少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

暗黒空間殺人事件3 転回編

暗黒空間殺人事件(転回編)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【容疑者】
・佐野浩史(16)常総高校1年
・田口葉空(15)常総高校1年
・宮崎咲良(15)常総高校1年
・菅城澪梨(15)時和高校1年
・佐藤瞳(16)キャンプ場高校生ガイド
渡辺康幸(52)渡辺アミューズメント社長
・東山明華(24)愛人
・松崎勘太郎(28)従業員
岸下保(28)従業員
・犬ちんこ(?)
 
5
 
「さぁ、奥へいけ」
松崎に促されて結城は両手を挙げたまま歩き出した。ちらりと横で都を見る。
「クソッ」
結城は臍をかんだ。
 今回岸下保が殺されたとなると第一の事件で岸下と松崎勘太郎狂言という可能性はなくなった・・・となると俺たちの知らない第三者が犯人なのか? そしてその犯人はこの暗闇の奥に・・・・。
 結城の額に冷たいものが走る・・・。守れるか・・・都を守れるのか・・・。
「動くな!」
突然横道の坑道から黒い影が飛び出し、猟銃が松崎の即頭部につきつけられる。
「澪梨ちゃん!」
都が大声を開けた。菅城澪梨が震える手で松崎に猟銃をつきつけた。
「お前!」
結城は呆気にとられた声を出したが、すぐに松崎のてから猟銃を奪って松崎につきつけた。
「動くんじゃねえぞ。都・・・俺の靴ひもをとっていいから・・・こいつで松崎の親指と親指を縛りあげろ・・・・妙なことをするなよ・・・・確かどんな事があっても緊急避難で片付くんだったよな」
結城が冷たい声で言った。
「了解」
都が結城の靴ひもで松崎を後ろでに縛り上げる。
「都を人質なんて妙な気起こすな・・・ちょっとでも身動きすれば容赦はしない・・・・お前はみんなに危害を加えるとか銃を持って口にしたからな・・・場合によっちゃ本気で撃ち殺すことも考えている」
結城の目はマジだった。松崎は観念したように座り込んだ。
「で、なんでお前はここにいるんだ。それも猟銃を持って」
「銃声が聞こえて怖くてトンネルの奥に走ったら、いつの間にかここにいたの」
「つまりみんなのいる場所と俺と勝馬が立ちションしていた通路は奥でもループしているってことか」
「う、うん・・・私、岸下さんの死体見つけて・・・無我夢中で猟銃を持って・・・・」
「なるほど・・・」
結城はため息をついた。
「他のみんなは」と都。
「わかんない・・・みんなは走って行っちゃったから」
「クソッ、迷路に迷い込んだりしたら厄介だぞ・・・」結城は舌打ちをした。
「おーーーい」
突然田口の声が聞こえた。
「結城か?」と田口葉空が小柄なショタの顔を安心させる。
「ああ、佐藤も一緒らしいな」
「うん・・・でも何人かはぐれちゃったみたいで」と佐藤瞳。「い、今の銃声だよね・・・。まさかまたあの会社員の人たちの誰かが・・・」
「お、お兄ちゃん!」
結城秋菜がその奥から走り寄ってきて結城に抱きついた。
「秋菜か・・・・よかったぜ・・・無事で」結城は秋菜の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「うん・・・でも佐野君とか・・・どっか行っちゃったっぽい・・・私探そうと思ったんだけど」
「いや、俺が行く・・・」
結城は猟銃を手にした。その時、勝馬と瑠奈と千尋が後ろからやってきた。
勝馬君・・・目を開けていい? 死体はないよね」
「大丈夫です」勝馬に言われ、瑠奈は安心したように目を開けると、都を見つけて抱きついた。
「お前らも大丈夫だったか」と結城。
「うん、勝馬君が覆いかぶさってくれたからね・・・多分におしっこ臭かったけど」千尋に言われて勝馬は赤くなる。
「すっごい・・・松崎から猟銃取り上げたんだ」
「こいつの手柄だ」
結城はあさっての方向を見ながら含羞む澪梨を指さした。
「あといないのは・・・あの愛人と、宮崎と佐野か・・・・」
結城はため息をついた。
「愛人さんの方は出入り口付近にいると思うよ」と澪梨。
「じゃぁ、宮崎と佐野だ・・・。もし銃撃犯罪者が他にいたら、あとの2人が危ない」
結城は猟銃を片手に持って歩き出した。「ちょっと行ってくる」
「俺も行くぞ」
澪梨から勝馬が後についていく・・・。唯一の男の子になった田口は「ラッキー」と言いながら、澪梨から猟銃を受け取って松崎に向ける。その時だった。田口のいつもの快活な少年の顔が一瞬能面のような表情になったのを秋菜は感じた。
 都は岸下の死体を見た。
「な、何かわかった」
死体を見ないようにしながら、瑠奈が震える声で聞いた。
「この死体・・・妙なんだよ。もし犯人が猟銃を使ったとしたら、こんな狭い空間で長い猟銃を扱えるかな。死体はあの壁を正面に立っていた事は血の飛び散り方や死体の向きからして間違いないと思うけれど、それだったら壁にぶつかっちゃうと思うけれど」
「猟銃じゃなくて拳銃とかじゃない?」
と瑠奈。
「だとしても・・・・」
「いやぁあああああああああああ」
突然悲鳴が上がった。ビクッとして振り返ると、東山明華が岸下保の死体の前で絶叫していた。
「結城君、結城君はどこ!」明華は狂ったように喚きながら結城を探す。
「結城君とセックスしたい・・・」
「結城君は今いないよ!」
澪梨が声を上げると、「じゃあ、これでもいい」と明華は死体のズボンを脱がそうとする。
「何を考えているんだ! あんた」
田口が声を上げ、止めようとした瞬間、松崎が逃げようとして秋菜の足技に一回転して転んだ。
「妙な事したら容赦しないって言ったよね!」
「あなたは悪魔よ!」明華は絶叫しながら澪梨に掴みかかった。
「女のくせに死者から猟銃を奪って・・・。あなたはそうやって英雄を気取って結城君をたぶらかしているんだわ!」
「やめなって」
千尋が大声を上げた時、彼女の頬に明華のビンタが飛んだ。その時だった・・・ひょうきんな性格の田口が無表情なままゆっくりと千尋に掴みかかろうとして澪梨と瑠奈に止められる明華に銃口を向けたのだ。
「ダメ・・・・」
佐藤瞳が田口の肩に手をやって小さく頷く。
千尋はビンタされたまましばらく下を向いていたが、次の瞬間凄まじいグーパンチを明華の左に見舞って、明華は一回転して坑道の床にひっくり返った。
「聖書に書いてあるでしょう。右の頬を殴られたら左の頬を殴り返せって・・・」
「ちょっと違うと思う・・・」
瑠奈は呆れたように苦笑した。
「ねえ、田口君・・・」
都は田口に話しかけた。
「田口君はさ、松崎さんと明華さん・・・この2人の事知っていたんじゃないかな」
「!」田口の表情が戦慄する。
「だって結城君に『この人たちは本当に人を殺せる人たちだ』って言っていたよね。それにキャンプ場であの人たちのいじめの話、一番辛そうに聞いていたのは田口君だった・・・・」
「知らないよ」田口は言った。
「言ったところでどうにもならないだろ」彼は下を向いて震えた。
「田口君・・・・もしかしたらこの事件は、田口君がこの人たちを知っている何かに関係があるのかも知れない・・・。だとしたら次に殺されるのはこの松崎さんか明華さんなんだよ・・・。次の殺人を止められるかもしれない・・・だから・・・」
 
 奥に向かった結城と勝馬は、案外簡単に宮崎咲良を見つけた。彼女は坑道で震えていた。
「良かった・・・見つかって・・・」結城が咲良に向かって手を伸ばした。
「ゆ、結城君・・・来てくれたんだ・・・北谷君も」
「まあ」勝馬は照れくさそうに咲良を立ち上がらせた。
「大丈夫・・・あそこにみんながいるから」
「で、でも・・・今結城君と・・・その・・・セックスって女の人の声が聞こえてきて・・・だから私・・・・銃声がしてからずっとここに・・・」
「気にしなくていい」
結城は苦味を潰したかのような顔で唸った。てかそっちかよ・・・。
 
「さて、問題は佐野だな」
結城はため息混じりに奥へ通じる坑道を指さした。暗黒の世界が広がっている。
「おそらく・・・銃撃者もこの奥に居るって事だな」と勝馬
「だな。今回岸下が殺されたことで第一の事件であの2人が共犯だった可能性はなくなった・・・俺たちが立ち小便をしていた位置を考えても、休憩室にいたあの2人には犯行は不可能だからな・・・ついでに言うと俺たち高校生メンバーにも犯行が可能だった奴はいない。俺たち以外は全員固まっていたんだからな・・・・」
(とは言うものの、あの暗闇とライトじゃぁ一人か二人いなくなっても誰も気がつかないだろうがな・・・。さっきの宮崎や菅城みたいに坑道が奥でループになっている以上、理論上は高校生チームの誰かは犯行現場に行くことは出来るはずだ。だが仮にそうだとしても俺たちには第一の事件で全員天体観測をしていたというアリバイがある・・・。いや、待てよ・・・みんな星に夢中になっていたし抜け出すことは・・・。いや、だとしても往復30分かかるキャンプ場まで行って帰ってくるとして、誰かがいないことに気がつくリスクは高い・・・。あの場所に都だっていたんだ。気がつかないわけがないだろう。となるとやはり、あの暗闇の向こうに俺たちの知らない第三者が・・・)
緊張状態の中で結城は額の汗をぬぐった。
「ぶるってんのかよ」と勝馬
「うるせえよ、小便タレが」
結城と勝馬はゆっくりと穴に進んでいく。
「間違っても佐野を銃撃するんじゃないぞ」
勝馬が声を上げる。それ以外静寂に支配された死の空間・・・・緊張が走る。
「わあってる」結城は銃を構えながら暗闇へと進んでいく。
 暗い暗い穴の中・・・その穴の中で何かが動いている・・・それもその輪郭はひとり二人ではない・・・3人、4人、もっと・・・大勢の黒い影が猟銃を持ってこっちへ向かってきている。
「ゆ、結城・・・・」
勝馬が恐怖に震えた声を上げた。黒い集団の戦闘が何かを持っている・・・それが佐野浩史の生首だとわかったとき、結城は「クソッ」と大声を上げて猟銃を構えた。だが次の瞬間、黒い骸骨の集団も猟銃を構えていて・・・。
 
「み、みんな・・・・」
宮崎咲良が消え入るような声でみんなに合流した。
「よかった・・・みんな無事で」
「咲良ちゃん!」
澪梨が咲良の手を取ってぴょんぴょんしながら喜んだ。
「よかった・・・咲良ちゃんも無事で」
「う・・・うん・・・無事・・・みんなも無事でよかった」
咲良が前のめりに倒れた。背中に深々とナイフが刺さっている。
「いやぁあああああああ」
瑠奈が絶叫を上げた。都が見上げると、澪梨の真ん前に骸骨の兵隊が立っていた。それは震えている澪梨に銃口を突きつけると、次の瞬間轟音とともに彼女の頭がスイカのように吹っ飛んだ。
「きゃぁあああああああっ」
絶叫が洞穴にこだまする。骸骨の兵士は、今度は猟銃を都に向けた。
「都!」
叫び声が聞こえる。真っ暗な岩盤の天井が見える。誰かが都の体を揺り動かしている。
 都の意識は覚醒した。彼女が「わあああああっ」と声を上げて起き上がろうとしてオデコをごっちんしたのは、「イタタタタ、石頭だなぁ都」と額をさする茨城県警の長川朋美だった。彼女の周囲を「しかし救急隊や警察官の姿が大勢坑道を歩き回っている。
「け、警部・・・・。みんな殺されちゃったの?」
「大丈夫。探検部はみんな無事だ。結城君も勝馬君も佐野っていう彼のクラスメイトも、奥で保護された。命には別状ない」
「え・・・・・」
都は坑道を見渡した。
「多分酸欠で幻覚を見たんだろう。まあ、生命維持には申し分ない酸素濃度だが、極度の緊張で思考を保つだけの酸素は消費されちゃったんだな。今は表の扉は開けてあるから、外の空気が入ってきている」
「そっか」
都は安心したように座り込んだ。
「警察に垂れ込んだのは、髭の男だ。渡辺アミューズメント従業員小谷寛郎・・・。会社では『犬ちんこ』って呼ばれていたようだが、彼が迎えの船で本土に帰ったあと、警察に匿名で垂れ込んだようだ。それでお前らが帰ってこないんで何かあったと思って、警察一同乗り込んだってわけさ」
「よかったぁ」
都は胸をなでおろした。
「しかし、キャンプ場では渡辺社長が殺されているし、ここでも死体が収容された」
「岸下さんだよね」
「だけじゃない・・・」長川はため息をついた。
「他にも死者は出ているんだ」
 
 長川は銃で頭を吹き飛ばされた死体を都に見せた。都は厳しい表情でそれを見つめた。松崎勘太郎の刺殺死体が血だまりの中にあった。後ろ手に縛られたままだった。喉をゆっくりと刺して出血の苦しみを与えたらしく、顔は苦悶し、のたうちまわっている。
「これ、私が縛ったやつだよ・・・この人、私たちに危害加えようとしたから・・・・でも私が結んだせいで逃げられなかったんだね」
都は声を上げた。
「人を3人も・・・・許せない・・・絶対に犯人を見つけ出すから!」
 
6
 
「都・・・他の人は病院に運んだ。お前も無理するなよ」
鑑識が蠢く坑道の中で長川警部は都に言った。
「今回の事件はお前らとは別の第三者の犯行なんだろう・・・今回渡辺や岸下の事件で使われた銃弾の線状痕は松崎と岸下の猟銃とは別のものだった。つまり他に銃を持っていた奴がいたんだよ・・・。だが坑道からはお前らの荷物からも拳銃や猟銃は他に見つかっていない・・・つまり犯人は銃を持って逃げ出したんだよ」
「どうやって?」都が目をぱちくりさせる。
「来てくれ」
長川警部は都を連れて坑道の奥に向かった。結城、勝馬、佐野が保護された場所のさらに奥には人影がいくつも揺らめいている。だが空気が入ってきている今ではそれが水面に反射した影が長川と都の影を二倍にして写しているのが分かる。
「綺麗…」都が目を輝かせる。
「この先の坑道は水没している。これからダイバーが探索するが」
懐中電灯の光を水面に照らすと小魚の群れが泳いでいるのが見えた。水底は見えるが銃などは落ちていない。
「多分落盤とかで海につながっているんだろう。スキューバセットを持っていれば海から出入りできるかもしれない・・・。まぁ穿った見方をしてお前らの誰かが猟銃を海に捨ててここから坑道に戻ったとしてもスキューバセットは処理できないだろう・・・。つまり、今回の事件は第三者の犯行で間違いないってことだ」
長川は都の肩を揉んだ。都は考え込んでいた。
「納得できないか」
「うん・・・第二の事件で岸下さんが殺された位置が、かなり不自然なんだよ。死体の状況から考えてあの状態で岸下さんの顔面を銃撃するとなると、かなり無理な感じで岸下さんと壁との間に割り込んで撃たないといけない。それに佐野君はこの水没地点あたりに逃げて震えていたんだよ。って事は犯人は暗い坑道の中を私たちのすぐ近くに潜んでいたことになる。みんなが好き勝手逃げていたのに誰も第三者に遭遇していないなんて変だよ。いくら真っ暗って言ってもさ」
「その点は私も同感だ」長川は水面の方を見た。
「あの殺人現場は不審すぎる。多分何かトリックがあるぞ。都、第二の事件の時の全員のアリバイは・・・?」
都は長川の問いに頷いた。
「私と結城君と勝馬君は岸下さんの死体へ通じるルートにいた。だからそれより手前の東山明華さんと殺された松崎さんは犯行は不可能。あとのみんなはずっと同じ場所に留まっていた瑠奈ちゃん、千尋ちゃん以外は犯行現場まで行けるループの上にいたから犯行自体は可能かもしれないけど、でも長川警部の言ったように全く別の猟銃が犯行に使われて、それがこの洞窟の中からは見つかっていないんでしょう」
「ああ、だから結局この洞窟空間にいる全員に犯行は不可能ってことになるんだけど」
長川警部は都の傍に座り込んだ。
「私の考えだと、犯人は私たちの中にいる…。そして坑道の中に猟銃を隠したトリックが存在するんだよ」
都の目が水面の光の反射に煌めいた。
 
 島から警察の警備艇が出発・・・。藪原千尋と愉快な仲間たち一行は無事島から生きて出ることが出来た。
「都ちゃーーーん」
波に揺れる警備艇のデッキで警察に毛布を着せられた澪梨が都に抱きついた。
「良かったよ。都ちゃん殺されていなくて・・・。私の幻覚の中で都ちゃんはロリコン骸骨にあんな事やこんな事されていたんだから」
「ほ、ほえええええええ」都が飛び上がる。
「これから警察に事情聴取か」
勝馬はくあああああと猫みたいにあくびをした。
「カツ丼でないかなぁ」
ぐーーーーーー、都のお腹が鳴った。
「結城君・・・お腹すいちゃったよ」
「本土に着くまで待っとれ」
「あ、ポッキーならありますよ」
勝馬がポッキーを取り出した。「都さんがくれたものです・・・持っていたの忘れちゃって」
勝馬くーーーーーーん」
千尋が凄まじい怒りのオーラを出しながら勝馬に言った。
「そういうものは非常時に思い出そうね。今思い出しても意味ないでしょう!」
「探検部ってすごいね」咲良がドタバタコメディを見てクスクス笑った。
「外部から見ている分には・・・・中だと疲れるぞ」結城は唸った。
「ごめん・・・・」佐野がうずくまりながら結城に言った。「心配かけて・・・・俺何もできなかった・・・・ダメだなぁ」
「次に活かせばいいさ」
結城は言った。
「私の番よ・・・今度は私の番よ・・・・」
爪を噛みながらブツブツ言い続ける大人チームでは数少ない生き残りの東山明華を、田口葉空が物凄い形相で見つめている。
「ほら、都・・・・」
千尋がポッキーを1本、都に渡した。
「全く、もっと早く思い出してくれればいいのに。今非常食食べても何の意味もないのに・・・非常食が非常食じゃなくてただのポッキーになっちゃうよ」
千尋の言葉を聞いていた都の表情が変化した。
千尋ちゃん・・・・・そうだよ。非常食は非常時に食べるものなんだよ・・・・非常食に食べなければ非常食じゃないんだよ!」
「だよねーーーー」のんびり答えた千尋は都の表情を見て目が覚めた。彼女の顔は事件の謎を再構築して完璧に組み立てた顔をしていた。第一の殺人のアリバイの謎、第二の殺人の銃殺事件の不可思議・・・・そしてその直後にある人物が口走った不可思議な発言。
「都?」瑠奈が都の表情を見て、緊張した声を上げた。
「まさか都・・・お前・・・・」結城が目を丸くする。
「犯人も真実も一本の線につながった・・・・」都の目は力強かった。
 
-あとひとり・・・・あと一人だ・・・・
警備艇の上で黒い影は思案していた。-あと一人、死ななくてはいけない・・・・。
 
「待たせたね」とドアから入ってきたのは長川。
磯原警察署の会議室で、事情聴取のために呼ばれたのは都、結城、瑠奈、勝馬千尋、秋菜、澪梨、咲良、佐野、田口、瞳、犬ちんこ事小谷寛郎、東山明華が集まっていた。
「今回の事件、本当に思い出したくないだろうけど、今一番知らなければいけないのは田口君・・・君のお兄さんについてだ」
田口はみんなの視線の前で下を向いてしまった。
「君のお兄さん、田口優さんは渡辺アミューズメントの従業員だった・・・。彼は勤務先で住み込みを命じられてそこで虐待死されられている。一切給料を与えない経済虐待、寮に監禁され身体的暴力を受け続ける身体的虐待・・・。彼にはアスペルガー症候群などが見られ、その枠で入ったようだが、実際はその特性ゆえに労働虐待の標的にされていた。彼が脱走したとき、職親である渡辺社長は警察に被害届を出し、警察は運転免許更新にやってきた彼を渡辺社長に報告、彼は連れ戻された・・・。彼が虐待死した時・・・警察は彼を保護しなかった責任を追及されるのを恐れて傷害致死では不起訴処分とした・・・」
アスペルガーだからですよ」
田口はそっぽを向きながら言った。
「兄はもともと小学生の頃から自分を傷つけてしまう性格でしたからね・・・。職場でもも犬ちんこさんみたいに豚の真似をさせられていた。豚の真似をして喜ぶような人間が虐待で死ぬとは思えない・・・自分で自分を傷つけた結果勝手に死んだと警察は判断したんですよ・・・で、今度はもっともらしい動機がある人間を疑っているんですか。俺を・・・」
「捜査の根幹に関わる事だからね」聞かなければいけないと思っている。
「田口君」都は言った。
「長川警部は田口君のお兄さんのことをちゃんと捜査しなかった人たちとは違う・・・。ちゃんと田口君のお兄さんの事も正面からしっかり扱う警部さんだよ」
「冗談じゃないわ!」
明華が絶叫した。
「私たちがあの豚ちんこを虐待ですって? 冗談じゃないわ! あいつは頭がおかしくて自分から氷水の風呂に潜ったり他の従業員と殴り合いのボクシングをしていたのよ」
「自分で工場のロープに手を縛り付けて踏み台もなくぶら下がった状態でゴルフクラブで自分を叩いたのですか。随分とエクストリームですね」
小谷が鼻で笑った。「僕は見ていたんですよ・・・社長が田口さんのお兄さんを虐待するところを・・・」
「刑事さん」田口が言った。
「刑事裁判には一度不起訴になった事件を再度有罪になんて出来ないって法律があるでしょう・・・。正面から向き合ったって・・・うちのお兄さんを殺した罪でこいつらは罰せられない。されたとしても、上司が部下を暴行死させても執行猶予や罰金で済んでしまっていますよね・・・。この国は目下の人への暴力には甘いんだ」
田口はそっぽを向いた。
「田口君・・・明日、お兄さんが勤めていた会社に搜索が入るはずだ。渡辺社長のした事は世間に白日になる。社会は反省することになるはずだ」
「反省したって・・・田口君のお兄ちゃんは帰ってこないよ!」
佐藤瞳が立ち上がって長川警部に叫んだ。
 この会議室の中にいる御木々島坑道連続殺人事件の犯人はこう考えていた。
 
-警察は動機も調べていたか・・・。早く東山明華に死の鉄槌を下さなければならない・・・。全ては優君の為に・・・・。優君の尊厳のために・・・。
 
「これでよかったのか」
長川警部はやりきれないというようにため息をついて誰もいない取調室で都に言った。
「これで大丈夫・・・。あの島の連続殺人の犯人は絶対に動く・・・。最後の殺人を実行するために・・・」都は頷いた。
(ごめん、田口君・・・)
 
 東山明華は警察署での事情聴取から解放されると、真っ直ぐに自宅となっている渡辺社長の家へと向かった。明華は警察が家宅捜索する前になんとしてもやらなければいけない事があったのだ。彼女は社長室に入ると、金庫から大量の現金を取り出し、それをボストンバックに入れた。そして、隣接する従業員の寮に向かった。明華は手に斧を持っていた。冷徹な殺人者の顔・・・殺人を犯したおぞましい顔でゆっくり階段を登って従業員の寮に向かった。だがそれは寮とは名ばかりの監禁部屋だった。そこには鎖で拘束された従業員がいるはずだった。だが扉を開けると鎖は既に断ち切られ、部屋には誰もいなかった。餌として利用されていたドッグフードが袋から散らばっている。
 その様子を見て東山明華は恐怖した・・・。どういう事だ・・・。なぜ誰もいないのか・・・。社会からも見放され人間としての尊厳も放棄させられた存在を助ける人間などいるものか・・・。第一、彼らはこの会社の従業員の虐待や殺害の事実を知っている・・・・。まさか・・・・。東山明華の額から冷や汗が流れた。
 黒い影がゆっくりとプレハブの階段を登ってきた。その人物は考えていた。-この殺人事件は終わってなどいない・・・。あと一人死ななければいけない人間がいる・・・。東山明華という最後の犠牲者が・・・・。
 部屋の前に呆然となっている東山明華の前に、その人物が立ちふさがった。
「お、お前は・・・・」
明華の表情が恐怖に歪んだ。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
さぁ、全ての手がかりは提示されました。
犯人は第三者ではなく、都と無人島で行動を共にした人間の内、探検部や秋菜ちゃん以外の7人の中にいます。
全員に何かしらアリバイがありますが、是非そのアリバイを崩して見せてください。
 
・佐野浩史(16)常総高校1年
・田口葉空(15)常総高校1年
・宮崎咲良(15)常総高校1年
・菅城澪梨(15)時和高校1年
・佐藤瞳(16)キャンプ場高校生ガイド
渡辺康幸(52)渡辺アミューズメント社長
・東山明華(24)愛人
松崎勘太郎(28)従業員
岸下保(28)従業員
・小森寛郎(26)犬ちんこ