少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

魔法少女殺人事件ファイル1

魔法少女殺人事件 導入編
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1
 
「ェェエエッハアアアァアーー!! ウワッハッハーーン!! ッハアーーーー!」
小柄でショートカットの高校1年生の美少女は、テレビの前で絶叫していた。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ」
「師匠・・・喜び方が野々村になっていますよ」
中学2年生の結城秋菜が、彼女が師匠と呼び慕う島都にツッコミを入れた。
「だってれええええええええええ、愛の力だよ、愛の力でかわいそうなデーモンデビル2世45度ツンツン君を闇の力から救い出したんだよ! 未来ちゃんの愛の力は間違っていなかったんだよぉ」
都は鼻紙でチーンした。
「師匠は本当に『魔法少女未来』が好きなんですね」
秋菜はクスリと笑った。
「私の師匠だよ。私もいつかこういう魔法使いになれたらいいなって思ったんだよぉおおおおお」
「30代で処女を貫けば魔法使えるようになるよ」
横で千尋がポリポリポテチを食べながら言った。
「おおおおおお、そうか。なら私ずっと処女でいる。だってエッチって痛そうだし、私絶対やらないもん」
「ちょっと・・・・・」
千尋に秋菜が噛み付いた。
「そんな事言って・・・師匠が一生独り身になったらどうするつもりですか!」
「大丈夫、大丈夫! 結城君、痛くないようにしてくれると思うし」
「ぎょほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
都が発作でも起こしたのごとく鼻血を出してぶっ倒れた。
「ち、ち、ち、ち、ち、千尋さん!」
秋菜が顔を真っ赤にして絶叫する。
「都とヤル時の為に、一応実技研修として『迫真バスケ部』『迫真柔道部』『青梅線-真夜中の実技』のDVDを貸しといたから」
千尋のことだ。絶対┌(┌^o^)┐に違いない。
「愛の力だよ」
千尋がグッと親指を立てるのを秋菜はどう突っ込めばいいかもわからずリアル既読無視した。
「さてさて、Twitterをチェックしないと」
都は千尋の家のMacで自分のTwitterアカウントを開く。
「師匠、Twitterやってるんですか!」
「うん、未来ちゃんの大ファンの中学の友達から作り方教えてもらった」
「ミラクラってわけですか」
「そうそう!」
都がパスワードを入れてアカウントを開くと、
-島都-という垢名前と未来ちゃんステッキを構えてドヤ顔の本人のヘッダーが躍り出た。
「ししょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
秋菜が都を突き飛ばしてアカウントを勝手に弄られた。あっという間にアカウント名が「アイランドシティ@魔法少女未来」、ヘッダーは魔法少女未来のポスターになった。
「師匠・・・・Twitterに個人情報を流しちゃダメじゃないですか。顔とかもダメです! 変なストーカーみたいなのに目をつけられたらどうするんですか?」
「長川警部に言うから大丈夫だよ」
「長川警部に説教されると思います。1時間くらい」
秋菜はフォロワー351人をざっと見回してみた。見たところ大体は純粋な未来ファンのようだった。ひとつだけ秋菜も知っている人物がいた。福島県警の陳川警部だった。
 都にかなりリプを送っているらしい。
-@miyakokuma123456 都さん、僕の衣装を評価していただきありがとうございます(੭ु ´ω` )੭ु⁾⁾ 今回も創造性を追求して見ました。是非都さんの意見を聞きたいです。
 添付されていた画像には網タイツにミツバチのコスプレをしたガチムチマッチョの男が、ドヤ顔でポーズを決めていた。また、それを都がいいね登録していて、
ー@tinkawabidanshi47 かわいいいいいい\(//∇//)\。これにくまのプーさんの帽子かぶってみたらどうだろ(=ΦエΦ=)
と返信までしている。秋菜はそっとパソコンの画面から目を離した。
-私、女子高生探偵島都を尊敬してますから。
「おおおおお」通知画面を見た都は、嬉しそうに目を見開いた。
「秋菜ちゃん、未来ちゃんからメールが来てるよ!」
「ボットじゃないですか?」
秋菜と千尋が覗いてみるが、どうもボットにしてはちゃんと会話が成立している。
-@miyakokuma123456 DM送ったよ
とあって、DMには
-私、未来を演じている早見桜っていうの。実は今回ドラマで『魔法少女未来青春編-憎しみのツボ』って映画のロケ中なんだけど、役作りで女子高生探偵として事件を解決している都ちゃんにロケ現場に来てもらって、いろいろ教えてもらいたいの。交通費と宿泊費は出すから、今度の連休に来てくれないかな。
「あれ、ガチだったんだ」
千尋は慌ててメールを見た。
JBCからもちゃんとお願いするメールが来てる」
千尋は目を丸くした。
「これ、嘘臭くないですか? だって、この『魔法少女未来BOT』って、演じている早見さん本人って事じゃないですか」
秋菜は半信半疑だ。だが、もう遅い。
「未来ちゃんが、私のことを必要としているんだよ」
決意に満ちた表情で都は言った。
「未来ちゃんの魔法の力にはみんなの愛が必要なんだよ。私も今度は地上世界の住人として、未来ちゃんを助けてあげたい」
都は学生鞄から魔法ステッキを取り出した。いつも持ち歩いているのは千尋と秋菜は知っていることなので、あえて突っ込まない。ドヤ顔でそれを自由の女神みたいに構えても日常風景になっている。
 もう行くしかなくなったようだ。
 
「それで俺までか」
秋菜の従兄で都の同級生、結城竜は憮然とした表情で通り過ぎる常磐線の列車を眺めた。
 茨城県日立市のローカル駅前。ここでロケバスと待ち合わせって事になっている。
「そりゃ、そうよ。もし変な奴が呼び出していたらぶっ飛ばす役目が必要だもん」
と秋菜。
「誰も来なかったら」
「師匠と一緒に海を見て、海鮮料理を食べる。兄貴のおごりで」
「なんで俺のおごりなんだよ」
「だってあれを見てよ」
秋菜が顎をしゃくった先でロータリー前で都は心が(੭ु ´ω` )੭ु⁾⁾体もピョンピョンしている。
「結城君・・・まだかなまだかなーーーー」
目がキラキラしている。
「あれで来なかったら、師匠撃沈しちゃうよ」
「確かに」
結城は唸りながらロータリーを見回した。悪質な野郎が待ちぼうけを食らっている都をYouTubeかニコニコで配信していないか確認しているのだ。
 だがその時一台のマイクロバスがロータリーに入ってきた。そして都の前で停車した。もうこのまま都をハイエース出来るくらいのどんぴしゃりな位置で、
「都ちゃん、来てくれたんだ!」
そこから出てきたのは正真正銘の早見桜魔法少女未来だった。
「うそおおおおおおおおおおおおおおおおお」
秋菜が大声を上げた。
「未来ちゃんだ。本当に」
だが都は訝しげな表情で桜を見つめた。
「本当に未来ちゃん?」
都はジッと見つめる。
「雰囲気は未来ちゃんそっくりだけど、未来ちゃんよりずっと背が高いしおっぱいも大きい。きっとパンドーラ女王が変装しているんじゃないかな」
「バカ野郎。魔法少女未来は今やってるのは再放送だろ。彼女は大人になったんだよ」
「え、もう中学生じゃないの?」
都は目をぱちくりさせた。
「来月で二十歳・・・もう6年は経ってるわね」
「うおああああああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああわあああああああああああああああああ」
都は絶叫してジャンプすると桜の体に四肢全てを使って抱きついた。
「会いたかったよぉ。もう大丈夫だよ。どんな困難があっても愛の力で力を合わせれば乗り換えられないものはないから」
真剣な表情の都に、桜も抱きついた。
「私も、都ちゃんが来てくれて嬉しい。ありがとね」
と言った。
「感動の再会のところ悪いんだけどね」
スーツをビシッと決めた若い女性が紙を片手に現れた。
「予定押しているから、早くバスに乗ってくれないかな? ええと、あなたたちは?」
桜のマネージャー松原時穂が、結城と秋菜を見回す。
「都のマネージャーみたいなものです」
「助手です」2人はそれぞれ答える…と、
「知ってますよ」
バスからクスクス笑いながら顔を出したのは、都と同じくらいの少女だった。
「ひょっとして、川沼梓ちゃん?」
秋菜が素っ頓狂な声を上げた。
「有名人ですよ。お2人とも、桜お姉ちゃんがいつも探検部や秋菜ちゃんの事を話しているから。そのやりとりが面白くて」
「わーっわーっ、私名前を覚えられてる」
秋菜が顔を真っ赤にした。中学生には驚愕の事実だ。
「僕も楽しませてもらったよ。結城君、君はなかなか面白い子だね。夫婦漫才真っ盛りだ」
クールな二枚目の俳優がナルシストに自分の髪を撫でながら言う。
「この人、向井慶太郎だよ! 嘘! ジャニーズの! あの私今度出る映画『ラブパラドックス』見ましたよ!」
「嬉しいね。君みたいな可愛い子が見てくれるなら、出たかいがあったよ。今日はよろしくね」
(なんだ・・・このチャラオ。中学生に・・・)
結城が憮然とした表情をする。
「車出しちゃっていいですか?」
運転席からADの若くて整った顔立ちの青年、清水想が声を上げる。
「ああ、構わん、出してくれ」
長身で坂上忍を連想させる芸能プロダクション社長、甲本丈が頷いた。
「急いで頼むよ。少なくとも本郷さんとウメコさんより前には到着していないと、機嫌を損ねるようなことがあったらマズイからね」
「それにしても、甲本さん。あの子達大丈夫ですかね。現場の雰囲気を乱しやしないかと不安なんですが」
メガネに無精ひげの男が不信感たっぷりにこっちを見てきた。
「副島さん。役作りのために桜ちゃんがやったことだ。協力してあげてもいいじゃないか」
甲本が言うと、副島は「こういう勝手なことは困るんだよ」と声を上げた。
「副島さん。分かっていないようだな・・・・。日活ロマンポルノの成り上がりのあんたが、ウメコさんや本郷匠さんと仕事が出来るのは、私らのプロダクションが頑張ったからだよ」
「ち。現場には連れてくるなよ?」
監督の副島卓彌は憮然とした表情で前を見た。
(なんだあの親父・・・こちとら頼まれてきてやっているのに)
結城は唸った。
「ねえ、兄貴。本郷匠とウメコデカメロンも来るって事だよね」
「ああ、かなり大物だぞ。俺はそんなに興味ないけど」
「兄貴は芸能人に興味ないもんね」
秋菜が言うと、「うるせぇ」と結城は唸った。
「あら、本郷さんに興味がないなんて、枯れた人生してるわね」
横からカメラマンの男が声を上げた。長髪の男である。
「あの眩しい肉体とフェロモンを私は撮影班としてこのカメラで捉えるの。ああん、考えるだけでワクワクしちゃうわ」
カメラマンの下北岡正嗣はそう言って体をくねくねさせる。
「くだらねえこと言ってないで、山川さんとは連絡ついたのか?」
と甲本が怒鳴る。
「つかないわよ。松原さん、そうよね」
「ええ、おかしいですね。昨日電話するって言ってあったのですが」
「どうせ、あのわがまま直木賞作家のことだから、キャバクラにでもいってるんでしょう。女の子大好きだし」
下北岡はふて寝の態勢に入った。
直木賞作家がさりげなく出てるよ」
「その作家さんの家なんですよ。今回のロケ地、岩窟は・・・・」
 
斜面に作られた石造りの城は、日立市の山奥にあった。まだ4月でも雪が残っているくらい高い場所にある。
 テラス状の駐車場に降り立ったとき、この館が惨劇の舞台になるとは、都も結城も秋菜も思いもよらなかった。
 
2
 
「山川さん、山川さんいないのかい?」
副島が呼びかけるが、荘厳なホールの中に人の気配はない。
「しょうがいないな。清水君、一緒に探してくれるか」
「はい」
荷物を降ろしながら清水が答えた。
「お買いものにでも行っているのかな」
都が目をぱちくりさせた。
「でもさっき行ってみたらガレージに山川さんの車はあったし・・・」
桜が不安そうに言う。
「ちょっと俺も探ってみますか」
結城は城の中に踏み込んだ。
「いいの?」
秋菜が聞くが、結城は「だって都はとっくに探検に出かけたぜ」と呆れたように言った。
「ぷっ」
早見が吹き出した。
「都ちゃん想像通りだわ」
「私たちも探そう」
梓も苦笑しながら、一同についていった。
 
「広いお屋敷ですね」
秋菜が声を上げた。
「ヨーロッパから移築されたものらしいよ。今直木賞作家の山川仁さんが買い取って、家として使っているみたいだけど」
「さすが、直木賞作家・・・書斎も本がいっぱいだわ」
桜が開けっ放しのドアから部屋を覗き込む。
「ん、都ちゃん」
「どうしたの、桜ちゃん」
桜に指を指されて、都が書斎の部屋の机の奇妙な状態に気がついた。
 書斎の上に開かれたタウンページの半分位の厚さの本の真ん中にナイフが刺さっている。
「誰かが本の中に宿っている悪い魔法使いの呪いを倒したのかな」
都が考え込む。
「それならバジリズクの牙が使われているんじゃないかな」桜も考え込んでいた。
「そうじゃないなら、これは山川さんが残した暗号・・・」
都がナイフが刺さった本のページを見ている。
「これは先生が書いている『屍蝋鬼』って小説のページね」
梓が都の横から覗き込んだ。
「なにそれ」
都がぽかんと声を上げる。
「人間が水中で腐らずに蝋と化す屍蝋現象。それに生きた状態でなってしまった老人が、次々と人を殺していくって話です。首を切ったあと、胴体をドライアイスで保存して自分の肉体を取り戻そうとするんです」
「グロ」
と秋菜。
「なんだよ、そのこれから見立て連続殺人が始まりそうなフラグは」
結城が唸る。
「ちょっと、君たち、勝手に先生の部屋に入らないでくれるかな!」
清水ADが大声で廊下から怒鳴ってきた。
「先生にへそを曲げられでもしたら、この城を使わせてもらえなくなるかもしれないんだぞ!」
「いませんよ。この屋敷には。それにADさん・・・これどう思います?」
「え?」
結城はADにナイフが刺さった本を見せた。
「どうせ先生の悪戯だろう。あの先生は人をいたぶるのが好きだからな。さぁ、ウメコさんや本郷さんも到着した。桜さんも梓さんも出番ですよ!」
「はい!」
桜と梓はすっかりプロの役者の顔になっていた。
 
 1日目の撮影は滞りなく終了し、その日は予定通り夕食の時間となった。
 秋菜は都の横でそわそわしていた。
「兄貴、目の前にウメコデカメロンがいるよ」
秋菜は小声で結城に言った。目の前には確かに「ブッチャケ言っちゃうわよ」で有名なコラムニストでタレントのウメコデカメロンがいた。容姿は読者諸君の想像通りである。
「見りゃわかるよ、それに横に居るのは反町が卒業したあとの次期相棒、本郷匠だっけ?」
やたらとマッチョで渋みのある40すぎの俳優がステーキをほおばっていた。
「ハリウッドでは渡辺謙と双璧となす存在らしいぜ」
「知ってる。『トランプ・ゴジラ』でツブラヤ博士の役をしてた人でしょ」
「俺たちとんでもねえところに来ちまったな」
結城はシチューをほおばりながら唸った。
「なんか悪いっすね、俺たちの分まで作らせちゃって・・・ええと、早見さん」
「桜でいいよ! シチューだしたくさん作ったからね」
「このシチュー本当に美味しいよ、桜ちゃん・・・・これ実は魔法を使って作ったでしょ」
都は幸せそうな表情だ。
「梓ちゃんのレシピよ。梓ちゃんは昔からすごく料理が美味しくて、孤児院の時からみんなを楽しませてたんだから」
「孤児院って、一緒の孤児院なのか」
結城があっけにとられた顔をしてからすぐに、「いや」と答えなくていいとジェスチャーした。
「大丈夫、ウィキペにも乗ってるし。そもそも私や梓が芸能活動をしたのは、孤児院出身の子供たちを積極的に雇っている甲本社長のプロダクションに入ったからなんだ」
桜は笑った。
「甲本社長と孤児院の寮母さんと一緒に喜んだな。魔法少女未来の役を射止めた時には、社長から『こんな時代に子供たちに夢を与えられるのは桜しかいない』って言われてさ」
「甲本社長は恩人です」
梓は言った。桜と比べて黒髪で大人しそうな少女だが、どこかに芯が通っているように見えた。
「まあ、みんなが頑張ったおかげだよ。桜を大手に売り込んで、大物俳優や作家が参加する作品に出演させたのは、マネージャーの松原君だから」
と甲本。
「おだてたって何も出ませんよ」
と松原マネージャーは可愛く微笑んだ。
「でも、その順風雨満帆の裏にはいろいろあったわよね」
ウメコデカメロンが食物から顔すら外さずに辛辣な声で言った。
「妹さんが自殺したっていうのに、それは会話から削除ですか」
「おいおい、今それについて言及する必要はないだろう」
本郷が諌めるように言った。
「私は知ってるのよ」
ウメコがじろりと本郷を見つめた。
「あんたが日本のアイドルと寝させてくれるように、そこの社長さんに圧力かけていたって噂」
「そうそう、困ってるんだよ。そこのデブのオカマみたいなメディアリテラシーのない連中が騒ぎ立てて。まあアメリカで活躍すればこういうゴシップは話題作りの景気づけになるから、僕としては別にいいんですが」
「なんですてぇ」
ウメコがガルルルルル唸り声を上げた。
「まあまあ、2人とも、中学生の子が見てますよ。その辺にしてはどうですか?」
とイケメン俳優の向井慶太郎がウメコをたしなめるが、
「別にかまわないわよ。10代や20代のアイドルなんて、私が本気で潰そうとすれば簡単なんだし」
ウメコはワイン片手にくだを巻いた。
「別に俺はアイドルじゃないんですけどね」
結城が呟く。
「まあ、ウメコさんのその体型からすれば、アイドル関係なく物理的に潰せそうな気がしますが」
「プッ」
桜が思わず吹き出した。
「あんた、何笑っているのよ」
ウメコが絡むように桜に近づくのを、松原マネージャーが牽制した。
ウメコさん。一応この子はハリー・ポッターのスピンオフに出演することが決まっています。何かやらかしたらあなたが世界中から叩かれますよ」
「不愉快よ、部屋に戻るわ」
ウメコがドスンと立ち上がり、そのまま部屋に戻っていった。その様子を見て、秋菜はスターウォーズのあれを連想した。一方都はウメコのスープの残りを拝借にかかる。
「みんなウメコを前にして肝が据わってるなぁ」
本郷が感心したように言った。
「本郷さん、みんな前に殺人事件とかに遭遇したことがあって、度胸は座っているんです」
と結城は残り物を平気で食っている都の頭をなでなでした。
「全く・・・・あのババアは会うたびに空気をぶち壊す」
副島監督がため息をついた。
若い女性に嫉妬しているのよ」
カメラマンの下北岡が蔑むように言った。
「本郷さんに女性ファンが多いからって・・・最低よ」
「正直ああいうのにファンだって公言されたくない」
本郷も苦笑いした。
「あっちゃーーーーー」秋菜はため息をついた。
(芸能界ってこんなんなんだ・・・でもそんな中でブレない桜さんは素敵だな)
そう羨望の眼差しで桜を見る秋菜を、本郷はまじまじと見つめた。
 
 早見穂乃果はあの結城秋菜という少女に似ていたな・・・・。
 本郷は自分の部屋でそう思った。あの少女はとにかく純粋だった。小さな出来事に目をキラキラさせて感動し、思春期の中でいろんなものを見てドキドキできる感性を持っていた。そして家族・友達思いで優しく、笑顔が素敵な子だった。
 そんな少女が、マッチョな男によって裸にされ、性的暴力を受けながら首絞めプレイを受けるときの、死の恐怖、自分の体の反応に対する困惑、絶望の表情。その素晴らしさはもはや止め用がなかった。本郷にとって、結城秋菜という少女はまさに自分がプレイの最中に死なせた穂乃果に仕草がよく似ていた。
 全裸になり、姿見に自分の筋肉を移しながら、結城秋菜という少女をいかに支配下に落とすか考える。いたいけな少女に筋肉の魅力と性の喜びを教えてあげたい。その欲求が体を戦慄させ、眠ることができない。
 明日の撮影の体力を温存させる為には、一発やるしかなかった。さっき甲本に命じて少女を一人、この部屋に送ってもらう手はずになっている。あいつがこの業界で活躍できるのは、この俺がいるからなのだ。
 時計は10時を示している。ドアがノックされた。
 本郷はドアを開けた。全裸のまま訪問者を招き入れ、自分の陰茎を見せつけるような位置に立つ。
 だが、次の瞬間起こった出来事は、本郷には理解できなかった。小太刀というべきだろうか、その刃物が自分の脇腹を走ったのだ。脇腹に大きな切り傷が一直線に出来、そこから大量の出血と一緒に腸がこぼれ落ちる。凄まじい激痛に悲鳴を上げた瞬間、小太刀が喉を突き破り、声帯を破壊した。
 断末魔に痙攣する本郷を、黒い犯人が冷徹な表情で見下ろしていた。
 
つづく