少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

劇場版少女探偵島都2 岩本承平の殺戮1

少女探偵島都劇場版②
「岩本承平の殺戮」導入編

1

 雨が降っている。土砂降りの雨のせいで水たまりがあちこちに出来ていて、空気が氷のように寒い。
 そんな中で一人の大柄な男が茫然と立ち尽くしていた。彼の目の前には一人の小柄な男が倒れている。顔はぼこぼこで口から流れた血が水たまりに流れている。
「和人さん」
大男は彼の手を握った。和人は弱弱しく握り返す。
「どうして…」
「僕のせいなんです」
和人はひゅーひゅーと息を荒げながら言った。
「僕がダメな人間だからこうなった…今度、今度生まれてくるときには…もっと人の役に立てる人になって…まともになって生まれてきます…だから許してください…」
「いいえ」
大男は首を振った。
「和人さんは和人さんのままで尊重される世界に生まれてください」
和人の口が力なく開き、握る手から力が抜ける。半開きになった目からは涙が零れ落ちる。
「誰ですか…こんな優しい人にこんな事をしたのは」
大男は上着を和人の遺体にかぶせて立ち上がった。雨に濡れたその顔は異様だった。頬が溶け落ち、鼻も崩れ、眼窩がむき出しになり、唇も削げ落ちている。その風貌はまるで骸骨であった。その骸骨の表面に流れる水滴は熱を帯び、眼窩の奥の目が赤く光って、憎しみに燃えている。
「誰であってもいいでしょう。誰であっても…私は必ず全員を殺しますから」
大柄な風貌とは反比例する幼い子供のような童声が憎しみに震えた。

 数か月後、東京都心の高層ビル街にあるテレビ局。
 スタジオでは大勢の批評家が討論していたが、所謂良識派と呼ばれる人間は押されていた。スタジオでは数々の自閉症の子供を独自のスパルタ教育で緩解させてきたとする【冨塚弘 フリースクール校長 64】が独自の教育論を展開している。
「つまり、自閉症ASDも同性愛も簡単に治るんですよ。それはもうドイツの研究でも表明されているんです。でも当事者と言われる人間も親も直そうとしない。支援ばかり貰おうと甘えている。これはですね、もう国家への反逆ですね。健康な国民への詐欺行為ですよ。この前の神奈川県での障碍者施設殺人。これを犯した青年の気持ち自体は私も理解したい」
「ちょっと酷いですね」
スタジオで女性スタッフの【青木実美 28】がディレクターで髭の【前波祐介 35】を振り返る。
「いいじゃねえか。国会議員だって似たような暴言を言いまくっても平気なんだ。それにこの番組は本音トークだぜ。ここでやめると却って偽善者呼ばわりされちまうじゃないか」
「ちょっと今の発言は酷すぎませんか」
【深田さゆき コラムニスト 46】が苦言を呈すると、日本の広告販売業に革新をもたらしながらも大勢の社員を過労死させてそれを自慢している事で有名な【渡部喜美 43】が
「ほら、またまたそういうことを言う。あなたは左翼だからそうやって出来損ないの人間を庇おうとするけれど、死んだうちの社員も本当に出来が悪くて傲慢なクズだったんです。そいつが人権の美名で権利を主張してこっちが決然と言ったら、すぐ自殺しちゃう。そういう弱い人間を甘やかすのが左翼なんです。日本を弱くするんです」
「誰にも振り向いてもらえない行き遅れの女性だからって上げ足を取らないでくださいよ」
【杉山澪 与党議員 47】がへらへら笑いながら馬鹿にする。
「それはセクハラじゃないですか?」
女性声優【春風風子 16】が抗議すると
「セクハラされたくなければね、セクハラされないくらいの品格を身につけなさいって話よ。あなたは子供だからわからないでしょうけど」
と杉山は取り付く島もない。
「いいぞ、いいぞ。良識派って言われている連中が論破されている」
前波は嬉しそうに笑った。
「これ論破って言うより論理が無茶苦茶なだけじゃないですか」
青木はため息をついた。
「伊原崎先生、あなたはどう思います?」
司会のタレント【小沢高次 59】が若手作家の【伊原崎悠馬 31】に話を振る。彼はこの番組でも右的発言で知られ、サングラス姿で上から目線で出演した科学者や弁護士を滅茶滅茶に叩き潰すのだが、なぜか今回は俯いたまま何も言わない。
「伊原崎先生?」
とどめを期待する小沢に伊原崎は「んー」と立ち上がって、徐にこういった。
「お前ら人類の敵だ。死ね」
いきなり懐から取り出したのは3Dプリンターで作った白い拳銃だった。伊原崎はそれを呆気に取られている杉山議員に近づけていきなり発射した。
「ぎゃぁあああああああ」
左目に白く鋭い針が突き刺さりのたうち回る杉山。直後会場からは悲鳴が上がる。カメラが切り替わる直前に今度は冨塚が針を顔面に食らってのけぞった。

 茨城県県立常総高校の食堂から悲鳴が聞こえてきて、探検部部室がある書道室準備室でクリームパンにかじりつこうとしていたショートヘアの女子高校生島都はびっくらこいて声のした方向を見た。
「食堂の方からよね」
黒髪の美少女でおっとりした性格の高野瑠奈が目をぱちくりさせる。
「でっかいゴキブリが出たんじゃない?」
ポニーテールの薮原千尋がケタケタ笑う。「こーんな大きなクロゴキブリ」
「ちょっと行ってくる」
都はパンをくわえたまま廊下を走り出した。
 食堂の前で北谷勝馬が「ううう」と口を押えて座り込んでいた。この学校のイロモノ番長で体がでかい不良少年が舎弟にナデナデされながら鼻からラーメン出している。
勝馬君? どうしたの?」
都が勝馬を覗き込む。
「都さん…殺人事件です…」
「え」都の顔が驚愕に見開かれるが、彼女の次の行動は早かった。
慌てて食堂に入ろうとする都を止めた人間がいた。長身の青年結城竜だった。イケメンでぶっきら棒な結城は、天真爛漫で思い込んだら一直線の小柄な美少女を押しとどめる。
「結城君、殺人事件が学校で」涙目になる都に結城は「大丈夫だ」と言った。
「殺人事件が起こったのはテレビの中」
「なんだ、テレビドラマかぁ」都は胸をなでおろすが、結城は険しい表情で食堂の有るテレビの方を見た。
「いや、相棒の再放送とかで事件が起こったんじゃねぇ。殺人事件が発生したのは、ワイドショーの番組内だ」
結城は唸った。
「どういうこと」
「つまりテレビの収録中に本当に殺人事件が起こったんだよ」
結城は明後日の方向を見ながら深刻な声で言った。
「本当だ」
追いかけてきた薮原千尋が携帯でTwitterのトレンドをチェックすると「昼倶楽部」「ひるくらぶで殺人」「人殺し」「生放送」「3D拳銃」「伊原崎」と出ている。

「やめろぉ。やめてくれぇええええ」
毒針を撃たれて麻痺した足を引きずりながら逃げる渡邊喜美。
「あなたはさっき無能で足手まといは死ぬべきだといった」
原崎はサングラスの向こうから氷のような目で見降ろした。
「今まさに貴方じゃないか」
毒針が発射され、渡辺が「ぎゃぁああああああ」と絶叫して顔面を押さえてのたうち回るのを一瞥し、伊原崎は机の下に潜り込む一同を見回して威風堂々とその場から歩き出す。スタジオで鉢合わせした前波が「ひっ」と腰を抜かす顔面に3D拳銃を突きつけ
「ああいうのをのさばらせる番組もほどほどにしておけ」
と言って踵を返した。伊原崎は近くの男子トイレに入ると、ポケットから発煙筒を拭いてそれをトイレに投げ捨てる。シュパアアアアという音とともに煙がトイレから廊下に漏れ出し、スタッフが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 警視庁のパトカーが玄関前に到着し、警察のバスから特殊急襲部隊SATが素早く建物に重装備で入り込む。
 警察は煙で周囲が見えない廊下を拳銃とアクリルの楯をかざしながら慎重に進む。
 ふと人影が揺らめいた。
「誰だ」
「お、俺だ。俺を知っているだろう」
情けない声で震えているのはイケメン俳優の【平成孝也 27】だった。
「この人は俳優です」
隊員が隊長に知らせる。「よし、彼を保護して後方に」
 隊長は命じた。隊員が平成を庇うように廊下を歩かせる。
「何? いないだと」
テレビ局の前で警務部の【高川仁 警視庁警部 39】は無線片手に訝し気な声を上げる。
「煙に巻かれていないエリアの防犯カメラから見て、被疑者の伊原崎がトイレ及び周辺の廊下から脱出したとは考えられません」
突入部隊隊長は無線で報告する。
「どういうことだ」
高川は思案していたが、その横で研修で警視庁に来ていた茨城県警の女警部長川朋美は携帯電話を使ってある場所に電話をかけた。

「あ、長川警部だ」食堂の前で勝馬をなでなでしながら、都は魔法少女アニメの着メロとともに電話に出た。
「あ、長川警部

「都、テレビ見たか?」
警視庁のパトカーの屋根に手を乗せながら長川は都に電話した。
「ん、そうか。今テレビ局生放送中に殺人事件が起こって、犯人は殺害後、トイレにこもって発煙筒を焚いて周囲は煙だらけだそうだ。そして特殊部隊が突入したがもぬけの殻だったそうだ…ん…ん」
長川は電話から顔を話して高川に聞いた。
「高川ちゃん。特殊部隊が被疑者以外の別の人間に出会わなかったか?」
「長川、お前は誰と電話」
「いいから!」
長川の剣幕に押され、高川は「あ、ああ」と無線で確認して
「イケメン俳優の平成孝也を保護したそうだ」
「イケメン俳優平成孝也」
長川が電話の相手に大声で伝えると顔を上げて、
「そいつが犯人だ。捕まえろ!」と高川を指さした。
「なぬぃ?」高川が素っ頓狂な声を上げる。

「あ、はい」
テレビ局の廊下でイケメン俳優を誘導する特殊部隊の隊員が無線に応答する。
「平成孝也? え、しかし」
その反応に平成は素早く反応し、素早く腕で隊員の顔面を強打し、倒れ掛かった隊員の
鼻先には既に奪われた拳銃が突きつけられていた。
「随分と気づくのは早い。ここは東京都だから彼女は介入してこないと踏んでいたのですが」
「だ、誰だお前は」
隊員の声が震えあがる。明らかに平成孝也というイケメン俳優ではない。
「俺か…俺は」
男は自分の顔に爪を食い込ませると、顔全体の皮膚を引き裂くように引っかきあげた。
「死神ですよ」
隊員の目が恐怖に見開かれる。この男に見覚えがあった。溶け落ちた骸骨のような顔。日本戦後史上最悪の大量殺人鬼として警察が行方を追っている大量殺人鬼、岩本承平。

2

殺人鬼岩本承平、この男はテレビ局の生放送殺人事件に関与していたのだ。
「申し訳ない」
岩本は隊員を銃で殴って気絶させると、そのまま廊下から部屋に引きずり込んだ。そして警察官の服を着用した男が出てきた。
 男はテレビ局のロビーを歩いて正面玄関エントランスホールの前に歩いてきた。
「あ、ちょっと待って」
隊員服を着た男が別の警官に呼び止められる。
「君は隊員番号061、SAT隊員の五十嵐君だね」
警官を割って高川警部が声をかける。五十嵐と呼ばれた警察官はびくっと震えて何も答えない。
「返事は出来ないか」
彼は別の隊員に合図をすると別の隊員がいきなり彼の両手を掴み上げて五十嵐の両手に手錠をはめた。
「ぐっ」
その間に長川がヘルメットを脱がせると、そこには別の人間の顔があった。そう、そこにあったのはイケメン俳優平成孝也の顔だったのである。
「!!」
平成孝也の顔が恐怖に見開かれる。長川はその顔に手を伸ばすとべりべりと容赦なくそれを引きちぎった。中から出てきたのは骸骨のような悍ましいあの殺人者の表情であった。
「やはり警官に変装して脱出しようとしたな」
長川は殺人者岩本を睨みつける。岩本は脱出計画が失敗した恐怖からか目を血走らせて声を出すことも出来ていない。
「五十嵐君が君の正体に気が付いた後、彼を倒して装備を奪ったってわけか。だが私がこの警視庁に研修に来ていたのが運の尽きだったな。岩本。私に少女探偵島都が推理を授けてくれたおかげで、迅速に対応が出来た。お前の大量殺人もこれで終わりだ」
長川は宣告を下した。高川は
「この手錠は電子ロックだ。外すことは出来ない。警視庁で身柄は預かっていいな」
「ああ、でも気を付けろよ。こいつは恐ろしい犯罪者だ。一瞬も気を抜いちゃだめだぞ」
「わかってる」
高川は緊張した表情で頷いて部下に命じて岩本を連行していく。
 女警部は都に電話をした。
「都、落ち着いてよく聞け。岩本を逮捕した」

「本当!?」
都は学校の授業をサボって屋上で結城と長川の報告を聞く。

「ああ・・・危なかったよ。あいついち早く自分の推理がバレると察知して連行していた特殊部隊隊員を気絶させ、装備を奪って逃げようとしやがった」
長川はグロッキー状態で仲間に抱えられてパンツとシャツ姿で担架に乗せられる本物の五十嵐を見守りながら言った。

「長川警部」
屋上で携帯電話に電話する都の声は震えていた。
「今の話変だよ!」
「え」長川のにわかに緊張が伝わった返事が電話から洩れる。
「あの岩本君だよ! トリックがバレた以上、警察官の服を奪って脱出なんて方法を予測されるなんて、岩本君ならわかっているはずだよ!」

都に言われた長川が慌てて電話を切って、テレビ局のフロアで高川に声をかけようとしたとき、携帯電話で別の人間に電話をしていた高川警部が茫然とした表情で長川警部を見た。
「今部下から報告があった」
高川の声が震える。
「連行中の岩本が血を吐いて苦しみだし、死んだそうだ」
長川は知人の警視庁警部の絶望的な表情に戦慄を感じざるを得なかった。

―劇場版少女探偵島都2 岩本承平の殺戮

 テレビのアナウンサーが駅前ビルのモニターで大々的に生放送の殺人事件を伝えている。
「3人とも亡くなったらしいね。死因は針に埋め込まれた毒針。何時間も苦しんでいたみたい」
瑠奈がため息をつく。
マクドナルドの中でカウンターに並びながら、都、結城、瑠奈、千尋はアンニュイな雰囲気を漂わせていた。
「3人だけじゃない。少なくとも6人を殺しているよ」
都は言った。
「岩本君は解答キッドみたいに誰でも変装できるわけじゃない。実在の人物になりきるにはその人を殺して首を切断し、3Dにかけて作り上げた顔を使い、体格や声色もある程度似ている人じゃないと成りきることは出来ないんだよ」
「つまり、変装された人は殺されているってわけね」
瑠奈は都に言った。都は頷く。
「岩本君は伊原崎さんに変装してテレビ局に乗り込み、3人を殺害した後トイレにこもってよく知られている芸能人の平成孝也さんに変装して特殊部隊さんに助けられて脱出した。多分テレビで知られた顔なら警察も伊原崎さんと別人だと知っているからすんなり保護してくれると考えていたんだろうけど」
「お前がそのトリックを暴いたってわけか」
結城はため息をついた。
「でも岩本君の方は万が一という事も考えて、テレビ局で別の人を拉致しておき、その人の顔の皮をはいで骸骨にして、さらに平成さんの3Dプリンターで作ったゴムマスクをかぶせて、気絶させた五十嵐さんの装備を付けさせて歩かせたんだ。喉を潰したうえで、警察官に捕まらないで外に出たら助けてやるって言ってね」
都は窓の外の通りの路線バスを見る。
「長川警部に聞いたんだけど、その人遅く効くタイプ毒を飲まされていたみたい」
「なんて奴だ。トリックを確実に成功させるために、予備のトリックの為に、罪のない人の命をゴミみたいに扱いやがって」
結城は歯ぎしりする。
「結城君、岩本君は罪のない人を無差別に利用して殺す人ではないよ。指紋や歯型からわかったんだけど、岩本君のふりをさせられ死んだ人は芸能事務所の社長で所属タレントさんへのDVとか従業員の顔を鍋に突っ込んだりした動画で問題になっていた人みたい」
都に言われて千尋もうなずいた。
「平成孝也は女の子を襲って写真撮影して脅していて、被害者の子がネットで個人情報暴かれて自殺しちゃったみたいだし、伊原崎インターンの女子大生に似たようなことをしてなぜか警視庁は捜査をやめちゃっていたよね」
「勿論、どんな理由であっても岩本君のしたことは絶対許せないけどね。殺していい人とそうじゃない人を決めるって、殺された人たちと結局同じだよ」
都はそういうと、スマホ見て「天罰だよねー」と笑っていた隣の女子高生集団がキョトンとした顔になる。
 瑠奈は都の頭をなでる。都は今回の事件がよっぽど悔しいのだ。その時瑠奈の携帯電話が鳴りだす。
「あ、ごめんね」
瑠奈が緊張した笑顔を3人に振りまいてトイレに入ると電話に出た。
「て、店長」
瑠奈が声を震わせると、
―僕は店長ではありません。岩本承平と言います。高野さん、君の親友の島都さんとお話がしたいのですが。その場にいますよね。
「え…」
―大丈夫です、都さんに代わってください。
瑠奈は幾分青い顔でカウンター席に戻ってきた。
「どうしたの? 瑠奈ちん」
都が怪訝な顔をすると、瑠奈は
「都、落ち着いて聞いて…岩本さんから」
と声を震わせた。都は弾かれた様に瑠奈から携帯電話を取り上げる。
「もしもし、岩本君?」
―都さん、お久しぶりです。
女性と見まごうような高い地声で殺人鬼は挨拶した。
「なんで、瑠奈ちんの携帯電話に。瑠奈ちん怖がっちゃっているじゃん」
―申し訳ない。彼女のバイト先の店長の携帯電話からかけているものですから。さて、都さん、今日はあなたにお願いがあって電話しました。これから店を出るとコンビニ前にいっていただきたい。そこにタクシーが待たせてあるので、ここに君と結城君だけで来ていただきたいのです。
「来なかったら?」
―店長を殺します。
都は目を怒らせた。
「わかった。でも瑠奈ちんと千尋ちゃんも連れてきていいかな」
都は言った。
「岩本君は何の罪もない人を殺したりはしない人。この店長が何をしたのかも知りたいし。でも瑠奈珍のいない所で話を進めちゃだめだよね」
―いいでしょう。4人ならギリギリ大丈夫なはずですから。
 電話が切れた。瑠奈が不安そうに都を見る。都は笑顔で
「大丈夫だよ!」
と言った。

 コンビニ前にタクシーが停車している。運転手が4人を出迎えた。
「ええと、島都様でしょうか」
初老の運転手が丁寧にお辞儀をする。
「お待ちしております。お代は既に岩本様からいただいておりますので、どうぞ」

タクシーの中で都は瑠奈を見た。
「着替えているところの写真が昨日送信されてきたんだ」
瑠奈は涙ぐんでいた。「都に相談しようとは思ってたの。でも言い出せなくて」
「友達を心配させるのって勇気いるもんね」
都は瑠奈の頭をなでなでした。
「お前が言うなや。いつも心配ばっかさせている分際で」
結城がため息をついた。
「大丈夫だよ。瑠奈ちん。瑠奈ちんは友達に頼る方法がわからなかっただけ。プロの私が教えてあげるから大丈夫だよ」
都は瑠奈を抱きしめた。瑠奈は「うん」と言って都に顔をうずめた。
「岩本君にどんだけあのクソ店長がボコボコにされてるか楽しみだわ」
千尋が言った。
 タクシーが停車したのは公園だった。高圧線鉄塔の真下にありあたりは田んぼで農家が遠くに点在している。遠くにTⅩの高架が見えた。タクシーの運転手はここで待ってくれるとの事。誰もいない公園の遊具の前に一人の男が立っていた。その顔はあのイケメン俳優平成孝也だった。死者が蘇った形相に4人は戦慄を覚える。
「う、う、うそ…岩本だよ」
千尋の声が上ずる。都はすたすたと歩いて岩本に歩み寄った。
「お、おい、都」
結城が止めるのも聞かず、都はずかずか岩本の前に立ちふさがると下を向いたまま拳を岩本に叩きつけた。彼はびくともしなかったが、都の憤怒が寒い12月の茨城県の空の下に立ち上る。
「岩本君。店長さんはどこにいるのかな」
都は上を見て岩本を睨みつける。
「あそこです」岩本は高圧線鉄塔を指さした。小さな小さなテルテル坊主が、高さ100メートルの鉄骨からぶら下がっている。瑠奈がショックを受けて口をふさぐ。
「大丈夫。まだ生きています。ボタン一つで落っことすことは出来ますけどね」
「私を呼んだのには目的があるんだよね」
都は言った。
「はい。目的は殺人予告です」
岩本が残虐に笑った。