少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

偕楽園殺人事件2 事件編

 

3.第一の犠牲者

 

「なんだって❓」

長川が声を張り上げる。

「今我々が取り押さえています。年齢は30代の大男‼」

「わかった。すぐ行く」

長川は大急ぎで階段を上がり、2階の部屋から階段を何事かと見下ろす津川に喚いた。「小畑さんとカメラマンの藤見さん、それに辻さん、それ以外の人は全員無事ですか」

「ええ、全員一緒にいます」

津川は頷いた。

「結城君ここに待機しておいてくれ」

長川はそういうと警官に連れられ玄関を走り出し、好文亭を時計逆回りに走って東側の庭園にやってきた。そこで取り押さえられていたのは…。

「なんだ…君かよ」

警官に3人がかりで押さえつけられ芋虫ばりに体をくねらせている勝馬。その奥で呆気にとられて見ている瑠奈と千尋だった。

「おいおいおいおい、どうしたんだぁ」

長川は警官3人にどく様に支持してから、胡坐をかく勝馬に問いかけた。

「君がこんな無茶をするには何か事情があったんだろう」

「赤い目をした巨人がいたんだよ。真っ暗な好文亭に」

「赤い目をした巨人❓」

都が勝馬の隣に腰を下ろす。

「そいつを捕まえようとして柵を超えてここに駆けつけたら、警官に捕まってしまったんだよ」

「その赤い目の巨人は、どれくらいの身長だった❓」

「あの屋根に届くくらいだ。こっちに気が付いたみたいで腰をすっと下ろすところまで見えた」

勝馬がガクブル状態で声を震わせる。

「あの屋根って言ったら、2メートル50はあるぞ。ギネス記録の世界でいなくはないが…日本人でこんなでかいやつは…」

長川がため息をつきながら屋根を見上げた。

「とにかく、私は全員の所在を確認してくる…都はここに」

その直後「きゃぁあああっ」という絶叫が聞こえた。その声は小畑美奈の声だ。声のした方の離れの縁側に長川と都は飛び乗って、手当たり次第に障子を開けていく。その中の一つ行燈のついた部屋に喉を小刀で貫かれた辻蓮介の死体があおむけになっていた。眼鏡の奥の飛び出した目玉と開ききった口は苦悶を示している。その奥の縁側で小畑美奈が体を震わせていた。

「くそっ」

長川は声を震わせた。

「で、でもこの好文亭には警察の捜査で凶器がないかもチェックされ、ここに入った人もみんなⅩ線チェック受けているんですよね」

秋菜が声を震わせた。

「つまり犯人は凶器を持ち込めないはずなんだ」

長川は辻の死を確認しながら、口に両手を当てて震えている秋菜に言った。

「ま、まさか勝馬君の見た赤い目の巨人がこの真っ暗な偕楽園のどこかに」

千尋が声を震わせ、瑠奈が真っ暗になった偕楽園の森を振り返った。近くを走る常磐線ジョイント音が恐怖の時間を示す。

―パシャ―

突然カメラのシャッター音が光る。藤見優子が無表情で死体の写真を撮り続けていた。

 

 鑑識が電気で部屋を照らしながら辻の死体の周りで実況見分を行う。

「死亡推定時刻は発見のわずか数分前。凶器はこののどに刺さったナイフ…か」

長川は警察手帳を閉じた。

「その時間、2階には津川館長、伊藤議員、鑑定士の玉川さん、キャスターの江川さんがいる一方で、小畑さんとカメラマンの藤見さんにはアリバイがない…」

秋菜も横でメモを取る。結城は不安そうに現場をうかがう小畑美沙を見た。彼女は瑠奈に抱きかかえられながら体を震わせている。

「その小畑さんなんですが」

長川の部下の鈴木刑事が警察手帳を見ながら言った。

「実は出口の管理人が彼女を目撃していました」

 

「ああ、確かにこの子は来ていたよ」

好文亭管理室の番田新という40くらいの眼鏡のひげは言った。

「彼女は急いでトイレを借りに来て、5分くらいして戻っていったなぁ」

「それは本当ですか」

秋菜がぐいっと管理人室で番田に向かって身を乗り出す。

「警察にも話したし間違いないよ。第一彼女はもう一度再入場の時警察の金属探知機でちゃんと検査を受けて戻っていったんだ。犯行は不可能だろう」番田は秋菜の勢いに押されながら唸った。

「5分だとすれば、美奈さんが下に降りてきて死体を見つけて悲鳴を上げるまでが大体6分くらいですから犯行時間は限りなく小さくなりますね」

「ああ、第一発見者を装うためじゃなければね」

長川は言った。秋菜はむっと長川を見る。結城はふと長川に聞いた。

「大体彼女はいったいなんで辻の休んでいる部屋にいったんだ」

 

「辻さんから話があるって言われたんです」

近くの休憩所でコーラおごってもらいながら美奈は答えた。

スマホで『金印が本物と認められた。譲渡について君とも話しておきたい』って」

美奈はスマホを長川に見せる。確かにそういうメッセージは来ていた。送信時間は6時14分。殺人現場が発見される2分前だ。

「このメール」

都はのぞき込む。

「ああ、犯人が打ち込んだものかもしれないな」長川はスマホの液晶をじっと見ながら思案した。

「じゃぁ犯人は美奈さんを犯行現場に呼び出し、罪を擦り付けようとしたってわけか」

結城が都を覗き込む。

「少なくとも美奈さんは辻さんを殺した犯人じゃないと思うよ」

都が目をぱちくりさせるので、長川は「何故に?」と声を上げた。美奈も都の顔を見る。

「私たちが南側の障子をあけて部屋に入ったとき、辻さんの死体は足をこっちに向けて向こうを向いて倒れていたよね。でも美奈さんは北側の障子を開けて殺人現場を目撃して悲鳴を上げた」

「そうか」

結城は思いついたように手をポンと打った。

「となると犯人は南側の障子を開けて辻さんが寝ている部屋に入って辻さんを北側の壁に追い詰めて」

秋菜がはじかれたようにメモを取り始める。

「そういうことになるんだけど、でもそう考えると一つ変なんだよねぇ」

都はレモンかき氷をすすりながら声を上げた。

「何が変なんだ❓」

結城と長川は訝し気に聞く。美奈も不安そうに都を見た。

「犯人が南側から侵入したとして、そこは2階の鑑定会が行われている場所から丸見えなんだよ。犯人はどうして南側の縁側から犯行現場に侵入したんだろう。北側の方が絶対見つからないはずなんだけど」

都は少し考えてから

「もしかしたらそのヒントになるのが、勝馬君の見た赤い目の巨人なのかもしれないね」

都が呟くように言うと、長川は土産物店前で巡回している、勝馬という不審者を長川に知らせるために走ってきた君塚凌士巡査に話を聞いた。

「君塚君だったね。君は勝馬君を目撃した時、南側から建物の周りを回って入り口にいる私に知らせに来た。その時不審な人物、あるいは別の人物とすれ違わなかったか❓」

「いいえ、自分は誰にも会いませんでした」

若い君塚巡査は敬礼しながらそう言った。

「そうか」

長川は頷いてから「となると、犯人は外部から侵入したということになるのか❓ しかし好文亭の柵の周囲は警官がしっかり警備していた」と考え込む。

「つまりこれは不可能殺人ということか?」

結城は鋭い目で長川を見る。

「犯人は外部から侵入することは不可能。内部の人間の犯行だったとしても南側の縁側から侵入しているから北側にいた小畑美奈とカメラマンの藤見には犯行は不可能ということになる」

「いや」

長川は首を振った。

「離れの部屋には東側に縁側がある。そこはちょうど植え込みに隠れて見えないから、小畑さんと藤見さんはそこを回って南側から侵入する事は可能だ。ただし、そうなると母屋二階の津川、伊藤、江川、玉川の4人に見られる可能性がある。ちなみに巡査の君塚君は悲鳴が聞こえた直後に母屋の南側を回っていたから、犯人は南側に隠れることは出来ない。管理人の番田さんは管理事務所にいてⅩ線検査を通った痕跡はないし警官が見張っているから犯行は不可能…」

長川はため息をついた。

「だがどこかに突破口があるんだ」

 

 現場に戻った都、結城、秋菜、長川は鑑識が蠢く中で現場を取材しようとして鈴木刑事に止められている伊藤議員と江川レポーターに話を聞いた。

「伊藤議員…貴方達は犯行時間、上の階で4人一緒にいたんですよね。藤見さんと小畑さん、殺された辻さん以外で、出入りした人間はいましたか」

「いいえ、私たちは辻さんが出てから小畑さんの悲鳴が上がるまでずっと4人でここにいました。トイレを含め誰も出ていません」

「議員のおっしゃる通りです。2階の同じ部屋に私たちはずっといました」

江川も頷いた。

(トイレに出ているとしたら、あの古式エレベーターを使って降りられるんだけどなぁ)

結城は腕組をしながら長川警部の聴取を聞いてみた。

「加ぁ隈さーーーーーん」

都がエレベーターの上から1階でエレベーターの中を捜査している眼鏡の女性鑑識に声をかけた。

「おおお、都ちゃん。相変わらず殺人現場に遭遇するね」

「加隈さんだって」

「私は鑑識だからよ」

「加隈さん、エレベーターの木とか壁とかで指紋とかは出た❓」

「出たよー」

加隈真理はプラスチックの板に挟んだ紙をめくる。

「誰かの指紋があったのか」

結城が背後から声をかける。

「ええと、ああ、都ちゃん君の指紋だねぇ」

加隈はへらへら眼鏡の奥で笑った。「指紋から推測するに、またいたずらか探検したんでしょう」

「でへへへ、面目ない」

都は頭をかきかきした。

「でも都ちゃんの指紋は擦り切れていないから、君のいたずらの後誰かがここを通ったなんて事は考えられないね」

「ここもダメか」

結城はため息をついた。

「とにかく殺人事件が起こった以上、鑑定会は延期ね」

伊藤議員はため息をついて立ち上がった。

「私は殺人事件が発生した場所になんかいたくはないわ。ホテルに帰って休むから、佐々木を呼んで頂戴」

「わかりました」

伊藤議員に言われて津川館長が携帯電話を取り出す。都はその様子をきょとんと見ていた。

「私もそうさせて貰おうか」

鑑定士の玉川重宗も立ち上がる。と、彼は必死でメモ帳とにらめっこしている結城秋菜と目が合った。ふと玉川の視線に気が付いて秋菜が目を上げるとヒヒ爺は慌てて目線を外して伊藤議員の後に付き従った。秋菜はかわいいハート付きのペン片手にそれを見送っていたが、結城に「どうした?」と言われて呟いた。

「あの人、私どこかで見たことがあるんだよね」

 

 やがて偕楽園東口の門に停車した追突したらやばそうな黒塗りの高級車から、佐々木アツムネが自分を雇っている議員の到着を扉を開けて待っていた。

「早くホテルに行ってちょうだい」

伊藤ちなつはそう言って、佐々木が閉める後部座席のドアに消えた。

「佐々木さん、佐々木さんはどこにいたの?」

都が目をぱちくりさせながら佐々木を呼び止める。

「私はずっとここで車をいつでも動かせるようにしていましたよ」

佐々木はそういうと運転席に乗り込んだ。

「未成年お前らもそろそろ帰るか」

長川が結城にカギを投げて渡した。「私は今日は徹夜だ。私の家に適当にくつろいでくれ。水戸駅南口すぐのタワーマンションだ」

「小畑さんはどうする?」瑠奈は不安そうにしている美奈に聞いた。

奈良県の中学生だよね。今日宿泊するホテルは決まっているのかな?」

「いえ…鉾田市の親戚に泊めてもらえっておじいちゃんが」

「鉾田…ちょっと遠くないか」

結城がため息をついた。

水戸駅から臨海鉄道で40分か…水戸駅から徒歩5分か」

「ぐふふふ、お持ち帰りしちゃってもいいよね」

千尋が嬉しそうに美奈を抱きしめた。

 その様子を同じく休憩中の番田がじっと見つめていた。

 

4.第二の殺人

 

「なるほど」

長川警部は夢中で死体袋に入れられた辻の死体が運ばれていくのをカメラで撮影している藤見優子に質問した。

「つまりあなたは犯行時刻に北側の庭園で撮影していたと」

「テレビのスチール用にね」

藤見は猫みたいな目をぱちくりさせた。

「こういうのって大体アリバイのあるほうが却って怪しいでしょうに」

「不審人物とかは見ませんでしたか」長川が質問すると藤見は

「特には見当たりませんでしたね。まぁ、写真に夢中になって気が付かなかっただけかもしれませんが」

「なるほど…」

長川は若い女性なのにアリバイがないのにもかかわらず我関せずという態度を取り続ける藤見に呆れた風に肩をすくめた。

 その時「ともちゃん、ともちゃん」と長川の同期で鑑識の加隈真理が眼鏡を光らせながらやってきた。

「随分と危ない結果が出たよ」

加隈はため息をついた。

「辻殺害現場の部屋からね、第三者の指紋が出たんだ。辻さんの血液が付いていたからほぼ間違いない。ちなみにその人物の指紋からは体液も確認されているから、第三者が指紋を引っ付けた可能性は考えられない。つまり、この事件は第三者の犯行の可能性が極めて高いってことだよ」

「そんな」

長川はかなり驚いていた。

「あれだけ警備が厳重な中で犯人はどうやって好文亭に侵入したんだ」

長川は思案した。

「事件当時建物の東側にはともちゃん、北側には小畑さんと番田さん、南側を君塚巡査がぐるっと回って、西側には勝馬君が騒ぎを起こしていた。それ以外にも所轄の巡査諸君がぐるっと囲っていたってことは」

「ほとんど密室殺人ということになるんじゃないか」

長川は厳しい表情で前を向いた。

「ひょひょ、これは面白そうですね」

藤見は警部と鑑識を撮影しながら言った。

 

「ひええええ」

そびえたつタワーマンションの真下で探検部と中学生2人が声を上げた。

「こりゃぁ、中もさぞかし」

美人女警部の自宅訪問とあって嬉しそうな勝馬とワクワク気分な千尋

「お前ら、一切の希望を捨てろよ」

と結城は認証ゲートにキーをかざしてエレベーターのボタンを押した。そして15階の部屋の鍵を開けて

「いざ、ジャングルへようこそ」

と扉を開けた。つんと何かがにおう。明かりをつけるとコンビニ弁当のカスや缶ビールが散らばり、下着が無造作に散らばっている。

「おお、長川警部これまた素晴らしい汚しっぷりだねぇ」

都がキノコが生えたブラジャーを手に取る。このままだと本当に腐海に沈みそうな兆候が出ている。

「この前一緒にゴミ出ししたばかりなのに」

結城は頭を押さえた。勝馬はロシア語のБみたいな発音を出しながら後ずさりした。

「とにかく、みんなが寝る場所を確保しないとね」

瑠奈が覚悟を決めたように腕まくりした。今日は幸いにして家庭的な瑠奈、千尋、秋菜がいたし、美奈も積極的に手伝ってくれたので思いのほか片づけは早く進んだ。むしろ結城と勝馬はレディのプライバシーに触れるということでゴミ出しを主にやらされた。

「結城君、ごみは全部ベランダから下に放り投げちゃおうよ。後で拾ってまとめてゴミ捨て場に捨てれば」

都が結城に言うと結城はため息をついた。

「袋が破裂していろいろなものがマンション前にまき散らされるだろうが。とにかくお前はこれでも食って事件について推理でもしてろ」

彼はそういうと長川の冷蔵庫からヨーグルトを出して都に食べさせた。

「疲れちゃった?」

ゴミ袋を片手にボーっとしている美奈に「手伝わせちゃってごめんね」と瑠奈は謝った。

「いえ、ちょっと懐かしいなって思って…みんなで部屋を片付けるの。おじいちゃん、片づけどころか部屋を汚すことさえ許さないですから」

「厳しいおじいちゃんだね。オニジジだね」

都が目を丸くするので、瑠奈は「こら、そういうことを言わないの」と言った。

「いいんです。それに私は家の掃除や洗濯、ご飯みんなやっていますから」

「大変だねーーー。お父さんとお母さんは?」と千尋

「お父さんは死にました。お母さんは仕事が忙しいから。おじいちゃんは大和なでしこになるには勉強は不要って言って、今登校拒否させられているんです…。もし学校に行きたいって私が言ったら、おじいちゃんは学校にクレームをつけるから。反日教育をするなって」

「虐待だな」

結城は吐き捨てるように言った。

「子供が思い通りにならないと暴れたり他人に迷惑をかける行為をわざとやって、子供に罪悪感を持たせるやり口だ」

「そんな…酷い」

秋菜が口に手をやった。

「そんなおじいちゃんが…金印の鑑定会に出かけるって言ったら、喜んで私を行かせてくれたんです。だから今日はみんなとお話ができて嬉しいんです」

「やめだやめだ。後片付けは」

結城は言った。

「下でポテチ買って来ようぜ。あと虫歯の原因になるコーラやファンタを買ってきて、宴会するぞ」

「結城君、素晴らしい」と拍手する都に千尋が「それな」と続けた。

「そうと決まれば買い出しだぁ」

と立ち上がる勝馬

「で、でも大丈夫かな、長川警部の家だし」

秋菜が心配そうにすると

「大丈夫…こんだけ汚れていればちょっとぐらい汚くても平気よ」

と瑠奈は笑顔で言った。

 

 県警本部で長川はコンピューターに向き合っていた。発見された「第三者」の指紋データと警察庁のデータと照合する。指紋データは「生存・生死不明」の指紋と「死亡者の指紋」に分けられてデータが記載されている。分けられている理由は「死亡者のデータ」で検索すると身元不明遺体の指紋が大量にヒットし、検索時間が長くなるためだ。しかし長川が「生存・生死不明」のデータで照合しても対象となるものはなかった。つまり前科者や重要参考人に対象となる指紋はないという事だ。

「ともちゃーん」

突然サイバールームにいた長川の背後から加隈が声をかけた。

「真理…どうした」眠そうな長川。

「殺人予告と一緒に送り付けられた指の身元が判明した。常陸太田市の山で見つかった腐乱死体とÐǸAが一致したんだよ」

真理が鑑定結果を長川警部に見せた。長川は驚いてその鑑定結果を見る。

「山城千賀子…42歳。茨城県議会議員で先月から行方不明になっていたらしいね。ツイッターのトレンドに上がるくらい問題発言が多かった議員で、この前県北の豪雨災害の時、外国人略奪組織が暗躍しているから自警団作れって扇動したのがこの議員だよ。そしてこの議員を災害後に全面的に正しいと応援したのが」

「伊藤ちなつ議員だろ」長川はため息をついた。

「どんぴしゃ」と加隈。

「死因は? 山城議員の」

「それはわからないね。体の半分。首と胴体の骨しか出てないから。後の部分は人為的に切断されて持っていかれたか、あるいはハクビシンとかが持って行っちゃったか」

「前者だろうな。指が送り付けられている点からして」

長川はため息をついた。

 

 君塚巡査と相棒の警官は千波湖周辺を巡回していた。昼間は美しい湖も夜は真っ暗になっており、わずかな街灯とビル街の明かりがかすかに湖を照らし出している。

 突然、君塚巡査は何かに気が付いた。赤い光が2つ森の中に蠢いているのだ。君塚は大声で誰何しながらライトの光をそのほうに向けた。

「誰だ。そこで何をしている!」

君塚がそう喚いたとき、真っ赤な目と黒い影が突然走り出し、街灯にそのシルエットが照らし出された。

「待て!」

君塚は後を追いかける。さっきまで赤い目の影がいた茂みの近くまで走っていた時、2人は凄惨な現場を見た。津川館長…近代美術館館長が物凄い形相で腹を押さえて立っている。抑えきれない血だまりとともに内臓がぼとりと落ちて、館長は前のめりに倒れた。

「木村君は救急車を」

君塚は相勤の巡査にそう命じると、黒い影を追跡する。黒い影はSL静態展示の奥にある蔵造をイメージしたトイレの中へ逃げ込む。トイレには故障中のロープが流してあった。君塚はそれを追いかけて男子トイレの中へ…その直後だった。トイレの中で光が走ったかと思うと、屋根が炎で持ち上がり、入り口からも炎が飛び出した。