少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都episode1 ①

エピソード・ONE
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1
 
「1年生になったら♫ 1年生になったら」
桜並木の下、ランドセルを背負った小柄な少女がショートヘアをたなびかせて歩いていく。
「みー、みーは小学校6年生だよ」
「でも友達100人は作れるよね」
島都は母親に向かって目を輝かせた。
「出来るといいね」
母親は島都という少女を連れて小学校校門に入っていく。
 桜が咲く季節。茨城県守谷市愛宕小学校6年2組に転校生がやってきた。
 
「貴方が、島都さんのお母さんですか」
会議室でメガネの担任の諸橋優一はメガネをずりあげてため息をついた。
「はい、島杏です。年齢は28歳で」
「年齢は聞いていません」
諸橋はぴしゃりと言い放った。
「私も忙しいのでね。お母様としては娘さんが学校で面倒事を引き起こさないように指導していただきたい。28歳で11歳の母親をやるなんてよっぽど何かあったんでしょうが、その面倒事を学校に持ち込まないようによろしくお願いします」
「大丈夫ですよー」
杏はにっこり笑った。
「この子は先生よりも面倒くさい子にはなりませんから」
「何か?」
「いいえー」
杏は口笛を吹いた。
「みー。もし学校でいじめられたらお母さんにすぐ相談だよ。殴りに行くから」
「そんな事になったらお母さんは大学の仕事をクビになって、また私は施設に逆戻りだよ」
都は「もー」っと頬を膨らませた。その時扉がガラガラと開いて、長身の黒髪ボサボサな男の子が学級日誌片手に入ってきた。
「失礼しマース。先生、朝の会終わりました。学級日誌はこれでーす」
気だるそうな男の子は都を見た。
「諸橋先生。こいつがうちのクラスの新入生ですか」
男の子はジト目で都を見た。都はにっこり笑って、「私は島都・・・都でいいよ」と笑った。その笑顔に結城は慌てて顔を背けて「結城竜だ」と言った。
「結城竜君・・・・。格好いい名前だねぇ。キタダニリュウとかカツヤマリュウとかフタバスズキリュウとか」
「俺は恐竜じゃねえよ」
結城は都に言った。
「結城・・・こいつを1組に連れて行ってやれ」
諸橋は命じた。「はーい」結城は都がランドセルと手提げ袋を慌てて手にするのを待って、彼女を連れて扉に消える直前に、都の母親、島杏を振り返った。
「おばさん、心配しないで。こいつがいじめられたら俺がいじめた奴殴りますから。俺はまだ11歳で刑法犯罪に問われないし」
「結城!」
諸橋が叫ぶのを結城は無視して歩き出した。
 真新しい平成デザインの学校で都は結城の後をトコトコついていった。
「ふふふ、結城君ありがとね」
「別に」彼は前を向いたまま言った。
「結城君は私がこの学校で作る友達の第一号だよ」
「友達100人?」結城は訝しげに都を振り返った。
「無理だよ。100人だって。今は少子化な時代だぜ。友達100人よりも親友を2,3人作ったほうがいい」
結城は言った。
「じゃぁ、私と結城君は親友だね」
「いい加減なことを抜かすなや」
結城はぶっきらぼうに教室のドアを開けた。
「6年2組だ」
結城は都を連れて入ってきた。
「結城君、諸橋先生は?」
黒髪で長身の少女、小山里奈が怪訝な顔で聞いてくる。
「校長にぐちぐち文句を垂れたら来るよ」
結城はため息をついた。
「お前はここ」
結城は自分の横の空席に座らせた。
「ここが私の席か」都が目を輝かせると「担任の諸橋はおっかないからな。あんまりフラフラするなよ」と結城は注意する。
「よく言うぜ。結城この前諸橋ぶん殴っただろう。おかげで諸橋、結城には何も言ってこないんだぜ」
後ろからTシャツ姿の北谷勝馬が面白くなさそうに言った。
「ほぇーーー」結城君強いんだね。
「俺だって、あんな奴ボコボコにしてやろうと思ったんだ」勝馬がボクシングの真似事をしながら言った。
「それなのにお前が余計な手出ししやがって・・・」
「へいへい。悪かったよ」結城はため息をついた。
「でも勝馬君。勝馬君が思いっきり諸橋先生に蹴り入れたり頭黒板にゴンゴンされていたから、結城君が止めに入ったんだよ」黒髪セミロングの利発そうな高野瑠奈が声を上げた。
「いいいっ」勝馬が罰の悪そうに顔を赤くする。
「でもそれは私が先生に叩かれていたのを勝馬君が助けようとしただけで、勝馬君は悪くないよ」
小山里奈はおどおどしながら、みんなをなだめる。
「もう私暴力は嫌だから」
「大丈夫だよ。先生結城君にぶっ叩かれて、怖がって何もしてこない」
「先生が来たぞ」
出席番号1番がみんなに知らせ、全員が席について背筋を伸ばした。
「都、背筋を伸ばして座って」
「わわっと」結城に指摘されて、都が直立不動の姿勢で座る。諸橋は不機嫌そうに教室に入ってきた。
「ちっ、校長の野郎めんどくせぇ生徒を押し付けやがって・・・・。ああ、お前ら転校生が来たから名前を覚えておけ・・・。今俺は機嫌が悪いからな。予習とか忘れてみろ。リンチ学級会を開いてやるからな。足立。昨日の続き・・・」
「はい!」
足立が声を上げたが、その声が吃音だったので諸橋の教科書が彼の顔に飛んだ。
「こういう声を直してこいって先生言ったよなぁ」
足立君は真っ赤になって震えながら下を向いた。
「何黙ってるんだよ。教科書拾えよ」
諸橋が声を上げた時だった。結城は「てめえが投げたんだからてめえが拾えよ」と頬ずえ付きながら眠そうに言った。
「何?」冷酷な声で諸橋が言った。
「なんならもう一度リンチ大会開くか」
結城は足を机の上に乗せて諸橋を見上げた。諸橋は「ち」と舌打ちして教科書を拾うと、「大人の世界で通用すると思うなよ」と結城を睨みつけたが、結城は「お前みたいな糞が教師やれるくらいだからどうにかなれるだろ」と一歩も引かない。諸橋は黙ってしまった。
 休み時間になると、結城はクラスのみんなが「結城君すげーーー」「めちゃめちゃかっこよかったー」と賞賛するのを手で制して、「俺はちょっとトイレ」と言って、廊下をトボトボ歩く足立君の横について歩いた。
「結城君、さっきはありがとう」
小太りの足立君は小さな声で言った。
「いや、むしろすまねえ」
結城は上履きを半分脱いで大股で歩きながらため息をついた。「諸橋がお前に八つ当たりしないか心配だ」
案の定男子トイレでは、諸橋が腕組をして待っていたが、足立の横に結城がいるところを見るとすごすごといなくなった。
「お前はトイレに行きたくなる体質なのを狙ってネチネチやるつもりだったんだ。あのサイコパス野郎」
結城はちっと舌打ちした。
「トイレに行ってきな。大でも小でも」
結城は手を振りながら、トイレの前で腕組して仁王立ちになった。
「さすが結城君」
都は結城の横で目をぱちくりさせて座り込んだ。
「なんだお前かよ」
結城はトイレの前でうんこ座りしながらため息をついた。
「結城君すごいな。正義の味方みたい。足立君すごく嬉しかったと思うよ」
「そういうお前もな」
結城は都の手から算数セットのおはじきが大量に入った靴下を取り上げた。
「お前俺が凄んでいる後ろでこれ振り回していただろう!」結城が真顔で大声を上げた。
「高野が死に物狂いで止めてたぞ」
「お母さんが変質者に襲われた時のために教えてくれたおはじきデストロイヤーだよ。えんしんりょくを使ってパワーを高めるんだよ」
都は結城が取り上げたブツに手を伸ばす。
「こんなもので大人を退治できるか! おはじきなんかで」
結城はため息をついた。目頭を押さえて「全く無茶しやがる」と息をする。
「まぁまぁ、結城君。正義の味方も一人では戦えないよ。強い悪者にはみんなで力を合わせて戦うのが一番。そういうわけで、私がコンビになってあげるよ」
「いらねえよ!」結城は喚いた。
「お前みたいなアホが俺のパートナーなんて死んでもゴメンだ」
結城は正面を見た。
「俺は不良になっていくんだぞ。センコーと喧嘩して危ない奴って大人に思われている。それって結構辛いことなんだぞ」
「大丈夫だよ」都は笑った。
「結城君は不良にはならない。大丈夫」
その笑顔を見て、結城は顔を背けた。
「お前の言うことなんて信用できるか」
結城はため息をついた。
 
 空き教室で黒い影は笑っていた。邪悪な笑みだった。
「完璧だ・・・完璧な計画だ・・・私は完璧なアリバイ計画を手に入れて・・・あいつを・・・・」
その時、凄惨な小学校連続殺人事件の幕は切って落とされていたのだが、結城も都も知る由もなかったのである。
 
2
 
 下校時、学校は雨が降り始めていた。バケツをひっくり返したような雨が降っていた。
「起立、礼・・・・先生さようなら、みなさんさようなら」
諸橋が挨拶もせずに出ていくのを横目で見ながら「あー、終わった終わった」と勝馬がため息をついた。
「クソッ。降ってるぜ」
「お前はバカだから傘なしでも風邪ひかねえだろ」
結城は窓の外を見てため息をついた。
「あれ、里奈ちゃんは何処へ行くの」
都がランドセルを背負う里奈に声をかけると里奈はにっこり笑って
「私は放送委員会だから」
と笑った。
「それじゃぁ、私はこの学校を探検してきます」
都は瑠奈と結城にビシッと敬礼して教室を出て行った。
「おいおいおい」結城が後を追いかけたが、都はびゅんといなくなった。
「センコーに目をつけられたらどうなるんだ」結城はため息をついた。
 
「全く、都の奴どこに行きやがったんだ」
結城はため息をつきながら視聴覚室の前にやってきた。
「パソコンルームか・・・あいつ紛れ込んでいそうだなぁ」
結城が扉をガラリと開けると、無表情な女の子が一斉にこっちを向いた。
「!」
宇宙人の会合にでも出くわしたかのような衝撃に結城は「いいっ」となった。暗い教室に浮かび上がる液晶の光に照らされた無表情な少女たち・・・。その奥で長身で白髪でメガネをかけた教師佐久間銀次がこれまた無表情で結城に向かって「何か用か?」
「い、いいえ・・・失礼しますた」
と結城はすごすごと扉を閉めた。
「な、なんだ? PCクラブか」
結城は頭を掻きながら、ふと上を見上げた。階段の上・・・・。
 
「全く」
「うひゃーーーー」
食堂のおばちゃんの広川然子に猫のようにつままれて都はにゃーと泣いていた。
「つまみ食いは禁止」
「すいません」
瑠奈が都を受け取って胸に抱きすくめた。
「家庭の事情があるんなら、忍び込むんじゃなくて正式に要請して頂戴」おばちゃんは入口に並ぶ10人くらいの子供を指さした。彼らに共通していることはみんなガリガリだということだ。
「親が貧しくて家でご飯が食べられない子供よ。最近急速に増えているの。この子達は学校か子供食堂でしかご飯が食べられていないの」
「そんな」
瑠奈がショックを受けたように口を押さえた。
「もしあなたたちも食事に困っているのなら、子供食堂のチラシあげるから、お母さんとちゃんと話して来て頂戴」
「わかりました。行こう、都ちゃん」
「都でいいよ、瑠奈ちん」
都は元気一杯笑った。そして子供たちに「ごめんね、ズル込みしちゃって」と手を振った。
「いいよーーー」2年生くらいの女の子がハイタッチしてきた。
 
「おい」
結城が小山里奈を起こす。
「結城君」里奈が目をこすりながら言った。
「あ、ごめん。私寝てた?」
「思いっきりぐっすりとな」
結城は放送室を見回した。
「全く、寝過ごしたら諸橋の馬鹿にどやされるぞーーー」
結城は頭をカキカキしながら立ち上がり「下で待ってるわ」と言った。
 
「すごい雨ですねぇ」
角田真喜男校長が眼鏡の奥をぎらりと光らせて、窓の外のバケツをひっくり返したような雨を見つめた。
「通り雨だからすぐにやみますよ」
諸橋は冷徹に雑誌を読みながら言った。
 その時、放送が聞こえた。
ー4時になりました。まだ校内に残っている人は早く下校しましょう。
「小山さん偉いわね。小山さんの担当日は毎日下校放送しっかりしているわ」
若い女性教諭の緑山ゆりは感心したように言う。
「そんなの、社会に出て何の役にも立ちませんよ。あんな容量の悪い」と諸橋。
「諸橋教諭」
若い田中一平教諭が目を怒らせて諸橋に立ちふさがる。
「前々から思っていたんですけどね、学校の教諭がこういう態度を取る乗って問題あると思いませんか?」
「ち」
諸橋はいきなり立ち上がると田中の首を締め上げた。田中がぐっと苦しげにもがく。
「あんまり眠たいことを言っていると殺すぞこるぁ」冷たい諸橋の声。眼鏡の奥で目が瞳孔が開きまくって完全に危険人物になっている。
「やめてください、諸橋先生!」緑山が悲鳴に近い声を上げる。
「まぁまぁ、諸橋先生。このくらいでこのくらいで」
太めの教頭の国山道子がオロオロしたように声を震わせる。諸橋は田中を離した。
「クズのくせに理想を語るな。餓鬼っていうのは牧場の家畜と一緒だ」
冷酷な表情で顔だけ引きつらせて、諸橋は田中を見下ろした。
 田中は何も言い返せず、周囲を見回したが味方が誰もいないと知ると、フラッと教室を出て行った。
 
「おまたせー」
昇降口を小山里奈が走ってきた。
「大丈夫だ。ちょうどこいつも見つかったことだし」結城は片手に「にゅあー」と猫みたいに暴れている都を吊り下げてみせた。
結城は昇降口の外で逃げるようにして校庭を走っていく影を見つめた。
「あれはうちのクラスの春奈のおばちゃん」瑠奈が指差す方向にレインコートを着た人物が走り去っていった。
 棚倉利江子は、校舎の裏門から外に出ると信じられないものを見たというように体を震わせて再び走り去っていった。
 
 同時刻、警備員与野啓太は懐中電灯を手に階段を上った。音楽室にライトを向けた時だった。その内部の照らし出された光景に与野は息を飲んだ。
「うわぁあああああああああああああ」
絶叫が校舎中に響き渡った。
「な、何なんだ?」
勝馬が素っ頓狂な声を上げるのを尻目に、結城は
「お前らはここに居ろ」と喚いて階段を駆け上がった。声のした方向にまっすぐ走ると、教室の中から警備員が飛び出してきた。
「大丈夫か警備員さん」
結城は震える警備員さんの肩を掴んで彼が指差す方向を見ると、外の雷に照らし出された死体があった。頭を滅多打ちにされて血だらけになり、眼窩から片方の目玉が飛び出た佐久間銀次の死体があったのだ。
 
(つづく)