少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

地獄時間殺人事件 導入編


1

 茨城県常総高校では体育の時間水泳の授業が存在した。
「うおおおおおおおおおお」
競泳水着の下に抜群のスタイルを秘めた黒髪美少女の高野瑠奈を鼻の下伸ばして見る北谷勝馬とゆかいな仲間たち。
「あ、勝馬君。生白いでしょ」瑠奈は気にしているかのように苦笑した。
「いえ、そんなことは」
「ったく」
同じクラスの遠藤楓はため息をついた。
「瑠奈も都に似て天然だからねー」
「変な虫が寄ってこなければいいけど」
島野里美が水泳帽子の頭に手を立ててため息をついた。
「あれ、都はどこへ行ったの?」
当の瑠奈が友人2人に聞いた。2人の少女はふとプールを見渡す。
「そういえばさっきまで一緒にいたんだけどなぁ、あ」
島野が3メートル離れた場所にうつぶせに浮かんでいる小柄な少女の背中を指さした。
「あれ、都じゃない」
「都…何浮かんでるの」
瑠奈が都の背中を触った時だった。彼女の浮かんだ体の周りに真っ赤な血が広がっていた。瑠奈の顔が真っ青になった。
「み、都」
血膜が花びらのようにどんどん広がっていく。瑠奈は上ずった表情で震えていたが、直後「いやぁあああああああ」と絶叫した。

「都!」
結城竜が保健室に突っ込んできた。顔面蒼白な結城に対して、薮原千尋が深刻そうな顔で言った。
「結城君。都がプールに入っている時、都がうつぶせに浮かんでいて大量の血が」
「嘘だろ…。まさか都の女子高生探偵としての推理を妬んだ野郎が…まさか」
顔面蒼白のまま結城は都が眠るベッドにやってきた。
 都は眠っているようだった。瑠奈と勝馬が周りにいる。彼らに囲まれて都は安らかに眠っていた。
「み、都…」
結城が都の手を握った。その時だった。
「うへへへ、結城君もう食べられないよぉ」
涎を誑した島都はでへでへ笑いながら幸せな寝言を口走っていた。
「都?」
「ああ、結城君。今日都は保健室で休んでから染谷先生の車で送ってもらうから」
「都…殺人事件に遭遇したんじゃなかったのか?」
「は?」
千尋が訝し気な声を上げる。
「だってプールで血まみれで浮かんでいたって」
「結城君、殺人現場の見過ぎだよ」
千尋は呆れたように言った。
「でもプールが血だらけだったんだろう? 物凄いけがじゃなかったのかよ」
千尋、もしかして言ってないの?」
「都の了解取れずに言えるわけないじゃん」
瑠奈と千尋の会話を結城は頭にはてなマークで見守る。すると都が
「ほえ」
と目を覚ました。
「おおお、結城君。あれ、結城君が奢ってくれた特大バナナパフェは?」
「特大バナナパフェより、お前大丈夫なのかよ」
「大丈夫じゃないよぉ。お腹がごうんごうんなって死にそうだったよぉ」
都は思い出したようにだーっと顔を漫画チックに破顔させる。
「結城君、察して」
「察し」結城は真面目そうに顎に手を当てて何かを考えていたが、思いつかない様子に瑠奈はため息をついて
「女の子の生理」
「なにぃ」
真っ赤な顔の結城に都は恥ずかしそうにベッドの布団から顔を半分出していた。
「大丈夫だって、女の子なら2回や3回失敗しているから」
都と同じ部活の薮原千尋が都をバシバシ叩いた。
「はぁあああ、なるほど」
結城は安心したように床に座り込んだ。勝馬は必死で保健室においてあるモアイ像になりきろうとしていた。
「でも都生理痛結構きついよね」
千尋が瑠奈を振り返る。
「うん、高校生になればマシになるのかなって思ったけど、ちょっと心配よね」
産婦人科で見てもらったら」
千尋に勧められたが都は「ええ、怖いし恥ずかしいよぉ」と小学生みたいに嫌がっている。
「でもまたぶっ倒れられたら結城君の心臓が持たないよ。大丈夫、私と瑠奈が付いて行ってあげるから」
千尋はウインクした。
「怖くない」都は布団から千尋を見た。
「大丈夫大丈夫。別に産婦人科はSEXに失敗して抜けなくなった女の子だけが行く場所じゃないから。私も中学の時は生理不順でお世話になった事があるし」
千尋はぐっと親指を突き出した。

 染谷先生の車を見送りながら、結城と勝馬は校門に立ち尽くしていた。
「女の子は大変なんだな」勝馬はぽつりと言った。
「お前が都を運んでくれたんだって」と結城。
「礼ならいいぜ。都さんの為にやったことだ」
「礼なんて言うかよ。お前が今にも都が死にそうな感じで大声で喚いていたって保健の先生呆れてたぜ」
「うっせーーーよ」

 都と千尋、瑠奈は岡橋産婦人科と書かれた開業医院に来ていた。内部は意外と綺麗で子供が遊べるスペースもある。
「おおお、うめきちくんだぁ」都はめざとくお気に入りのぬいぐるみをみつけ、あやかちゃんと一緒に抱きしめる。
千尋ちゃん、瑠奈ちんありがとね。一緒に来てくれて」
「大丈夫大丈夫。結城君や勝馬君にも伝えといて、肛門科に一緒についていってあげるから」
「」瑠奈は千尋のカラカラした笑いにどう突っ込みを入れるべきか思い浮かばなかった。
「島さん、島都さん」
渡辺尚子というプレートを付けた20代の若い看護師が都を呼んだ。
「あ、はい。うう、今からトイ・ストーリーのビデオうめきちくんと一緒に見ようと思ったのに」
さっきまでの不安はどこへやら、もう余裕をこいていた都。診療室にいたのは産婦人科医の岡橋優三という若い優しそうな30代の眼鏡のお医者さんだった。
「今日は生理痛が痛いという事でここに来たんだよね」
「はい」
都は緊張した感じで岡橋優三に返事をする。
「じゃぁ、ちょっと見せてもらう前にいくつか質問するからね」
「やっぱり、見るんですか」
都はすごく恥ずかしそうに言った。
「都、大丈夫。このお医者さんはプロだから。エッチな事は考えたりしない必要な事なの。結城君が私に人工呼吸してくれた時と同じ」
瑠奈が笑顔で優しく諭すと、都は「わかった」と頷いた。

 待合室に1人戻ってきた千尋がふと見上げると看護師の渡邊が若い眼鏡の男と何やらもめている。
「貝原君。あなたはここの患者ではないでしょう。部外者は今すぐ出て行ってくれませんか」
「そんな、僕は別に」
眼鏡の貧相な青年貝原直人は両手で渡邊をなだめすかす仕草をしたが、渡邊は有無を言わさなかった。
「出ていかないなら、警察に電話するわよ」
「!」貝原は怯えた表情で彼女の気迫に押されて、「ち」と舌打ちすると出て行った。
「誰ですか、あの人」
千尋が聞くと、
「この医院の下儲け会社に勤めていた人よ。でも意味もなくこの医院に来ることがあって」
「なんで」
「さぁ、かわいい女の子が来ると必ず現れるわ。あいつレイプの前科があるし。碌な動機じゃないわ」
渡邊はふと千尋を見て「あ、ごめんね。こっちの事を勝手に話しちゃって」と苦笑した。
「いえ、聞いたのはこっちですから。でもヤバいじゃないですか。性犯罪の前科があるって」
「それも小学校6年生の女の子をね」
渡邊は苦みを潰した顔で出入り口を見る。
「絶対に許せないわ」
「ほぇええええ」
都が一息ついた表情で出てきた。
「多分成長が遅いせいだって。私小学6年生くらいの体らしいよぉ。ぶえええええ」
都は千尋に縋りつく。千尋は都をよしよししながら、
「まぁ、とりあえず病気じゃなくて良かったじゃん」
と笑顔で笑った。
 瑠奈はふと廊下を振り返っていたが、
「そうだ。トイ・ストーリー見なきゃ」と声を出す都に「瑠奈ちんも見よ」と引っ張られた。
「都、もう料金支払い」
窓口に手招きする千尋
「ええええ」残念そうな都に千尋は苦笑した。そんな都の様子を電柱からじっと見ているのは貝原だった。

「とりあえず、生理痛を緩和する処方箋貰えたから、殺人現場をプールで演出する事はなくなるはずだよ」
千尋が笑顔で住宅地を歩きながら言う。小学生の赤いランドセルを背負った6年生くらいの女の子とすれ違い、千尋はよっと避けた。瑠奈がそれを目で追いかける。
「瑠奈ちん」
都はむーんと瑠奈を見た。
「今私があの子みたいにランドセルを背負っていたらぴったしだって思ったでしょ」
「え」
瑠奈の反応はまさに図星だった。
「瑠奈ちんの馬鹿ぁ」
「いいじゃん、うらやましいよ。都の小学生時代、私も興味あるもん」
千尋ちゃんまで」
その直後だった。突然「きゃぁああっ」と女の子の悲鳴が聞こえた。さっきのランドセル少女があの眼鏡の男、貝原に肩を掴まれていた。
「まてぇえええっ」
都が物凄い勢いで走り出す。都の大声に男は手を離してそのまま横路地に逃げた。
「都」
恐怖で道端に座り込んだ女の子を抱きしめながら千尋は追いかける都と瑠奈に向かって叫んだ。
 都は暗い路地であたりを見回していた。住宅地のアパートの人気のない駐輪場に来た時だった。突然彼女は肩を掴まれた。
彼女の背後に眼鏡が反射したあの男貝原が興奮に震えた声で話しかけてきた。肩が物凄い力で握られる。
「ひひひひ。都ちゃんって言うんだね」貝原はにやりと笑った。
「君はこの医院でエッチな診断を受けていたんだ。そしてまたこの病院に来てエッチな診断を受けるんだ。僕にもどんなエッチな診断をしてもらったのか教えてよぉ」
「都!」
アパートの陰から現れた瑠奈が大声で叫んだ。
「お巡りさんこっちです」
「ち」
貝原は脱兎のごとく逃げ出し、都は茫然と路地に座り込んでいた。
「都大丈夫!」
瑠奈が都の肩を掴んだ。
「瑠奈ちん。お巡りさんは?」
「嘘嘘! でも今から呼ばなくっちゃ」
瑠奈もよっぽど怖かったのか携帯で110ボタンを押そうとする手が震えていた。

2

「愛奈! 愛奈…良かったぁ」
近くの交番で篠崎愛奈に母親でキャリアウーマンの篠崎玲が抱き着いた。30歳くらいの若いお母さんだ。
「本当にありがとうございました」
玲は瑠奈と千尋と都に頭を下げた。
「あ、頭を下げないでください」瑠奈が恐縮する。
「いえ、こちらも家族同然の社員のお子さんを助けていただき心から感謝いたします」
恐らく上司と思われる小太りのおっさんが頭を下げる。作業着には-大島医療器具-という文字が躍っている。
「さ、愛奈ちゃん、お母さんと一緒に送っていくからねー」
医療器具メーカー社長の大島光義はホクホク笑顔で交番前に止めたエルグランドに母子を載せた。
「本当にありがとうございました。ではお礼は後程」
走り去っていく車を見送ってから瑠奈は
「でも本当にあの貝原って人を逮捕できないんですか」
と交番巡査の中村桃子巡査に聞いた。20代のショートヘアの若い巡査である。
「さっき彼がいつも寝ている公園のベンチで彼に聞いたところ、体がぶつかって彼女を抱き起そうとしただけだって言っていました。いくら彼に児童性的暴行の前科があると言っても、これだけで彼を検挙する事は難しいですね。一応厳重注意処分にはしたのですが。でも今回の事ではっきりわかったわ」
中村はニューナンブに弾丸を全弾込めてホルスターに装着した。
「あいつは全然反省なんかしていなかった。部長、私あの男をこれから監視してきます」
「ずっと勤務していただろう。休まなくて大丈夫か」
部長のごつい体の警官、草薙純也警部補が心配そうに聞いたが、中村は「はい、あの男によって二度とあんな苦しい想いをする女の子を出さないようにしなければいけません」と声を上げた。部長は「わかった」と返事をした。
「熱心な婦警さんだね」
都が歩き去る婦警を見ながらドングリ眼をぐるりとさせた。
「彼女は、特別なんだ」
部長はつぶやく様に言った。その直後、
「都」「都さぁああああん」
と探検部の男どもが押し合うようにして交番の中に入ってきてすっころんだ。それをしげしげと眺めながら、千尋は「あなた達お笑いコンビですか」とため息をついた。

 岡橋医師の自宅。二階のパソコンルーム。そこには多くの女性患者の患部を記録したDVDなどが保管されている。「島都」と書かれたDVDを手にした黒い人影=貝原直人は眼鏡を光らせ不気味に笑った。
「ひひひひ、やっと見つけた。やっと見つけたぞぉ」

「あったよ」
結城竜のマンションで従妹の中学2年生結城秋菜がネットのページを開く。結城はそれを覗き込む。
「新聞ニュースはもう消えちゃっているけど、電子掲示板にコピペしている人がいたから。その情報だけど」
どうやら「貝原 性的暴行 茨城県 小学6年生」で検索したらしい。
「ええと、事件が起こったのは9年も前の事か。職場の同僚の娘当時12歳の少女を自宅に連れ込み性的暴行を働いたとして貝原直人容疑者22歳が逮捕。容疑を認めているみたいだな」
「余罪が出ているみたいで、結局裁判で懲役8年の実刑判決を受けたみたい。って事は去年出所しているって事だよね。気持ち悪い、自宅で何回も何回も性暴力加えて、ビデオで撮影して脅していたみたいじゃない。女の子が勇気をもって警察署に助けを求めて、それで事件が発覚したみたい。本当にこの子偉かったよねー」
秋菜は声を震わせた。
「そいつが今回、都に触りやがったのか」
結城は歯ぎしりした。
「ほんと、師匠を襲おうとするなんて許せない。早くこいつを逮捕しないとまた被害者の女の子が増えちゃうよ」
「なぁ、秋菜」
ふと結城は妹に聞いた。
「被害者の名前はわからない」
「うん、記事にも出てない。当たり前だよね、女の子が自分が被害に遭った事誰にも知られたくないもん。それがどうしたの?」
「いや…」
結城はそれだけ言うと、パソコンの画面を見つめた。

 2日後、常総高校1年6組の教室。
「おはよ、都どう、調子は?」
「うん、元気元気だよー。昨日はまだどんよりだったけど、今日はもうこの通り」
遠藤と島野に聞かれて都は‹‹\(´ω` *)/››‹‹\( ´)/››‹‹\(*´ω`)/››と回って見せた。
「やっぱり遠藤の紹介した医院だけの事はあるわ」
島野里美が感心したように言った。
「あれ、あの医院って千尋が通っていたんじゃないの?」
「あちゃー、あいつ私に気を使ったか」
瑠奈の疑問に遠藤楓はふうと声を上げた。
「私が愛用している医院なんだけど、プライベートな事だから千尋は自分が通っていたことにしたんだよね」
「あの子意外と背負い込むタイプだしね」
島野里美が頷いた。瑠奈は「そっか」と考え込むように言った。
 その時染谷先生が教室の扉を開けた。
「島さん、高野さん、警察の方よ」
「何々、また事件に巻き込まれたの」
好奇心に目を輝かせる楓に瑠奈は苦笑した。
「いろいろあったのよ」とむにゃむにゃ机で寝ようとしている都をひょいと立たせる。
 だが来賓室で待っていたメンツを見て、都と瑠奈は驚いた。そこにいたのは長川朋美警部と鈴木刑事だったのである。
「おっはー、長川警部」
元気な都を他所に瑠奈は女警部に
「警部。本庁からって、あの事件で何かあったんですか」
と声を上げた。瑠奈の驚きも仕方がない。あの事件で県警本部の警部クラスが出張ってくるはずがあるわけないからである。
「都、高野さん、実は大きな事件に発展した。君らが助けた篠原愛奈さんが行方不明になった」
「えっ」
都の瞳が見開かれた。
「昨日学校から帰る途中でそのまま行方不明になったらしい」
「そんな…行方不明って、あの貝原って人がまさか」
「いや、それは有り得ないんだ」
長川はため息をついた。
「貝原は非番の中村巡査がずっと張り込んで行動を監視していたんだ。彼女が学校を出たのが15時、母親が帰ってこないことに気が付いて通報したのが19時。だが、貝原は18時まで監視されていたんだ。状況的に考えて貝原が愛奈ちゃんを誘拐したのはちょっと考えにくいんだ。勿論愛奈ちゃんは友達の家に行った形跡もない」
「貝原さんは? 今どこ」
都に聞かれて長川はため息をついた。
「行方不明だ。今警察の捜査方針でも彼は無関係という事になっているからな」
「ちょっと待ってください」
瑠奈が手を開けた。
「確かに愛奈ちゃんがいなくなってから貝原のアリバイがなくなるまで3時間はありますけれど、でも状況的に一番怪しいのは貝原ですよね」
瑠奈がいつになく強い口調なので都は「瑠奈ちん」と言った。よっぽど都を襲おうとしたことが許せないのだろう。
「実はもう一つ君たちが彼女を助けた地区で事件が発生したんだ」
「事件?」
「殺人事件だよ」
長川がじっと都を見た。「産婦人科医院を経営している岡橋優三が、昨日自宅で死体で見つかった」
「嘘、あの先生が」
瑠奈がショックを受ける。
「今日の夕方、出勤してこないことを不審に思った看護師が医院の奥にある自宅の窓から血だらけで死んでいる岡橋を発見した。死因は腹部を刺されたことによる失血死。死亡推定時刻は昨日の15時から16時の間。そして岡橋医院は愛奈ちゃんの通学路にあるんだ」
「つまり警察は犯人が愛奈ちゃんを誘拐したと考えているんだね」
都が言うと長川警部は頷いた。
「通学路の商店の防犯カメラを確認したところ、彼女が姿を消したのは、まさに岡橋医院周辺であることは間違いないんだ。つまり我々は岡橋さん殺害の犯人が犯行時に現場を出入りするなどしているところを愛奈ちゃんに見られて拉致されたのだと考えている」
長川は都を見た。
「彼女を助けるためには一刻の猶予も許されない。何か知っていることはないか教えてくれ。ぶっちゃけ言えば都には知恵を貸してくれと言いに来た」
長川は焦りの色を顔に浮かべている。愛奈の命の為に恥も外聞も投げ捨てているのだ。都は真剣な表情で頷いた。

畑の真ん中に立っている廃屋。ここで貝原直人はラジオを聞いていた。岡橋優三が殺害されたニュースをやっていた。貝原は思い出していた。昨日岡橋が撮影した島都と言う美少女、小柄でかわいい美少女の患部のカルテを盗み出したこと、そして長々と自宅のリビングで倒れ血だらけで物凄い形相で死んでいる眼鏡の医師の前で凶器を持って立ち尽くしている自分。
「さて、僕のアリバイは完璧だ。どうする?」
彼は考えながら廃屋の部屋のふすまを開けた。押し入れに手足を縛られさるぐつわをされ、怯えた表情で見上げているのは、何の罪もないまま現場に居合わせ拉致されてしまった少女篠原愛奈だった。