少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

T4-悪魔の空間 FILE1

T4-悪魔の空間⁻

1

 一人の女性が街の中で苦しんでいた。
 彼女は今監視されていた。イタリアレストランの店員がじっとこちらを監視している。最初は彼女も気のせいだと思っていた。しかし隣の理髪店の店主もなぜか自分の方をじっと見てくるのだ。おかしいな…変だな…そんな違和感を女性は感じていた。だが家の近くで突然工事が始まった時、彼女が恐怖を感じる出来事があった。回転鋸が木材を切断する音が聞こえてきたのだ。彼女は子供の時からこの音が嫌いなのだが、彼女が建設現場を通り過ぎるたびに、なぜか回転鋸の音が聞こえるのだ。
 さらに救急車の音も最近やたらと聞こえるようになった。彼女が道を歩いている時、まるで威嚇するようにサイレンを鳴らしながら通り過ぎたり、角を曲がってくる。
すれ違ったサラリーマンが、その女性に誰にも聞こえないようにそっと囁いた時だった。
「お前は真実に気が付いてしまった、だから必ず殺してやる」
恐ろしい冷徹な声だった。
 すれ違うたびに街の人間が、子供たちも女子高生も主婦も老人もみんな彼女に恐ろしい視線を投げかけてくるようになり、さらにすれ違うたびに
「死ね」
と囁いてくるようになった。
 彼女にとって恐ろしいのはそれだけではなかった。彼女が自宅の寝室に寝ているとびりっと何かが体に弾けるような気色悪い感触が体を走るようになった。それはやがて毎晩のように彼女の体を襲うようになり、得体のしれない痺れるような倦怠感に、彼女は眠れなくなっていった。

 茨城県常総高校―。
「こんにちはーーーーーーー」
結城秋菜が元気いっぱいに探検部の教室のドアを開けた。
「お前…中学校の制服だろ。なんで高校の部室に来るんだよ」
秋菜の従兄の結城竜が呆気に取られて秋菜を指さした。
「ふふふ、今日は師匠の為に極秘アイテムを完成させたのです」
秋菜はそう言うと、部室で寝ぼけている小柄なショートヘアの美少女の横に座った。
「都師匠! これ見てください!」
秋菜が声を上げて、ショートヘアの島都の横に座った。そしてスマホ画面を見せる。
「じゃじゃーーーーん」
「なんじゃこれ‼」
結城は背後から覗き込み、HPに書かれた文句を見て唖然とした。
―美少女探偵島都電子探偵事務所 依頼募集ダイレクトメール―
「ほ、ほえ」
都は目をぱちくりした。
「美少女探偵島都をもっとみんなに知ってもらいたくて作ってみました。これさえあれば多くの人が師匠に難事件を依頼するようになって、師匠は有名な高校生探偵となるのです!」
「ふざけんな!」
目を回している都の横で結城が怒鳴った。
「都の高校生活を名探偵コナン並みに殺人事件だらけの日常にする気か」
結城は頭をポリポリ掻いた。
「大体探偵業を営むには免許が必要なんだぞ」
結城が呆れたようにメールをチェックすると、既に2件メールが来ていた。
「あら、もう依頼が来ているのね」
黒髪美少女の高野瑠奈がメールを覗き込んだ。そこには
―私は今、近所住民から集団ストーカー思考盗聴に会っています。主犯は近所に住んでいる丸山敦というS学会員で茨城県西相馬市とちのき台3丁目3-4に住んでいる人物で、彼らはS学会の工作員として真実に近づいた私を自殺に追い込もうと電波攻撃を仕掛けてきています…―
と書かれていた。
「あ、ダメな奴だこれ」
瑠奈は目が点になって言った。
「典型的な統合失調症だな。病院に行って適切な治療を受ければ完解するよ」
結城はそう言いながら「精神科に通院してください。貴方は統合失調症です。最近は治療薬や治療法も進歩していますから、あなたの苦しみは楽になるはずです」と返信した。
「これで病院行ってくれるかしら」
瑠奈が聞くと結城は
「多分ダメだろうな」
とため息をついた。
「現実の患者にとっては電波攻撃も思考盗聴も実際にやられていると脳が認識しているんだ。その妄想を否定したところで患者本人は『わかってくれない』と思ってしまうんだ…それに」
結城はノートPCをポチポチやった。
「集団ストーカーで検索すれば山のように当事者やそれを利用しようとしている連中のサイトが上がっていて、集団ストーカーの目的方法黒幕…それが全部提示されている。つまり1人の人間が精神分裂状態で陥ってしまった妄想がネットの世界で集約されて、一つの集団ストーカー・思考盗聴という一つの妄想に集約されていくんだ」
結城はため息をついた。
「都…お前の出る幕じゃねえよ」
HPには統合失調症の妄想に苦しむ人間から近所に住む集団ストーカー元締めの正体を挙げてくれという依頼がいくつも来ていた。
「な、なんだか怖い」
都が真っ青になって漫画的にアセアセしながらPC画面を見た。
「そういうわけだから、直ちにPCを閉じるんだ。分かったな」
秋菜に結城はそう諭し、秋菜は「はーい」としょんぼりしながらPCをいじりだした。

 栗原理子という中学2年生の少女は実家のクリーニング店の2階の自室で漫画を読んでいた。すると目の前にあの灰色のマイクロバスが停車するのが見えた。マイクロバスからはたくさんの人が降りてくる。50人以上入るだろうか。若い人もいれば初老の人もいる。みんな私服姿でどこか安心した様にバスを降りて、クリーニング店の向かい側にある昔銭湯で今はどこかのよくわかんない団体が所属している建物の中に入っていくのが見えた。
 このバスが大勢の人をここに連れてくるのはもう10回目くらいになる。それなのに…。理子が凄く不思議だったのはこれだけ大勢の人がこの建物の中に入っていくのに、出ていく人の姿が全く見たことがないのだ。

 アパートで震えている女性。その時扉が開いて、女性の村越田江(54)の一人娘、村越晴美(32)がアパートの部屋に入ってきた。
「ママ、ごめんなさい勝手に病気呼ばわりして」
晴美が泣きながら田江に謝った。
「お母さんの言うとおりだった。この家にいると何か電気がバチバチするし、やっぱり街のみんながストーカー私たちにしている理由はわからないけど、絶対私たちそんな目に遭ってるよ」
田江はその姿を見て晴美に縋りついた。
「お母さんごめんなさい」
「いいのよ。貴方が真実に気が付いてくれただけで私は凄く嬉しいの」
その顔はやっぱり優しいお母さんだった。
「お母さんそれでね。遅いと思ったんだけど、私集団ストーカーの事いろいろ調べたんだけどね」
晴美はそう言って母を見上げた。
「お母さんを助けてくれそうな団体を見つけたの」

 翌日。茨城県新関東市立愛宕中学校。
 登校日下駄箱に運動靴をぶち込んでいた結城秋菜に、ショートヘア黒髪の親友栗原理子が「結城‼ おはよ」とぴょんと肩を叩いた。
「理子!」
「どうしたの。アンニュイしちゃって」
「お兄ちゃんに怒られちゃったよ。師匠のHPやっぱりダメだって」
秋菜は理子に抱き着かんばかりにため息をついた。
「あらあら。私せっかく依頼第一号になろうと思ったのに」
「残念…今依頼は30番目くらい」
秋菜はため息をついた。
「30番目! いっぱい依頼者来てるじゃない! 島先輩やる!」
「それが全員頭のおかしな人たちでさぁ。自分が電波攻撃食らっているとか、集団ストーカーの犯人とかを見つけてくれって…そういうのが30人位ずっと依頼DM送り続けているの」
秋菜はため息をついた。
「こういうのは師匠じゃなくてお医者さんに相談して欲しい」
「こういう妄想って本人にとってはマジらしいからね。私のお姉ちゃんが一時期統合失調症だったの。でもちゃんと家族で適切な治療を受けさせて、今は完解している。私の誕生日プレゼント買うためにアルバイトを始めてくれたし」
理子はにかっと笑い、秋菜は
「ごめん、頭がおかしい人たちって」
と謝った。
「大丈夫。誰だってびっくりしちゃうから」
カラッと笑う理子は、残念そうに頭をかいた。
「そっか。探偵事務所は1日で廃業か」
「待って。私師匠に頼んでみる。放課後、理子の家に行けばいいんだね」
秋菜は理子の手を握って言った。

「そっかーーー。それで都を呼んだわけか」
結城は住宅地を歩きながら従妹に声をかけた。
「本当に師匠、ごめんなさい」
秋菜が都にナムナムすると、都は「いいよ。だって秋菜ちゃんの為だもん。どどどーんと頼っちゃってよ」と小さい胸を制服の上から叩いた。
「で、ここがその栗原理子さんのおうちで」
結城はクリーニング屋の窓を見上げた。
「そしてあれが人間が200人とか300人とかが消えた元温泉施設か」
結城はその建物を見つめた。
「別に高い塀があるわけでもなく、300人の人間を監禁出来る建物じゃなさそうだな」
結城は見上げた。
「はい。でもこの建物の中に灰色のマイクロバスに乗った300人の人間が入っていって、出るところを見た人は一人もいないんです。文字通り300人の人間が消えてしまった建物なんですよ」
秋菜は都に説明した。

「本当に来てくれたんだ!」
栗原理子がクリーニング店の中で都を見て目を輝かせた。
「島先輩、あなたの活躍ぶり、秋菜からたくさん聞かせてもらっています。ぜひぜひ今日は名推理を聞かせてください」
理子は都の手を握る。
「ふふふ、是非ゆっくりしていってくださいね。秋菜ちゃんも」
とカウンターから理子の母親栗原雅が優しく声をかける。
「おばさん、お邪魔します」
都は手を前に汲んで丁寧にお辞儀をした。
「ふふふ、後でお菓子を持っていくね」

「なるほど」
結城は理子の部屋の窓から謎の施設が一望できる状況に気が付いた。
「バスは敷地に入って、建物の敷地に入ると中から一度に50人位が降りてきて、建物の中へと入っていくのが見えました」
理子が説明する。
「理子。バスが来たのはいつくらいかな」
秋菜が聞いた。
「ええと、大体1週間ごとに木曜日か金曜日くらいから来てる。私は少なくとも5,6回は見ているし、多分もっとバスは来ているんじゃないかな。時間は毎回15時くらい。一番最近は昨日だったよ」
「なるほど」
秋菜がメモを取る。
「って事はやっぱり200人、300人がこの謎の施設にやってきているって事は間違いない訳か」
「それで問題はバスは施設で人を下ろすと、すぐにどこかにいなくなっちゃうの。で、次の木曜日か金曜日になると、またバスが来るんだけど、今まで施設にいた人が乗って来る事はなくて、また次のバスが50人位人を下ろしたままどこかに行っちゃう」
理子はこの時深刻そうな顔で結城に言った。

2

「なるほど…」
結城は言った。
「確かに奇妙だな。どう考えてもあの建物に200人位の人間を収容するスペースはない。50人の人間が宿泊するのだって相応の設備が必要なはずだぞ」
結城は声を上げた。
「じゃぁ、やっぱり消えちゃったのかな」
秋菜は声を上げた。
「待て待て、結論を出すには早いだろ。別に理子さんだって、24時間人の出入りを監視していたわけじゃない。多分夜とか学校行っている時間に帰りのバスが来ていたんだろ」
「それはないと思います」
理子が結城を見上げた。
「私のお母さんは下のクリーニング屋のカウンターでずっと仕事をしていました。でも私が見た木曜日や金曜日の人を下ろすマイクロバス以外は一回も見ていません」
「それは変だね」
都が考え込むように言った。
「だってお客さんが来ていたりして1回2回見逃しても、5,6回迎えのバスを見逃すって言うのは確率的にちょっとあり得ないよ」
「それで私」
理子はカメラを取り出した。
「お父さんの定点カメラで窓から毎日撮影してみたんです。24時間。それを1週間続けてチェックしました」
「24時間の画像を‼」
秋菜が素っ頓狂な声を上げた。
「48倍速にすれば30分で見れるよ」
「なるほど」結城は声を上げた。
「バスがあのクソ狭い敷地に入って、転回して50人の人間をバスから乗降させ、敷地から出るには5分はかかるからな。48倍で再生しても6秒。30分集中してみれば見逃すことはない」
「凄い」都が手を叩いて感嘆する。
「よくやるねぇ」
秋菜が呆れたように言った。
「理子昔っから実験とか自由研究とか好きだったし」
「目がしぱしぱしたけど」
理子は苦笑した。
「でもお迎えのバスはやっぱり来ていなかったです。1週間前に50人降ろしてから昨日50人降ろすまでお迎えのバスは来ていません」
「そうなると、もしかしたらくしゃみとかして見逃したとしてもその時に丁度バスが来る可能性は少ない訳だから、やっぱりお迎えのバスは来ていないんだ」
都は唸った。
「でもワゴン車とかで迎えが来ているのかもしれないぜ。少人数で小分けされるように連れ出されているのか…あるいは50人が徒歩で建物を出ているとか。人の出入り自体はあるんだろ」
「はい」
結城の問いに理子は言った。
「ワゴン車が出入りしています。ハイエースとかかな。でも私が見た時にワゴン車とかに人が乗っているなんて事はなかったです。ドラム缶みたいなものが積まれているだけで」
「ドラム缶の数は?」
都が聞いた。
「4くらいだと思います」
と理子は即答した。
「ドラム缶は4つトラックで運び込まれて下ろされて、4つ下ろされている感じでした。でも持ち込むときは結構重そうでしたよ。機械で上げ下ろししてターレっていうんでしょうか。あれで運んでましたし」
「最後にあの建物にここ以外出入り口はあるのかな」
都が聞いた。
「多分ないと思います」理子は言った。
「周りはアパートとか住宅地ですし、高い塀はないですけど、50人の人間が人の家の庭を出入りしたら住んでいる人が気が付きますし、そんな意味もないと思います」
「なるほど」
結城は唸った。
「これは銀行の金庫泥棒ですよ」
秋菜が都に推理を披露した。
「きっと200人の人間は地下に通じる穴を掘っているんです。そしてその穴を掘り進めて近くにある銀行の地下金庫を」
「一番近い銀行って駅前だろ」
結城は突っ込みを入れた。
「800メートルは離れている。それに田舎の銀行だぜ。200人で徒党を組んで800メートル掘り進んで金庫破りをやるなんて割に合わねえよ」
結城は頭をかきかきした。
「私も違う思う」理子は言った。
「だって、バスで連れて来られた人、若い人もいたけど、おじいさんとか女の人とかもいたよ。でも中学生より若い子供とかはいなかったかな。強盗団だったらもっと怖そうな男の人たちがトンネル掘るんじゃない」
理子に言われ秋菜は「うーーーー」と悔し気に唸ってから結城を見た。
「じゃぁ、お兄ちゃんはどんな推理を信じるの?」
秋菜の問いに結城はため息をついた。
「そもそも、200人の人間は消えちゃいなかったんだよ。バスや車じゃなくて徒歩で帰ったのさ。それも少人数ずつ」
「そう思うのなら」
都はにっこり結城に笑った。
「確かめてみればいいよ。理子ちゃん。一週間分のファイルまだ残っているよね」

 翌日。常総高校探検部。
「というわけで」
教室に集まった探検部チーム、書道部チーム、美術部チーム、オカルト研チーム、北谷勝馬君とゆかいな仲間たちチームの前で都が宣言した。
「消えてしまった200人はどこに消えちゃったのか調べてみよう大会を始めます! いえええええい」
「いえええええええええええい」
とノリノリなのは勝馬君チームの舎弟の皆さん。不良チームだったが、全員勝馬の舎弟であり、北谷勝馬が尊敬する島都とあればたとえ火の中水の中な不細工少年探偵団(結城談)である。
「ま、いっか」書道部チームはノリノリではないが「探検部には文化祭で手伝ってもらったし」と協力はしてくれる事になった。
「ねぇ、千尋
探検部部員の薮原千尋に、美術部の女子たちは眼鏡を反射させてげへげへ笑っている。
「協力すれば結城君のデッサン取らせてくれるのよね」
「勿論」
千尋はぐっと指を突き出した。
「言っておくが下は脱がないからな。屈辱的なポーズも取らないからな」
結城が真っ赤になって突っ込みを入れた。
「ひひひひ、これはミステリーですね」
オカルト研の眼鏡女子は「ケケケケ」とちびまる子ちゃんキャラみたいな笑い声をあげる。
「そういうわけで、各チームは4時間かけて6倍速の24時間動画を見てもらいます。書道部は部員が多いから2チームに分かれてもらいます。書道部が土曜日、日曜日、勝馬君チームは月曜日、オカルト研チームは火曜日、美術部チームは水曜日、探検部は木曜日、金曜日は学外で秋菜ちゃん、理子ちゃんと秋菜ちゃんの友達の覚君。勝馬君の妹の彩楓ちゃん、私の弟の陸翔、あと都のお母さんチームで見てもらっています」
瑠奈が説明する。
「各チーム、その日建物から出た人数と入った人数を集計してください。4時間画面を見続けるので交代制をとってくれても構いません。ポテトチップとかは用意させてもらいました。おしゃべりしながら適当に数えてください」
 短縮授業で授業がない事もあって、13時から各教室でカーテンが閉められ、プロジェクターにセットされた動画が流れ出し、各チームはお菓子をポリポリしながらお喋りしながら動画を見て出入りする人間を集計していく。

 美術部の部屋では
「結城君の肉体美…ふふふふふふ」と部長の島村さやかが危ない笑顔を浮かべて、
「是非美術部特性のアイスティを飲ませてアドニスのような体をさらけ出してもらいましょう」
と後輩が危ない計画を共謀しながら、集計を取っていく。

「ほら起きないか…」
勝馬の舎弟チームでは中村れあがだらしのないつんつん頭の板倉大樹の頭を叩きながら、涎を誑した顔を叩き起こす。
「は、そうだ。薮原さんが合コンの場所をセッティングしてくれるんだ」
板倉は慌てて涎をふきふき画面を凝視する。
「チョリーッス」
千尋の親友の遠藤楓と友人の島野里美が顔を出した。
「なんか面白そうなイベントやっているっていうんで来ちゃいました」
「うおおおおおお、女の子さんだ」
勝馬の舎弟どもが一番いい椅子を少女たちに向けてお菓子も用意する。
「どうぞどうぞ。こちらへ」

「ケケケケケケケ」
「ケケケケケ」
「ケケケケケケケ」
オカルト研の連中は謎のコミュニケーションを成立させながら、集計を取っていく。

 書道部の益田愛は真剣な表情で画面を見て集計していく。そこへガラガラと千尋が現れた。
「えええ、おホン。せっかくなので他の部活との交流もかねて、ローテーションしてみましょう…」
「ええええっ、ホント。じゃぁ私結城君のいる部屋がいい」
「俺は高野さんがいる部屋」
黄色い声を上げる思春期の方々を千尋は宥めた。
「あ、ごめん。結城君は今美術部の部屋にいるの」

「ほら、勝馬君も都も起きて」
高野瑠奈が都と勝馬をゆさゆさしながら画面を見つめる。が、2人とも涎を誑して気持ちよさそうな夢を見ている。
「もう」
瑠奈はため息をついた直後、「あああああああああ」と結城の悲鳴が美術室の方から聞こえてきた。
「ふにゃ」
「なんだ不細工な声だなぁ」
勝馬は目をグシグシやりながら来た。
 瑠奈はその後やってきたクラスの男子たちと会話をしてポテチをつまみながらひたすら画面を見続けた。意外と楽しいものだ。こうやって会話するとクラスの人たちとの知らない面も見えてくる。
 空が夕方になり、やがて真っ暗になった。
「終わった」
千尋は疲れたようにキンキンになった目をぬれタオルでグシグシやる。
「どうだった。最終結果は」
随分げっそりとした声で結城は千尋に聞いた。
「うん。今陸翔君が電話くれた」
千尋はじっと結城を見た。
「木曜日が敷地入場50人くらい、出場7人、金曜日が敷地入場5人、出場4人、土曜日が敷地入場8人、出場6人、日曜日が敷地入場6人、出場7人、月曜日が敷地入場5人、出場3人、火曜日が敷地入場5人、出場3人、水曜日が敷地入場50人くらい、出場7人」
「ちょっと待ってくれ」
結城は声を上げた。
「つまり、1週間で出入りした人間は30人前後って事か。しかも入退場しているスタッフを換算すると、50人の人間は次の50人が来るまでの間、やっぱり出入りしていないって事か」
「うん」
千尋は頷いた。結城は戦慄した。
「うん」
都はじっと結城を見上げた。
「200人以上の人間が、この小さな施設の中に入って消えちゃった事は間違いないんだよ!」

(つづく)