少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都エピソード1 ④解答編

エピソードワン④解答編
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【容疑者】
諸橋優一(32):愛宕小学校教諭
佐久間銀次(55):愛宕小学校教諭
・広川然子(35):給食センター職員
角田真喜男(58):愛宕小学校校長
・緑山ゆり(23):愛宕小学校教諭。
・田中一平(24):愛宕小学校教諭
・国山道子(49):愛宕小学校教頭
・棚倉利江子(33):パート従業員
・与野啓太(35):警備員
 
7
 
 春の嵐だろうか、稲光が走り、学校の視聴覚室を照らし出す。
「本当にそうなのかな」
都が結城を見つめてゆっくり歩き出した。
「さっきの結城君の密室トリックは一見すると完璧に見えるけど、ありえないトリックなんだよ」
都は視聴覚室の扉を開いた。
「このトリックは、成立するのに3つ条件があるんだよ。1つが部屋の上窓が雑巾で掃除されていてホコリが付いていないこと、2つ目が鍵が視聴覚室の窓の前に落ちている事・・・3つ目が金具のないメジャーが窓の下に落ちているということ」
「ああ・・・・」
結城は都を見た。
「でもそれはありえないんだよ」
都は結城から鍵を取り上げた。
「ごめんね。結城君。実は私と長川警部補は嘘をついたんだ。鍵は実は床の上ではなくて先生の机の引き出しの中に・・・。そしてあそこの廊下の上窓のホコリ・・・鑑識さんが調べたんだけど、掃除なんて全然されていなかったんだよ」
都は結城の目をじっと見た。
「そしてホコリがついた窓にはトリックの痕跡なんて全然なかった。私がこの窓を拭き付記したんだよ。雑巾で。って事は結城君の今のトリックは実行不可能ってことになるよね」
「なんの真似だ」
結城は都を睨みつけた。「なんでこんな事をして俺をハメたんだ」
「勿論、事件の真実を明らかにするためだよ」
都はにっこり笑った。
「事件の真実を明らかにする?」
「今の2つ、鍵の場所とドアのホコリ・・・・この2つは私の嘘なんだよ。だけど」
都は結城をじっと見た。
「窓の下から見つかった金具のないメジャー・・・あれはどうなのかな」
都は結城のメジャーを掴んだ手を指さした。
「このメジャーが犯行に使われたものでは無いことは間違いないよ。だってこのメジャーは学校の備品じゃなくて私の家から持ってきたものだからね。でも私はこのメジャーを金具を切って窓の下に置いたりはしていない。長川警部補に立ち会ってもらって、準備室に金具もそのままに置いておいたものなんだよ。それがなんで金具を切られて学校の下で泥まみれになっているのかな」
都は結城を見上げた。真っ直ぐに。結城はその目を見返した。
「都・・・・お前・・・・」
「この事実が、このトリックの証拠を結城君が捏造した証拠になるんだよ」都は悲しげに言った。
「いつから俺を疑っていた」
結城は都に聞いた。
「最初に変だと思ったのが、結城君が第一の事件で犯人はアリバイ工作を使って死亡推定時刻を誤魔化したと断言した事。でもその為の根拠が全然なかったんだよ。勿論、名探偵になりきってそう推理しちゃったのかもしれないとも思ったんだけど、一緒に事件を追いかけて結城君はそんなタイプじゃないってわかった。なのになんで結城君が当たり前にそう思ったのか・・・。そして第三の事件が起こって、殺された佐久間先生自身がアリバイを工作していたことが分かって、アリバイの謎はわかった。結城君が第一の事件の真相を追いかけたのは2つ理由があるんじゃないかな。1つ目は自分にあるはずがないアリバイが存在していることが不気味で仕方が無かったから・・・そして第二の理由は警備員の与野さんと春奈ちゃんのお母さんに容疑がかかったから・・・自分のせいで無関係な人に容疑がかかるのはなんとしても避けたかったんだよね」
「都ちゃん」長川が共学を隠せない感じで都と結城を交互に見た。
「まさか本当に」
「うん、結城君、私は全部わかっちゃったんだよ。この事件の犯人、放課後の撲殺魔の正体は、結城竜君だって
都はまっすぐ結城を見た。結城は目を見開いたまま驚愕に震えている。
「待ってくれ」長川警部補が声を上げた。
「結城君は第一のアリバイトリックの謎を解いたから犯人に狙われて殺されそうになったんだ。どうしてその結城君が犯人ってことになるんだ!」
「第一の事件のトリックを暴かれたくない人は、犯人とは限らないんだよ」
都は結城の横に立った。
「例えば第二の事件の犯人とか」
「都・・・ちょっと待ってくれ」結城は言った。
「まさか第二の事件の犯人って」結城が振り返ると都は「うん」と振り返った。
「第二の事件の犯人は前々から諸橋先生を殺害してやろうって思っていたんだと思う。そんな時に佐久間先生が殺害され、第二の犯人には完璧なアリバイが出来た。多分その時に第二の犯人の頭に悪魔の声が聞こえたんだと思うよ。今諸橋先生を佐久間先生殺害の同一犯に見せかけて殺せば、アリバイがある自分が疑われることはないって・・・。そして第二の諸橋先生殺害は実行された。でもここで犯人に誤算が生じたんだよ。結城君が第一の事件のアリバイトリックを暴いちゃったことなんだよ。犯人は焦った。だって自分にアリバイがなくなればもうやってしまった犯罪の罪に問われることになるかも知れないわけだし・・・。だから第二の犯人は結城君を襲って、この部屋に閉じ込め、殺害しようとして逆に結城君に殺害された」
結城は下を向いた。
「じゃぁ、第二の犯人って」
長川は都を見た。
「うん、第二の犯人は角田校長先生なんだよね」
都は結城を見て笑った。
「結城君は校長先生を殺してしまったあとで、金属バットの指紋だけは拭ったんだけど、そのあとで密室を勝馬君に破られて、密室の中で死体と2人きりって状況をみんなに見られちゃった。と言っても、第二の事件で結城君には完璧なアリバイがあったし、第一の事件のトリックを見つけたのは結城君自身だから、私も警察も結城君ははめられたんだと思っていた。だって結城君は小学生だし」
都は結城にほほ笑みかけながらホワホワした声で推理を続けた。結城はもはや都を見ておらず、天井を眺めて目を閉じていた。
「でも結城君にとっては、大きな問題を抱えることになっちゃった。それは自分が密室に死体と閉じ込められたありもしない密室トリックを暴くことだったんだよ。そして結城君は私と長川警部補の罠にかかって・・・このメジャーをトリックの証拠として見つけた。あの時結城君は証拠を探すふりをしてメジャーを盗み出し、トイレに行くふりをしてメジャーの先端をトイレで切断、そして草むらをかき分けるふりをしてメジャーを手の裏に隠して、今見つけたようにわざわざ手に持って私に見せつけたんだよ。自分の指紋が残っていてもいいようにね」
「いつから気がついた」
結城は澄んだ声で遠くを見つめながら言った。
「俺が根拠があるわけではなく第一の事件をトリックと言いはったことか」
「あれは違和感あったけど、普通犯人さんが自分が仕掛けたトリックをトリックなんて言わないよ。第一の事件と第二の事件が別人だと思ったのは、第一の事件で金属バッドはそのままだったのに、第二の事件では金属バッドは持ち去られてて第三の事件で使われていたこと・・・。そして校長先生が全校集会で言ったあの言葉」
 
ー倒れた先生を2回も殴りつけるなんて、許せません。
 
「でも長川警部補が犯人が先生を二度殴っていることは全校集会の後で教えてくれたことだからね。この時点で校長先生が犯人だと思った。そして校長先生が犯人だと考えたとき、私は校長先生の第一の事件のアリバイと、結城君の第二の事件のアリバイを考えてもしかしたらって思ったんだよ。ああ、殺人鬼が潜んでいるかもしれない夜の校舎に私を一人でメジャーを取らせに行ったこともおかしかったかな。結城君なら私一人で自分が襲われた危ない学校の夜の廊下を歩かせない。今日のメジャーは、賭けだった。出来れば、私の推理は間違って欲しかったよ」
都の悲しげな笑顔が結城を射抜く。
「結城君・・・君がまさか・・・」
「ええ」
結城はため息をついた。
「この子がこんなすごいやつだったなんて、思いもしませんでした」結城は都の頭をわしゃわしゃした。
「佐久間先生をどうして・・・・」
「それは」結城は少し考えた。
「角田校長と同じですよ。俺はもともとセンコーが嫌いでいつかぶっ殺してやろうと思っていた。そしたらあいつが自分でアリバイ工作をしてて、今殺せば自分にはアリバイがある・・・だからちょうどいいチャンスだと思ってぶっ殺してやったんですよ!」
結城のその時の顔は今までの精悍な顔とは程遠かった。まさに悪魔のような顔だった。
 
8
 
「都を探している時に、あいつがアリバイを作るようPCクラブの女の子に命じて音楽室のほうに向かっていったから、ちょうどいいチャンスだと思って、音楽準備室にあった金属バットであいつの頭をぐちゃぐちゃになるまでボコボコにしてやったんだ」
11歳の少年とは思えないサイコパスのように病んだ顔。結城は笑顔さえ浮かべながら恍惚しつつ自分の犯行を話した。
「全く大人はみんな馬鹿だぜ。俺の心の闇を分からないでよぉ。親が死んだり精神病になって、妹まで死んじまった俺がまともな神経を持っているわけねえだろう。全く最高に面白い3日間だったぜ。センコー一人殺したら勝手に殺し合いが始まっちまってよぉ。そんでもってまた俺にバッドで殴りかかってきたから返り討ちにしてやったんだ。人間の頭カチ割る感触は忘れられねえぜ。本当に俺が強くなったような気がしてよぉ、病みつきになっちまった」
結城はひひひひと笑ってうれしそうに都に語りだした。
「まぁ、上手く騙せると思ったんだけどよぉ。都、お前みたいな人間が出てきてしまったせいで、結局バレちまった。でもまぁどうでもいいぜ。俺は12歳・・・子供だからな。お前ら俺を罰する事なんか出来やしねぇよ。俺は児童相談所に保護されて家庭裁判所で審判を受けるんだ。少年院にも刑務所にもいかなくていい」
凶悪な顔で長川警部補にガンをつけながら、「人を2人殺したのに楽勝で助かったぜ」と馬鹿にするように笑いだした。
 都はその様子をじっと見ていたが、結城の前にやってくると笑いながら言った。
「そっか・・・結城君・・・・そういう人なんだね」
「そういうやつなんだよ。俺は・・・お前の友達でも親友でもコンビでもねえ。凶悪な少年殺人鬼(サイコパス)なんだよ」
「ううん」
都は首を振った。
「結城君はそうやって凶悪なサイコパスとして私の前からいなくなろうとしてる・・・でもそんな事はさせないよ」
都は口元は笑っていたが、目は真剣でまっすぐ慈愛に満ちた目で結城を見つめた。
「事件にはまだ一つ謎が残っているよね、長川警部補。佐久間先生はなんでアリバイを作って音楽室に行ったのかな・・・そして里奈ちゃん・・・。怖い夢をいっぱい見ていた里奈ちゃんは・・・何を見たのかな」
結城の顔色が変わった。
「都・・・お前・・・・」
「大丈夫だよ、結城君」都は笑った。
「結城君は何も言わなくていい。里奈ちゃんがちゃんと思い出してくれるから・・・。私だって・・・里奈ちゃんを助けたいから・・・」
結城の顔が真っ赤になって震えだし、そして頭を抱えて崩れ落ちた。
「・・・・都・・・・・お前は本当に凄いやつだよ・・・・俺の負けだ・・・・・」
結城は声を震わせた。
「私は勝ってなんかいないよ」都は膝をついて結城の頭をなでなでした。
「結城君が人を殺して傷ついていたのに・・・こんな事になってすごく怖かったのに・・・・私は今まで気づいてあげられなかった・・・・お友達失格だよ」
「なんだよ…お前を裏切ったのは俺の方じゃねえか。さっきお前は俺にチャンスをくれたんだろう。何もかも名乗り出るチャンスを…でも俺はこの期に及んでお前を騙せると思った。お前…どれだけ失望したんだよ。お前を失望させた俺に、お前はなんで…こんな笑顔なんだよ」
結城が都にすがって嗚咽するのを、都は背中をさすってあげてそのままの姿でいてあげた。
「殺すつもりはなかったんだ・・・。俺は双子の妹がいてな・・・・お前みたいに人懐っこくてお転婆で・・・・・誰かの為に一生懸命になれる奴で甘えん坊で・・・・おふくろが精神病院に入ったあとは2人でおやじの保険金で助け合って生活していたんだ」
「うん」都は頷いた。
「そんな俺の妹が、5年生になった時だった。ある日突然笑わなくなったんだ。そして飯も食べられなくなったんだ。いくら頑張ってご飯を食べても吐いてしまう・・・・やせ衰えて・・・俺がいくらご飯を食べさせても吐いてしまってな。その度に俺に謝るんだ。変だったのは・・・妹は学校を休みたがらなかったことだ・・・。もともと元気で人懐っこい性格で、妹の楽しみを奪いたくなかったから・・・俺は担任の佐久間に妹をお願いしますと言って、学校に行かせたんだ。でも、ご飯は食べられない。食べてもやっぱり吐いてしまう。涙をポロポロ流してな・・・俺は病院へ連れていった・・・。妹は拒食症だったんだ。すぐに点滴が打たれて・・・妹は病院のベッドの上で・・・ごめんって謝った・・・医者は妹の命は大丈夫と言って、俺も安心したんだが・・・・・それが妹を見た最後だった・・・」
 
 結城は1年前、自宅で電話を受けた。
「え・・・・なんで・・・・」
 
「妹は点滴を引きちぎって病院を抜け出して、学校の前に倒れていた・・・。雨に打たれて、その体は冷たくなって・・・・パジャマ姿のままで・・・・妹がなんでそんなに学校に行きたがっていたのか。ひょっとして点滴とか空腹で幻覚でも見たのか・・・妹が死んだあと、医者からはストレスや空腹による幻覚が原因と言われた。妹のいない部屋はガラーンとしててよ・・・俺が小学生の頃の笑いが絶えなかった家とは思えなかった」
「結城君・・・妹ちゃんが学校に行こうとした理由って・・・・」都が聞いた。
「ああ、お前を探しに音楽室に行った時だ。俺は見ちまったんだよ・・・。泣いている里奈を・・・裸にした佐久間が言っていたんだ・・・・。もし学校に来なかったら他の子を酷い目に合わせると・・・・。大人は誰も助けに来てくれないと・・・。俺の妹が・・・双子の妹の有紗が死んだ時も・・・先生も校長も真実を隠蔽して・・・・だからお前は受け入れるしかないって・・・あいつ・・・里奈に」
「じゃぁ、君の妹が病院を抜け出して雨の中学校に行ったのって・・・自分のせいで他の女の子が被害を受けることを防ぐため」
長川警部補は驚愕して真っ青になった。
「あああ、それをあの佐久間は笑いながら言っていたんだ!」結城の声は憎しみに裏返っていた。目がカッと見開かれる。
「それを聞いたとたん、目の前が真っ白になって・・・俺は気がついたらその場にあった金属バッドであいつの頭をくだいていた。それを里奈に見られたんだ。俺はショックで気絶した里奈の脱がされた服を戻して放送室で寝かせた。もう自分が犯人ですって名乗り出るしかなかったって思ったよ・・・。でも里奈はショックであれが夢だと思って・・・俺ひょっとしてバレないか持って思ったんだ。だって俺勝手にアリバイができちまったし」
結城の声は震えていた。
「でも俺、名乗り出なきゃいけなかった。そうすれば諸橋も角田も死なないですんで・・・俺、もう一回人を殺さずに住んだのに・・・・。俺・・・・俺・・・・」
顔を抑えて涙を流す結城を長川はやりきれないという思いで見つめた。
「わかった」都はにっこり笑ってやさしく結城を受け止めた。「わかったよ、結城君」
「畜生、ちくしょおおおおおおお」嗚咽する結城を都は黙って受け止めた。
 
 児童相談所の車が学校に駆けつけた。
「土浦児童相談所の多摩明子です」
若い背広姿の女性が校長室で待機している結城のもとへやってきた。
「大丈夫だよ。私は君を保護しに来たから」
「事情聴取は警察の方で行いますが、原則児相職員の方の指示に従う形でさせていただきます」
「問題はありません。警察署への移動は私たちの車でさせていただきます」多摩がそう言うと、長川は頷いた。
「さぁ、行こう」多摩が結城を連れて行こうとするが、結城は立ち止まって
「都・・・すまない・・・親友になれなくて」
と向こうを向きながら結城は言った。
「大丈夫だよ」都はにっこり笑った。
「結城君と私はお友達・・・大丈夫・・・また会えるよ」
結城は向こうを向きながら頷いた。やがて結城は児相の車に乗せられ、雨の中の学校へ消えた。
「う・・・う・・・・」
都の肩が急に震えだす。
「う、う・・・・うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああん」
都は顔を両手で抑えて号泣した。長川警部補は小さな名探偵の背中をひたすらさすってあげた。
 
「結城君はご両親の都合で転校することになりました」
緑山先生に言われてクラスは「ええええええ」と声を上げた。学校には大勢の新聞記者が訪れ、連続教師撲殺事件の犯人が12歳の小学6年生というニュースはセンセーショナルに伝えられた。
 
 桜の季節が来た。
「一年生になったら、一年生になったら、友達100人出来るかな・・・100人になれたら・・・」
セーラー服に身を包んで歩くショートヘアの小柄な美少女。入学式の看板の高校校門に飛び込む。
「100人友達ができたら・・・」
うれしそうにスキップする少女を黒髪の少女が追いかける。その姿を見たのは・・・。長身の15歳の少年。
 
(おわり)