言を取りたくてな。まぁ、急ぐ事でもないが、今昼間呼び出しがあった事件関係者のところへ行くところだ。びっくりしたよ。現場が高野さんのご先祖さんのお墓がある場所で、高野さんにばったり。今後ろに乗せているんだ。替わるか?」
長川はイヤホンとマイクを耳から外して瑠奈に渡した。
「都、勝馬君が凄い声出して板倉君とバイクで走っていったんだけど、どうしたの?」
―あ、ええと…ううんとね…。それより瑠奈ちんのご家族が誰か被害に遭ったの?
都の真剣な声が聞こえる。
「大丈夫。2年も前の身元不明の白骨死体。お墓の裏山に埋められていたの。ただ私中学の時に殺人の瞬間を見たかもしれなくって…その時の事件関係者が集まっている場所に行くために竜神湖まで行くっていう体験。でも私が聞いた秋山優那って女性の敵討ちを誰かが計画していて、そのために犯人が別荘の人に成りすましているかもしれないって…。なんでも彼女の死に関わった人全員が今向かっている別荘みたいなところにいるみたいなのよ」
瑠奈がそこまで言ったが、都から反応はなかった。

 島都は携帯電話を耳から離した状態で廊下で茫然としていた。
―都…都…
 瑠奈の声が耳に入っていなかった。その時だった。
「うわぁああああああああああああああ」
紫藤敦彦が悲鳴をあげながら走り込んできた。彼女の横をすさまじい勢いで通り抜け、紫藤敦彦は「あああああああ」とパーティールームで悲鳴を上げた。
「どうしたんだ…大げさな奴だな」
「パパが…パパが風呂で殺されて!」
「バカな冗談はよせって」
恒彦は笑った。
 だが敦彦はぺたんと蹲って、声を震わせた。
「本当なんだ。お風呂でバラバラになっていて」
「冗談だろう!」
恒彦は立ち上がった。そして血相を変えて走り出す。そして突然階段2階へと上がりだした。結城竜が慌てて後を追いかける。都も追いかけようとしたが
「浴室は1階です」
と二見守が先頭を走りだす。
 血の匂いが湯気とともに脱衣所から匂ってきた。
 紫藤公義の死体は首と手足が切断され、6つの肉にぶった切られて浮かんでいた。
「ううっ」
あまりに凄まじい血の風呂になった檜風呂と髪の毛につつまれた頭部とそれ以外のパーツを見て、都は現場の状況を確認した。
「君、大丈夫なのか」
どう見ても場慣れしているような雰囲気の謎の女学生に、江崎弁護士が背後から声をかけた。風呂場には二見守もいた。彼は光のない目で死体を見て笑っていた。都は黙って手で髪の毛を掴んで首を湯船から出して、死体が紫藤公義だと確認した。
「う、嘘」
千尋は江崎の背後から都に声をかけた。
「都! どんな感じだ」
震えて抱き合うネグリジェの有川高姫と上半身裸で部屋着の黒木秀己の背後で結城竜が言った。
「社長は殺されていたよ」
都は言った。
「どういうことだ」
恒彦が有川高姫を見るが「私は犯人じゃないわよ! 私は黒木先生と一緒にいたんだから」
と叫んだ。黒木も
「間違いない。彼女と私はパーティー会場からずっと一緒にいた」
と断言した。
「君こそどうなんだね」
黒木に言われて、「私はパーティー会場にずっといたよ。江崎弁護士や杉島君、二見やこの子たちも証明してくれるはずだ」と恒彦。
「ほい」
島都はそれに賛同するように手をあげた。
「って事はあんたと敦彦さんだけよね。アリバイがないのは」
有川高姫が背後で震えている米原桜子を見た。
「あんた、今まで家政婦として働いていた先で殺人事件が3件も発生しているみたいじゃない。なんか怪しいわね」
「よしなさいよ。議員先生」結城は言った。
「女性の手でこんな風に死体をぶった切れるわけないだろう」
血の風呂にぷかぷか浮かぶグロ死体を指示され、有川は黙ってしまった。
「確かに…そうよね」
有川は言った。
「となると…敦彦…お前が犯人か」
恒彦が彼をじっと見つめる。
「こんなポヨポヨおぼっちゃまにそんなことが出来るか?」
黒木秀己がせせら笑う。だが敦彦は「冗談じゃない!」と喚いた。
「だが一番怪しいのは敦彦さん、貴方ですよ」
後ろから杉島進がぼそぼそと声を出した。
「廊下の窓は全部閉まっていましたし、外の雪原に足跡さえない。つまり外部犯である可能性は皆無。敦彦さん、あんたしか犯行を成しえた人間はいないんですよ」
「杉島、お前」
「敦彦さん、あんた社長とアレの事で揉めていただろう」
杉島が陰険な目で敦彦を威圧して黙らせた。
「あれって」
結城が聞くと恒彦は「身内の事だ」と鼻を鳴らして背中を向けた。
「でも敦彦さんが犯人とは限らないんじゃないかな」
都は言った。
「どうして」
黒木秀己が女子高生に見下すように言った。
「外部からの侵入の痕跡もなく、全員にアリバイが証明されているんだぞ」
「だからですよ」
都はドングリ眼を鋭くする。
「自分以外誰もアリバイがない状態で殺害するとすれば、外部の犯行に見せかける偽装工作か、殺し方を工夫して家政婦さんでも出来そうな感じにするよね。こんな殺し方一番敦彦さんに不利な殺し方じゃん」
「そうでしょう、そうでしょう」
敦彦は頷く。杉島は都を見て「貴方タダものじゃありませんね」と不気味な笑みを浮かべた。
「でも名探偵の娘さん…今回の事件でこの殺し方だと、一番考えなければいけない事があるのではないかのう」
江崎弁護士が都と結城に声をかけた。
「凶器ですね」
都は言った。江崎は頷く。
「確かに、人体を短時間で切り刻むには相当切れ味のいい刃物が必要だ。なぁ、二見…お前はローストビーフ作るのに肉切り包丁使っていたよなぁ」
恒彦が疑わし気に聞く。
「二見さんはずっとパーティールームにいました。一度も部屋を出ていません」
千尋が声を上げる。結城も「確かに」と頷いた。
「大体ダイニングにあった肉切り包丁をどうやって持ち出すんですか」
結城に言われてぐぬぬとなる恒彦は弟を見た。
「やはりお前が何か凶器を持ち込んだんじゃないか。よしお前の部屋をチェックしてやろう」
「ああ、チェックしてみろよ」
敦彦はガキっぽく肩を怒らせてダイニングを出ていく。
「いいわ。しっかり調べさせてもらうわ」
有川高姫がそういいながら全員で現場を出るように促すのを都は見送った。
 都はスマホを取り出した。長川警部から何度も着信があった。都がかけると数回の着信音とともに
―おお、都、最後はつながらなかったが、大丈夫か。
と長川警部の声が聞こえた。
「私は大丈夫。今私はその竜神湖の紫藤さんの別荘にいるの」
―嘘だろ!
長川警部の声が高鳴る。都は言葉を続けた。
「そして今その場所で、紫藤公義社長が殺された」

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結城竜