少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

駅前書店の難事件FILE3(解答編)


駅前伊賀の国書店で発生した万引き事件。店を出ようとした千尋ちゃんのバッグから有名作家が作った「日本印刷記」がでてきて、千尋ちゃんは万引き犯として警察を呼ばれてしまった。千尋ちゃんは万引きなんてしていない。この店の中にいた誰かが千尋ちゃんのリュックに本を入れたんだよ。防犯カメラの映像のトリック…今、全部分かった。

・青木大和(25):店長
・小坂兵太郎(27):アルバイト店員
・山坂桜(21):アルバイト店員
・市倉一(17):高校生
黒野藤吾(25):ニート
・高山回(45):作家
・沖鮎子(30):主婦

5

「この事件…全ての謎が解けたよ」
都は目の前に事件関係者7人を見据えて言った。
「まず高山さん。貴方は千尋ちゃんに自分が書いた本を馬鹿にされて、千尋ちゃんを万引き犯に仕立て上げようと千尋ちゃんの背後に立ったよね」
都は高山を見つめた。
「冗談じゃない。あの子は僕が背後に立っただけですぐに振り返った。防犯カメラにも映っていただろう。僕に彼女のバッグに本を入れる暇はなかった」
「確かに」
都は千尋を見た。
千尋ちゃんは痴漢に遭った経験から知らない男の人が背後に立つと警戒しちゃう。それにその時リュックの中身を直後に結城君が確認している。もし高山さんが本を入れたとしたらすぐに気が付くはず。そして千尋ちゃんに高山さんが近づく気配はなかった。高山さんは犯人じゃないよ。千尋ちゃんのバッグに入っていた本にはあなたの指紋は出なかった。つまりあなたが持っていた本と千尋ちゃんのリュックに入っていた本は別物だったって事だよ」
都は言った。高山はそうだろうというように鼻を鳴らす。
「って事はあの本の指紋鑑定は出たの?」
沖鮎子が都に聞くと、都は頷いた。
「とっくの昔に出ているよ。長川警部お願い」
「おほん」
女警部は咳払いをする。
「当該本の指紋を検出したところ、青山さん、小坂さん、山坂さんの3人の指紋が出た」
「当然でしょう」
青山店長が唸る。
「僕らは店員なんだから本を並べる仕事をしているわけだし」
「知ってるよ」
都は言った。
「長川警部…それ以外の指紋は出たの?」
都が答えを知っている質問を敢えてみんなにする。
「ああ、薮原さんの指紋と黒野さんの指紋が出た。あと言いにくいんだが」
長川はじろっと黒野を見た。
黒野さん、あなた汚い所いじった手で本を触ったでしょう。多分あんたのものと思われる体液が検出された」
「ひひひひ、愛だよ」
黒野は笑った。
「桜ちゃんへの僕の愛。本が汚れていたら回収されて桜ちゃんの手が僕の体液に触れるでしょう」
彼のひきつった笑いを都はじっと見た。
「本当にそれが理由なのかな」
都は黒野を見た。
「桜さん。貴方は本当は黒野さんの事をストーカーじゃなくて仲間だと思っていたんじゃないかな」
都はじっと桜を見た。
「な、なに言ってるの」
桜の声が少し震える。
「だって桜さん、黒野さんをストーカーって言っていたけど、黒野さんが飲んでいる薬を精神病の薬だって知っていたよね」
桜がかすかに臍をかんだ。
「どうして一目ぼれされたストーカーが飲んでいる薬を精神安定剤だと知っていたのかな」
「ちょっと待てよ」
結城が桜を睨みつけた。
「山坂さん。あんた薮原の背後で本の出し入れをしてたよな。あんたは薮原に接触する前には『日本印刷記』のコーナーには拠っていないが、黒野とグルだったとしたらどうだ。黒野から本を渡されてそれを薮原のリュックに入れたとしたら」
「薮原さんは背後に女の子がたっても反応はしないからリュックに本を入れられるってわけか」
と桜を見る長川警部に対して
「違う…私はそんなことしてない」
と、桜は声を上げた。
「そう」
都は人差し指をぴんとさせ桜の訴えを肯定した。
「山坂さんと黒野さんがグルだったと仮定すると変な事があるんだよ。黒野さんが日本印刷記に触ったのは千尋ちゃんと山坂さんが接触するまさにその最中。そして山坂さんが黒野さんが触った本を店頭から回収したのはその直後。千尋ちゃんのバッグに入れる事は2人がグルだったとしても無理だよ」
「でしょでしょ」
黒野はへらへら笑った。
「となると、女性で薮原さんに接触した客は沖鮎子さんだけだが」
長川はびくっとする沖を見たが、
「でも彼女は『日本印刷記』のコーナーに一切近づいていない。それとも彼女も別の誰かと」
「ううん。この事件の裏側で山坂さんと黒野さんともう一人がグルで動いていたんだよ」
都は市倉一の前に来た。
「市倉さん。貴方は屑籠の中にタグを捨てていたよね」
都はくしゃくしゃになったタグを市倉の前で翳した。市倉はヒッと声を鳴らして後ずさる。
「このタグは未精算の商品に取り付けられていて、店の前のセンサーを通ればブザーが鳴る仕組みなんだけど」
都は目をぱちくりさせる。
「どうしてこれをあなたが捨てたのかな」
「まさか、商品からタグを取り外して万引きしようとしたか」
長川が市倉を見るが、都は首を振った。
「違うよ。市倉さんは商品を万引きするためにそんな事をしたんじゃない」
都は核心をついた。
「市倉さんは自分を万引きで捕まえさせるために、敢えてこのタグを手に店を出ようとしたんだよ」
都はちらりと驚愕する青山店長を見た。
「どういうことだ」
長川警部が都を見る。
「簡単な事だよ。市倉さんは敢えて防犯カメラに映る場所で立ち読みして、その間に黒野さんが本を汚し、桜さんがそれを書店の事務室に持っていく。その後で市倉さんがわざとセンサーで引っかかって店員に呼び止められ、万引きの疑いで身体検査を受ける事で、ある事が明らかになるはずだったんだよ。ある恐ろしい犯罪をね」
都は黒野と桜と市倉を順々に見回した。
「前にこの店で万引きで捕まったことがある市倉さん、あなたはセンサーが鳴ったときに絶対に店員さんに捕まる自信があった。だからリュックサックの中にある仕掛けをしておいたんだよ」
「あの右翼っぽいバッグの中身か」
結城が声を上げると都は「うん」と頷いた。
「これは、青木大和店長、あなたに事務所にあった本を市倉さんのリュックにねじ込むようにする心理的誘導だったんだよ。でも3人にとって予想外だったのは千尋ちゃんが店のセンサーを拾っちゃったこと…」
都の話に青木大和はガタガタ震えだした。
「原因は多分小坂さんのタグの外し忘れだと思う。でも青木店長は千尋ちゃんが万引きをしたと強く疑って事務所に連れて行った。そして千尋ちゃんを部屋に待たせてバッグの中身を見て万引きしたはずの商品がなく、タグの取り外しを店側が忘れていたことに気が付いちゃったんだよ」
都は青木を睨みつけた。小坂がおろおろ青木と都を交互に見る。
「万引き冤罪で事務所まで連れて行って荷物検査をしたうえで間違いでしたなんて大きな不祥事だよね。万引きGメンとかが土下座しても訴えられる様子がテレビでやっているのを見たことがあるし…。青木店長あなたは凄く焦ったと思う。そして」
都は言葉を切った。ほわほわした口調に怒りが混じった。
「そんな青木さんに悪魔が囁いた。もう引き返せない。こうなったらこの女の子を本当に万引き犯に仕立て上げちゃえって」
「な‼」
都の言葉に勝馬が憤りの声を上げる。
千尋ちゃんのバッグには駅前の宗教団体が配っていた本、右翼グッズがあった。この子もそっち系の女の子なのだと思った青木店長の目に棚から回収された『日本印刷記』という本が目に飛び込んだ」
「お前」
結城が青木を睨みつけた。
「この事件で万引きなんて誰もやっていなかった。ありもしない万引き事件をでっち上げて千尋ちゃんを犯罪者に仕立て上げようとした犯人は」
都は大きく息を吐いた。
「青木店長あなたです!」
「全部推測だ!」
青木店長は絶叫した。
「この子は私を陥れようとしている。万引き犯の友達を庇うために」
「そういうのなら聞くけどさ」
都は言った。
「防犯カメラを見る限り、『日本印刷記』に黒野さんが触ったのは1回だけ。そして黒野さんの体液が引っ付いた本を桜さんが事務室に持って行っている。千尋ちゃんが『日本印刷記』に触ったときにはまだ黒野さんは店にも来ていなかった。そして千尋ちゃんはこの時から一度も『日本印刷記』のコーナーには立ち寄っていないんだよ」
都は桜を振り返った。
「桜さん…あなたはあの時確かに黒野さんの体液で汚れた『日本印刷記』って本を、事務室に持っていきましたよね」
「はい」
桜が目に怒りを湛えて青木店長を見ながら言った。
「そうなんだよ。これが証拠なんだよ。私も千尋ちゃんがセンサーに引っかかった時点であの本が千尋ちゃんのリュックに入っていたと思っていた。だから最初は誰かが千尋ちゃんを陥れるために千尋ちゃんが立ち読みしている最中にリュックに本を入れたのだと思ってその方法を考えた。でも違ったんだよ」
都は言った。
「本は千尋ちゃんのリュックとは別ルートで事務室へと入っていった。そしてその本がなぜか千尋ちゃんのリュックに入っていた。それは千尋ちゃんのリュックを別室にもっていってチェックした青木店長…あなたしか出来ない」
青木店長が真っ青になって下を向く。
「じ、じゃぁ、店長が私にあの本を無理やり触らさせたのも」
千尋が都に聞く。
「うん。千尋ちゃんの指紋を付ける事によって万引きされたはずの本に千尋ちゃんの指紋がない矛盾点を誤魔化すためだよ」
都は青木店長を睨みつけた。
「ちょっと待ってくれ」
結城が都に向かって挙手する。
「なんで山坂さん、黒野さん、それから市倉さんは、こんな店長の犯罪を暴くようなことをしたんだ」
「それは」
都は市倉たちの方を見た。
「市倉さんも千尋ちゃんのように万引きをでっち上げられたからじゃないかな」
都に指摘されて市倉少年は押し黙ってしまった。
「そうよ」
桜は彼の代わりに進み出て都に言った。
「市倉君も私もこの店長に陥れられて、人生を滅茶苦茶にされた被害者だった。だから私たちは店長の悪事を白日のものに晒すために、このトリックを仕掛けたのよ」
桜の痛恨そうな顔が全てを物語っていた。

6

「僕が話しますよ」
黒野がサングラスを外し穏やかな口調で言った。
「桜さんは僕にとって救い主みたいな存在なんです。僕は極端な人見知りで外に出る事も恐怖でできない引きこもりだった。そんな僕を連れ出してくれたのが桜さんだったんです。桜さんは親が全然聞いてくれなかった僕の苦しみを黙って聞いてくれました。僕の悩みなんて人からすれば大したことはない…そう言って馬鹿にせずに聞いてくれて…そして僕が外に出て働けるように教会での簡単なボランティアに導いてくれました。ミサの準備や食事の準備…本当にお邪魔虫だったと思うけど、みんな僕に感謝してくれた。人から感謝される悦びを感じる僕を、桜さんは一緒に祝福してくれたんです」
涙ぐむ桜を見て黒野はため息をついた。
「でもそんな桜さんが教会に来なくなりました。僕は心配になったのですが牧師は彼女は卒業論文で忙しいのだろうと僕を安心させました。でも違った…僕が続けていた夜のランニング。その途中で公園で泣いている桜さんを見かけたんです」

「どうしたんですか。桜さん」
黒野が声をかけると、公園のベンチで桜は声を震わせた。
黒野君…死ぬって…どういうことなのかな。自殺したらやっぱり天国には行けないよね」
「桜さん…ダメですよ。死ぬなんて…何があったのか教えてください」

「桜さんがあの店長に何をされたのか…僕はこの時知りましたよ」
黒野は憎しみのこもった目で青木店長を睨みつけた。
「まさか…あのバカッター事件も」
結城が桜に聞くと、桜は涙をボロボロ流しながら告白した。
「ええそうよ! あいつは無理やり暴力で私を下着姿にして、あの写真を撮影させたのよ。そしてその写真を手にこう言ったわ。『バイトをやめようなんて思うなよ。やめようとすればこの写真をネットに挙げてお前を社会的に破滅させてやる。だから無休で毎日開店準備から閉店準備まで大学もやめて働くんだ』って」
「なんて人」
瑠奈がショックを受ける。
「嘘だ…俺はそんなことをしていない」
青木が絶叫すると結城も疑問点を明らかにする。
「確かにこんな写真を撮ったら店にとっても自殺行為だ。なんでそれを青木店長は挙げたんだ」
「実はこの店営業成績が悪くてな。チェーン解消を本社から通告される寸前だったらしい。売り上げを確保できないなら従業員をタダ働きさせればいい。そんな発想だったんだろう。だがそれでも売り上げは落ち込む一方…だから彼女のバッカッター画像をアップしたんだ。そうすれば自分の店長としての経営ではなく彼女のバイトテロのせいに出来るからな」
「信じられない…これで山坂さんは大学を辞めさせられているんでしょう。この店長は悪魔よ!」
千尋は憤った。
「桜さんはアパートも追い出され生活基盤も奪われ、何もかもを失っていました」
黒野は言った。
「だから僕は桜さんを教会に連れて行って落ち着かせました。そんな時に、市倉君…君が来たんだ」
黒野は市倉を見た。

「桜さん…僕が応対します」
教会の中で桜にそう言って立ち上がる黒野。桜がココアを両手に引き留めようと手を制して
「大丈夫。桜さんが僕にしてくれたことをするだけです」
と言った。そして市倉の前に立った。
「牧師は今いませんが僕でよければ話を聞かせてください」
「憎しみで…壊れそうなんです」
市倉は涙を流した。
「僕は今学校を辞めさせられてアルバイトをしていますが、職場でいじめられています。本当は僕は高校で吹奏楽部を頑張るはずだったんです」
市倉は手を胸で組んで声を震わせた。
「でも、僕は万引きの冤罪を受けて…学校を退学になりました。駅前の書店の店員が僕の本のタグを外し忘れて万引きの疑いをかけて、それが間違いだとわかった時、僕のカバンに本をねじ込んで警察に通報したんです。誰も僕を信じてくれませんでした。僕は、吹奏楽部の夢を奪われて地獄みたいな16歳を過ごしています。もう死んでしまいたい。職場の上司にもそうしろって言われていますし…もう僕は神様にしか助けを求められないんです」
市倉は涙を流した。
「自殺したら人は地獄へ行くって言いますよね。お願いです。神様…僕を地獄には連れて行かないでください」
「神様はあなたを許します」
黒野は怒りで震えていた。
「でもあなたは死ぬべきではない。戦いましょう。貴方を地獄に落としたあの店長に神の裁きを与え、君やそこの女性の尊厳を取り戻すのです! 僕はその為にならなんだってやります! なんだって!」

「その言葉は本当でした」
書店の中で市倉は都に言った。
黒野さんは僕たちの為に変質的なストーカーになりきってくれました。僕は職場をやめて教会に保護され、そして桜さんと黒野さんと連絡を取りながら、店長を裁く計画を練っていたんです」
「じゃぁ、千尋さんが無実だとあんたらは知っていたのか」
勝馬が大声をあげた。
「申し訳ありません」
桜が千尋に頭を下げた。「巻き込むつもりはなかったんです」
「だから警察に通報すべきだって言ったんだね」
都は桜に言った。「千尋ちゃんを助ける為に…。そして黒野さんや市倉さんも千尋ちゃんの無実を証明するために演技を続けた。黒野さんは変態ストーカー、市倉さんはそっち系の人の演技を」
黒野も市倉も千尋に頭を下げた。
「ごめんなさい」
「どうか許してください」
「いいよ」
千尋は目頭を濡らしながらも気丈に頷いた。
「私も貴方たちの仲間になっていたかもしれないし」
「ふふふ、俺はこいつらに嵌められたんだ」
店長は狂ったように笑った。
「嵌められたんだろう。でっち上げ何だろう。じゃあ俺は無罪だ」
「何を言っているの」
都の声はいつものほんわかした雰囲気とは全く違う想像を絶する冷たさだった。
「多くの人の人生を滅茶苦茶にするでっち上げをした犯人はあなたですよ。この人たちがこんな計画を立てていたとしても、実際にでっち上げて私の友達を犯罪者にして人生を滅茶苦茶にしようとしたのはあなた…無罪なわけないじゃん」
都は冷たい声で冷たい表情で店長を見下ろす。
千尋ちゃんがどれだけ怖かったか…あなたの罪は凄く重いよ。そしてこれからあなたには重い罰が下るから。裁判所と社会の両方から」
「お前がやったことは逮捕監禁罪と偽証罪に問われる。さらにお前の家のPC調べれば山坂桜さんへの強制わいせつ罪の証拠も出るだろうな。確実に実刑判決を受けるだろう」
長川の宣告に店長は「うわぁあああああああ」と頭を抱えて座り込んだ。それをその場にいた全員が軽蔑の目で見降ろしていた。

「警部さん。あの人3人は何か罪に問われるの?」
千尋が事情聴取の為警察のワゴン車に乗せられるのを書店店頭で見送りながら聞いた。
「いや。あの3人のやったことは店の商品からタグをブチっとやった事だけだ。器物損壊だとしても起訴猶予確実だろう。厳重注意処分だけして帰る事になるさ」
「良かった」
千尋はため息をついた。
「今回の事は多分大きく取り上げられるだろうし、退学処分下した学校も謝罪して取り消しをしてくれるだろうな。あれ…都は」
長川が都を見つけた時、彼女は車に誘導される黒野藤吾に駆け寄っていた。
黒野さん」
「はい」
黒野が都を振り返った。
「今回の事はやり方は良くなかったのかもしれないけど、桜さんと市倉君を救ったのも黒野さんなんだよ。ううん、千尋ちゃんも」
都はにっこり笑った。
黒野さんが計画を立てなければ私は千尋ちゃんを助けられなかったかもしれない。ありがとう。また私たちのいる社会に戻ってきて! 黒野さんは他の人を助ける力を持っているんだから」
黒野は都の笑顔を前に顔を震わせ涙を流した。そして言葉を返す事も出来ず一礼して車に乗り込んだ。
 走り出す車を見送る都に結城は聞いた。
「お前、いつからあの3人に気が付いていた。山坂さんが精神病の薬を持ち出す前から気が付いていたよな」
「ほえ」
都が目をぱちくりさせた。
「とぼけんなよ。だから長川警部を呼んだんだろ。県警本部の人間が地方の万引き事件に顔を出すなんてあり得ないからな。お前最初から警察を介入させるつもりだっただろう。だからあの店長を必死にレジに止めておいたんだ。証拠隠滅させないように」
「店長が犯人だってわかってたのは」
都は言った。
「この事件で千尋ちゃんのバッグにはウヨクっぽいアイテムと参考書と日本印刷記が中に入っていたことになるよね。じゃぁ、なんでこれが元々の千尋ちゃんの持ち物だと疑わなかったんだろう」
「あ‼」
結城が声を上げた。「電子タグか」
「でも出てきた日本印刷記には電子タグが付いていなかった。多分この本から市倉君は電子タグを抜いて持っていたんだよ。という事は千尋ちゃんは日本印刷記でセンサーに引っかかったんじゃない。参考書のタグの抜き忘れなんじゃないかって思ったんだよ」
「つまり、あの店長は千尋がちゃんと参考書を買っていたことを知って陥れたってわけだな」
「うん、日本印刷記にタグがない以上、参考書の方が万引きされたものかもしれない。でも店長はレジの小坂さんに確かめもせずに参考書を万引きされたものという疑いから外した」
「最初からわかっていたわけか」
結城はため息をついた。
「うん、黒野さんたち3人の計画に気が付いて、そこから千尋ちゃんを助けられるかもって思って、黙っていたんだよ。だから勝馬君が土下座しちゃった時には焦っちゃったよ」
都は苦笑した。
「あいつの土下座無駄だったのか」
結城は少し残念そうな声を出した。店頭で勝馬は風邪ひいたらしくくしゃみを連発させている。
「ううん」
都は首を振った。千尋勝馬ティッシュを渡そうとしている。
勝馬君が千尋ちゃんの為に一生懸命になった事は、千尋ちゃんを安心させたと思う。だって千尋ちゃん凄く怖かったはずだもん。私なんかよりも何倍も千尋ちゃんを安心させたと思う」
都はくしゃみをし続けて千尋から「汚いーー」と言われる勝馬を見た。瑠奈がその横でホットコーヒーを勝馬に奢っている。両手に花状態。
「そうだな」
結城は言った。
「さて、その格好いい英雄には追試を受かってもらわないとな。勿論お前もだ。本も手に入ったし、さぁ追試頑張るぞ」
「ぶえええええええ」
この書店の最後の客の美少女は半泣き状態で結城に連行されてみんなの所へ向かった。

おわり