少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都劇場版2 岩本承平の殺戮 2


3

「実はもうすぐつくば市で国際燃料資源会議が行われるのですが、その会議に出席する電経グループ社長三橋信一を私は殺そうと思っているのですよ。この男は女性社員を4人も過労死させた過労死規則、厳十戒を作っていた確信的殺人者でありながら、刑事罰は受けていないですからねぇ」
岩本は淡々と発言する。都は彼を睨みつけた。
「ですが、都さん、あなたはテレビ局の殺人事件を阻止できなかった悔しさにさいなまれているでしょうからリベンジの機会を与えたいと思ったのですよ。だってあなたはいつかこの僕を捕まえて終わりにしてくれるであろう唯一の存在なのですから」
平成孝也の顔が不敵に笑う。都はじっと殺人鬼を見つめて言った。
「一つ聞いていいかな。岩本君、今まで大勢の人を殺してきたけど、それは岩本君なりの理由があったからだった。今回の事件みたいにゲームのように殺人事件を起こして、私にわざわざ殺人を予告するなんて事をした理由絶対あるはずだよね」
「ふふふ」
岩本は曖昧に笑うだけだった。
「僕があなたに伝えたかったことはこれだけです。12月8日土曜日。つくば市国際会議場で開かれる国際燃料会議の会議場で、電経グループ会長三橋信一を殺害する。その予告です。あと、今から1時間は通報を控えていただきたい。1時間経てば長川警部に通報して、この殺人予告に対処するための対応をしてください。瑠奈さんのバイト先の店長の命はその担保にさせていただきます」
岩本はポケットからイヤホンを取り出して喋りだした。
「良かったですね。あなたがハラスメントをしていた女の子の友人が慈悲深い人で。警察に助けられたらあなたが今まで従業員の女性にしていたハラスメントを全て告白し、全財産を被害者に均等に振り込んでください。もし罪や償いから逃れようとしたり被害者の尊厳を踏みにじるようなことをしたら…僕にはすぐにわかりますからね」
岩本はイヤホンを公園の土の上に落とすと靴で踏みつけて壊した。そして顔を上げると都と目を合わせ、ふっと笑った。
「都さん…期待していますよ」
岩本はそういうと暗くなりつつある公園の闇に向かって走り出した。
「岩本君!」
都は声をかけたが結城に止められた。
「この調子だと奴を暗闇で見つけ出すのは不可能だ。それに俺たちは今人質を取られているしな」
高圧線鉄塔には影になった不気味なテルテル坊主が見える。

 1時間30分後、警察のパトカーのサイレンが響いた。電力会社の職員と消防が吊り下げられたままの店長を励ましている。
「被害者は命には別状はありません」
鈴木刑事が長川に伝える。
「これだけの事をして都を呼び出すんだから、間違いなく悪戯とかの類ではない…本物の岩本承平だな」
女警部は険しい顔のままだった。
「奴はまた殺人を犯すつもりか」
長川は都に聞いた。
「うん、間違いない。岩本君は三橋社長を土曜日の重要な国際会議の場所で殺害するつもりだよ」
「日本が議長国の重要な会議だぞ。今度は世界中に生の殺人を配信するつもりか」
長川はため息をついた。
「そんなことは絶対にさせない…」
都は鉄塔を見上げながら言った。
「そうだな。今度は絶対阻止しないとな」

 茨城県警本部は水戸市の南にある県庁のすぐ横の新しい建物にある。
「岩本承平、現在23歳。幼いときに母親から育児放棄され、虐待事件で近年有名になった恩顧園という孤児院で幼少期を迎えています。小学校中学校といじめに遭っていたようで、中学卒業後、栃木県の株式会社「世界商事」に入社しますがここでも虐待を受けていたようです。今年の初めにこの会社の社長夫妻や幹部が取引先とのトラブルで会社員の19歳の女性を殺害。彼女の復讐を動機として岩本は社長夫妻他1人の幹部と栃木県警警部鷺沼敦を殺害しています。4人を殺害した容疑で死刑判決を受けていますが、別のカルト教団の東京拘置所襲撃事件の混乱状況下で脱獄。以来殺人を繰り返し、被害者は既に100人以上。我が国の戦後史上最悪の殺人被害者を出しています」
捜査一課本部で長川朋美警部が説明をした。
「岩本承平の容姿ですが、冬山で少女を救ったことによる凍傷で顔が崩れて骸骨と形容されるほど特徴的な表情をしています。一見すると目立つように見えますが厄介な点は、この男は別の人間の顔を酸で焼いたり皮と肉をそぎ落とすなどの残虐な方法で自分の見せかける、つまり他人を無理やり変装させるのに適した顔だという事です。さらに彼自身別の人間に成りすます変装の名人であるという非常に厄介な特技を持っています」
「非常に厄介だな」
参事官がため息をついた。
「まるで神出鬼没のアニメの世界の怪盗じゃないか」
「いいえ。この男はアニメのように誰にでも変装できるわけではありません。まず身長が182㎝と大柄でこの体格の人間が変装できる人間は日本人でも限られます。さらに最大の難解としてこの男にメイキャップの技術があるとは確認されず、変装相手を殺害し、その頭部を3Dスキャンしたゴムマスクを着用し変装しており、つまりその場で次々別の人間に成り代わるのが難しいという事です。つまりこの傾向を知っていれば十分対処は可能だという事です。さらに岩本は過去にハラスメントや暴力によって人を死に追いやったり性暴力をふるいながら罪を償っていない人間のみを殺害するという傾向があり、そういう事をしていない人間に成り代わることは現実的に有り得ません。つまり、我々はこのような反社会的な人間を事前に抑えておき、奴の変装を不可能にすることが、殺人を阻止し奴の動きを封じる重要な切り札になると考えられます」
「警備は主に警務部の仕事だ」刑事部長は言った。
「我々の仕事は岩本が変装しそうな人間を奴の先手を打って保護し、奴の動きを封じ、しっぽを出したところを確実に逮捕するのだ」
「はいっ」
県警の刑事たちは立ち上がった。

 12月7日金曜日早朝。
 警察車両のリアシートに都と結城を乗せ、長川と鈴木は茨城県ニュータウンの道路に車を走らせていた。
「岩本君が殺害して変装しそうな人間で三橋社長と当日国際会議に出る人が2人いるんだね」
都は言った。
「その人物にこれから会って、なんか怪しい点があれば指摘してもらおうと思ってな」
長川は言った。
「学校に直接頼んだから公欠扱いだ。いいだろう」
「でも眠いよー」
都はうつらうつらしている。その家は文化住宅で家の前には警察官が2人待機している。

「あなたが佐々木穣一専務ですね」
「ええ」
リビングのソファーで眼鏡をかけたデブの男、佐々木穣一(51)はパジャマ姿で冷や汗をかいている。
「ええと、今日は会社に行かないんですか?」
「冗談じゃない。もう社長のそばになんか行きませんよ。あの社長のしでかしたことに巻き込まれて殺されたんじゃたまったもんじゃない」
「社長のしでかしたことって、下儲け会社の施設で行われたパーティー会場で、障害がある従業員を一方的に殴るボクシング大会やって、その従業員を死亡させた事件ですか」
「あれは従業員の死亡と因果関係はないでしょう? 警察もそう考えて不起訴処分にした。私は死んだ従業員に『いやならやめていい』って言ったら、『僕はボクシングはうまいんですよ』と言ったんです。彼は楽しそうに社長たちと戯れていました」
「刑事さん、この人の言っている事は本当です」
妻がお茶を出しながら言った。
「この人は私にも娘にもとても優しくて、虫も殺せないような人なんですから」
「奥さん、私たちは別に旦那さんを糾弾しに来たんじゃない。その命を守るために来たんです」
女刑事は理解を求める。「ですから、可能な限り協力していただかないと」
「お姉ちゃん…」
小学生のランドセルを背負った女の子が都の手を取る。
「パパ殺されちゃうの?」
都が目をぱちくりさせる。
「みどりが学校に行っている間にパパは殺されちゃうの?」
凄く心配そうにしている。都は優しくみどりの頭をなでなでした。
「大丈夫だよ。お父さんは絶対殺させはしないから…約束する」
「うん」
都はみどりと指切りげんまんをした。
「指切りげんまん、嘘ついたら、ハリセンボン飲ます、指切った♪」
結城はその様子を微笑ましく見ていた。奥さんが娘の手を取って玄関に向かう。
「娘は私がいなくなったら悲しむ。会社は俺がいなくなったところで悲しみはしない」
「確かにそうですね」
結城は言った。
「でもあなた方に殺された従業員の野畠和人さんだってそう…」
「彼は天涯孤独だった」
佐々木はぴしゃりと言った。
「悲しむ人間はいなかった。だからあの件は終わったことだ」
都は振り返った。彼女はさっきまでリビングのピアノの上の写真立てを見た。楽しそうにみどりと滑り台で遊んでいる写真を見ていいお父さんだと思っていたのに、こんな言葉を聞いてとても悲しくなった。

「奴は大柄だし、十分岩本が変装できる人間ではあるな」
結城は車に乗り込みながら都に言った。
「でも当日佐々木さんは会場にはいかないつもりみたいだし、それに奥さんとみどりちゃんを騙すなんていくら岩本君でも無理なんじゃないかな」
「確かに」
結城はため息をついた。
「佐々木の仕草や声を外部から観察する事は可能かもしれないが、家族まで騙すなんてことは出来ないはずだしな…でもよ…脅されているって可能性はないか?」
結城は都に言った。
「みどりちゃんは今日も学校へ行くんだよ」
都は目の前を取っていく集団登校の黄色い帽子の列を見て言った。
「安全な学校でなら、先生に助けを求める可能性だって十分あるはずだし」
「違うか…警部。もう一人は」結城が聞く。
「すぐ近くだよ」
長川は運転席に座った。「もう一人は栗原安美。三橋社長の個人秘書だ。今日安全のため送って行く事になっている」
「安美って…」

車が駅前の高級マンションの前に停車すると警官2人に囲まれて若い女性、【栗原安美 社長秘書 27】がスーツでびしっと決めて車に向かって歩いてきた。
ごきげんよう
栗原は余裕の表情だった。多分自分が狙われている本人ではないから警官が護衛すれば岩本も他の方法を探るだろうと思っているのだろう。
「ふふふ、良いわねぇ。警察官に護衛してもらって楽に会社に行けるんですもの」
結城がさっき聞いたところによればこの女もパーティーの余興のボクシングで栄養不良でやせ衰えた野畠和人にボクシングをするように強要した一人らしい。それなのに他人事と来たものだ。
「あら、あなたたちは? どう見ても高校生とかにしか見えないけど」
「いろいろ捜査に協力してもらっているんです。一応仲良くしてあげてください。あなたの命を守ってくれる高校生ですから」
長川は苦笑した。
「そう、でも降りて頂戴ね。私、もうすぐ社長夫人になるんだから優雅に行きたいの。あ、会社行く前に引きこもりの馬鹿専務の所へ。仕事書類を貰いに行きたいの」
「すまんな都、結城君。一応警護対象者だから」
長川はそう言って2人にタクシー代と食事代に5000円を渡した。その間鈴木と警官が油断なく周囲を見張る。
 走り去っていく車を見送りながら、5000円札でパフェ食べようとはしゃいでいる都を他所に結城はため息をついた。
「あの華奢な体形に岩本が変装するのは無理だな」

4

 12月8日土曜日。
 テレビのニュースでは世界燃料会議の様子が生中継され、最新鋭のセキュリティー機械によって武器の持ち込みが厳しく制限され、さらに顔認証システム、指紋認証システム、網膜認証システムで変装した上での入場は不可能な最新技術の説明がなされていた。
「なるほどな」
結城は会場の前でため息をついた。エントランスホールの前に作られたセキュリティーゲートに招待客が厳重さのあまり戸惑っているのが見える。
「Ⅹ線検査では招待客の持ち物が全部スケスケに透過されてチェックされているし、警官は3D拳銃やその分解した部品を頭に叩き込まれた人間がチェック、顔認証や指紋認証、網膜認証で徹底チェックとくれば岩本の変装がうまくいったとしても入れないわけだ」
「おかげで私も入れないんだけどね」
都はぶーと顔を膨らませる。
「私は社長夫人よ!」
栗原安美が傲慢でつんつんした態度で警備の警官に迫るが、警官に持ち物のバッグを見せるように言われて、しぶしぶ見せた。
「ほら、専務が設計した新しいハイドレート燃料精製工場のジオラマ模型よ」
栗原は模型を見せると警察官はスマホで何やら確認し、画面とジオラマを見比べてこれを通した。
「私も言ってこようかな」
都はずかずか警官に「私は社長令嬢よ、入れてくれないなんてあなたたちを首にしちゃうわ」と精いっぱいガブリエルのママみたいな声を作ったが、警察官は「ハイハイ」と言って無視した。さらにむくれる都ちゃん。
「パッチワークだらけのこの服で社長令嬢は無理だべ。大体社長は独身。さっきの秘書は愛人って噂だ。それにしても…さっきの秘書がジオラマ持ってきたって事は…やっぱり専務はこないんだな」
結城はため息をついた。
「あ、長川警部」
都は手を振った。知り合いの女警部がにこやかに都の手を握る。
「悪いな。協力させちまって」
「大丈夫だよ。私と長川警部の関係はねっとりした関係だし、岩本君にこれ以上人殺しをさせたくないしね」
都は言った。
「こいつ、まだ謎が残っているって考えているんだ」
結城はため息をついた。
「岩本が都に殺人を予告した理由か」
長川はため息をついた。
「テレビ局の時からも思っていたんだけど、岩本君はこんな愉快犯的な殺人ゲームなんてする人間じゃない。人を殺すときには本当に人目につかない方法であっという間に殺しちゃう」
「それじゃぁ飽き足らなくなったんだよ」
長川は言った。
「人を大量に殺し過ぎてただ殺すだけじゃつまらなくなった。だから都と警察に挑戦しようだなんて思い立った」
「そうかな」
都は思い出していた。初めて岩本君の犯罪を暴いたときだった。彼は泣きながら都に言った。
―おかしいですよね。自分がどんなに虐待されても悲しくなかったのに、理沙さんを殺された時、よくわからない心がずたずたにされるような何かが湧いてきて、止められないんです―
「岩本君は絶対に殺人を楽しんだりする人じゃない。そう見せかける事には何か恐ろしい理由が隠されているんだよ」
都は必死で考えていたが思い浮かばないようだ。彼女が焦って思案するなんて珍しい。完璧な警備のはずなのに、そんな彼女の仕草が結城を不安にさせた。

「とととと」
封鎖された道路の前で婦警に止められ薮原千尋はキムコの原付を止めた。
「この先は立ち入り禁止なのよって、千尋ちゃんじゃない」
中村桃子巡査が笑顔で前の事件で知り合った女子高生に挨拶した。
「中村巡査…愛奈ちゃんは元気ですか」
「ええ、今日は林間学校に行ってるわ」
「でもすごいですねぇ。20歳なのに愛奈ちゃんを引き取るなんて…。あ、この先に私の友達の島都ちゃんがいるんだけど」
「だーめ」
中村はきっぱり言った。「携帯電話で呼び出したら?」
「それしかないわね」
千尋は遊歩道に原付を転がして携帯電話で都を呼び出した。
「都…どう、腹は減っては戦は出来ぬ。カレー弁当買ってきたよ」
「うおおおおおおお、お昼ご飯だぁぁああああああ」
都が規制線の中から飛び出してきた。結城がはほはほと追いかける。
「お疲れーーーー」
千尋が手を振った。

燃料会議が盛大に始まり、各国の担当官がスピーチをしている。その際中、【三橋信一 電経グループ社長 44】は警官が守り固める控室で落ち着かない感じで座り込んでいる。その時ドアががちゃりと開いた。
「信一さん、私よ」
艶っぽい声で栗原が言った。
「良かった。君か」
「会いに来ちゃったわ」
うふんと栗原は目配せすると三橋は後ろの警護の警察官に
「君たちは外で待っていてくれたまえ」
と促した。

勝馬君、急いで急いで」
結城の従妹の結城秋菜が国道を走るバイクの後ろで北谷勝馬を叱咤する。
「秋菜ちゃん。中学午前授業サボっていいのかよ」
勝馬君だって補習授業サボっていいの?」
2人でハモった。
「「いいに決まっている。都さん/師匠が俺/私の力を必要としている!」」

「なるほどねー。燃料会議ってこういう会議なんだぁ」
都が遊歩道のベンチで千尋スマホを覗き込んで感心したように言った。
「石油が枯渇したら癌の薬やプラスチックもなくなってたくさん死んじゃうから、車動かす燃料はメタンハイドレードに変えていこうっていう会議見たい。メタンハイドレードっていうのは海の底にある新しい燃料で、日本はその埋蔵量は凄いんだって。そして掘り出したメタンハイドレードを燃料に精製する工場が今度つくばに完成するこの工場ってわけ」
都はタップされたスマホの液晶画面に書かれた工場の想像図を見た。都はその工場の完成予想図を見ていて、何かを思い出していた。それは…」
「結城君!」
都は走り出した。物凄い形相の都に結城は大慌て。千尋に食べかけのカレー弁当を渡して都の後を追いかける。規制線を飛び越えた都は携帯電話で長川警部に
「長川警部! 今すぐ栗原秘書を捕まえて!」
「どうしたんだ都」
長川警部がエントランスで携帯電話に出た。都は絶叫に近い声で
「栗原秘書が三橋社長を殺すんだよ!」
「なんだって?」
唐突な都の発言の直後、エントランスのセキュリティから出てきた栗原秘書を見かけた。
「栗原さん! ちょっと待ってください」
長川が呼び止めた直後、栗原は手にした銀色の3D拳銃を長川に向けた。長川は咄嗟に柱に隠れるが、そのすきに栗原は走り出し、エントランスから入ってきた都を突き飛ばした。
「待て」
都を突き飛ばされた怒りで結城が追いかけようとするが、栗原は銃を結城に向け、都は咄嗟に結城の足を掴んですっころばせた。
「ぐあっ」
栗原は規制線から飛び出すと、キムコにまたがろうとしていた千尋を突き飛ばし、原付バイクを奪って走り出した。
「きゃっ」
千尋が突き飛ばされるのを見た勝馬と後部席の秋菜。
千尋さん」
秋菜が飛び出して倒れている千尋を助け起こす。
「おのれーーーーー。よくも千尋さんをおおおおおおおおお」
勝馬がバイクをふかして追跡する。
 長川は千尋に駆け寄りながら無線で指示を出していた。
「都! 大丈夫か、都! 都!」
結城が都を助け起こすと都は結城の袖をつかみ上げてかすれた声で叫んだ。
千尋ちゃんが見せてくれた新しい工場。あの工場の建物がいつかテレビで見た3D拳銃の分解図に…そっくりなんだよ!」

 千尋のバイクをパクった栗原は遊歩道を爆走していた。大勢の休日の歩行者が慌てて避けていく。
「待て待て待て!」
勝馬がバイクでそのあとを追いかける。出力なら勝馬が圧倒的優位だが、栗原は原付の小回りを生かして人の間をすり抜ける。周りの人にぶつけない為に勝馬は見失わない程度に追跡するのがやっとだった。センターの歩行者天国から階段を無理やりガタガタ下って、バスターミナルの所に出た時、バスターミナルのサークル内にパトカーが入り込んで包囲しようとする。栗原は悲鳴を上げながら歩道を突っ走り、いきなりサークル北側の3車線の道路に飛び出した。
「うわぁああっ」
赤いミニバントラックの運転手が悲鳴を上げ、車が横転する。それを尻目に原付バイクはさらに道路を逆走し、ミニバントラックを避けようとした路線バスが中央分離帯に、さらにバスを避けようとした白いセダンが飛び出した原付に驚いてスピンし、セダンのトランクに乗り上げてピンクのミニが横転する。
「無茶しやがる、死ぬ気かよ」
勝馬は路側を走って信号が赤なのを確認して、原付と一緒に本来の車線に入り込み、そのまま都市トンネルに入った。赤いライトが灯るトンネルを爆走する勝馬
「そこのバイク、路肩に避けて止まってください」
後ろからパトカーがサイレンを鳴らしていく。
「逃げられんなよ、アブねぇぞ」
勝馬はパトカーに道を譲った。

 控室の前で長川警部は警備部の警官に警察手帳を見せた。
「長川。ここは警備部の管轄だ。捜査一課は引っ込んでいろ」
「社長の無事を確認したい。いいから早くしろ!」
長川の剣幕に押されて警備部の警部は「社長、失礼します」とドアを開けると、そこでは脳みそを撃たれて目玉が飛び出した社長の射殺体が転がっているのが見えた。
「何」
警備部の連中がうろたえ震える声で電話する中で、女警部は歯ぎしりした。
「遅かった」