少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

暗黒空間殺人事件2 事件編

暗黒空間殺人事件(事件編)
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【容疑者】
・佐野浩史(16)常総高校1年
・田口葉空(15)常総高校1年
・宮崎咲良(15)常総高校1年
・菅城澪梨(15)時和高校1年
・佐藤瞳(16)キャンプ場高校生ガイド
渡辺康幸(52)渡辺アミューズメント社長
・東山明華(24)愛人
・松崎勘太郎(28)従業員
・岸下保(28)従業員
・犬ちんこ(?)
 
3
 
「何をやってるんだ」
勝馬が大声を上げた。
「大至急救急隊を呼ばないと! お前ら携帯電話は持っているか?」
「ああ・・・だが、この島は圏外だ」と渡辺アミューズメント従業員の松崎勘太郎
「無線とかは持ってねえのか」と結城が聞くと、「そんなものは持っていない」と岸下が首を振った。
「確か佐藤が持っていたはずだ。勝馬・・・佐藤を呼んで来てくれ」
「私ならここに」
佐藤瞳が胸を押さえて息を切らした。全力疾走でここに来たらしい。
「無線機は!」
「テントの中!」
佐藤はテントの中に菅城澪梨、宮崎咲良とともに入って、そして「きゃっ」と声を上げた。
「どうしたんですか?」
テントの中を勝馬が覗くと、想像を絶する光景が広がっていた。いつの間にかテントがナイフで切り裂かれ、荷物がズタズタに切り裂かれていたのだ。
「無線が・・・無線が壊されている」瞳が口を押さえてショックで震えていた。
「どうすれば・・・どうすればいいの?」
「迎えのボートは明後日だろう?」
佐野浩史が声を上げる。
「そんなに待っていたら、あの人死んじゃう・・・・」宮崎咲良は真っ青な顔で震えた。
「一体誰がそんな事・・・」
菅城澪梨は信じられないというように口元を押さえた。
「事態は一刻を争うというのに・・・・」
「残念だが、もう手遅れだ」
結城は澪梨のすぐ背後でため息をついた。
「渡辺社長は死んだよ」
「あ、あなたぁあああああああああああああああああ」
絶叫するのは愛人だった東山明華だった。
「なんてこった・・・」と勝馬
「岸下さん」結城は真っ青になっているロン毛の従業員、岸下保を見た。岸下はひっと声を上げて答えられないが、後ろから松崎が「私が答えよう・・・」と名乗り出た。
「社長が銃で撃たれた20時46分だった。酒が入って眠った社長を20時45分に起こすことになっていたからな・・・。社長を起こしてテントの外に連れ出した直後に、森から銃撃されたんだ」
「銃撃したのは?」
「骸骨の兵隊だった」松崎が言った。
「勿論、骸骨の模様が浮き出る仮面か何かをかぶった男だとは思うがね」
「俺も見たよ、その男は」
岸下が言った。
「間違いなく骸骨の男だった」
「なるほど・・・」
結城は思案した。
「俺たちが銃声を聞いたのも大体8時45分前後・・・この時俺たちのメンバーは全員天体観測をしていたし、あのワンピースの女性と髭の男・・・彼は」
犬チンコって呼んでくれ」
岸下が言った。
「犬ちんこ?」
訝しげな結城。
「あいつは人間をやめて生活しているんだ。だから犬ちんこって呼ぶのが正しいんだよ」と松崎。
「まぁ、じゃぁ、Aさんと呼ぶぞ。Aさんは俺と天体観測地点からすぐ近くの森で出会っている。犯行現場のこのキャンプ場から天体観測地点までは15分はかかるから・・・犯行は不可能だ」
「つまり俺たちに全員アリバイがあるってことか?」
田口葉空が結城に聞く。
「待てよ」勝馬がわざとらしく思案した。
「銃声の音がラジカセだとすれば、犯行時間を錯覚させてアリバイを確保することも」
「無理だよ」
結城はため息をついた。
「だって、松崎さん岸下さんは同時に森から出てきた怪人物に社長が撃たれるのを目撃しているんだ。時間も20時46分。俺らが銃声を聞いた時間と完全に一致する」
「う」と勝馬
「結城君・・・・」瑠奈と秋菜が声を上げる。
 2人は犬ちんこを連れてキャンプ場にようやくたどり着いていた。
「どうしたんだ」
「この人怪我をしているみたいで・・・山を辛そうに歩いていたから」
と瑠奈。
「ちょっと見せてみろ」
勝馬が何かを察したように犬ちんこの汚れたズボンを捲り上げた。そこには古い銃槍の痕跡があった。
「あんたら!」
勝馬が鬼のような形相で岸下と松崎を見つめた。
「まさか昼間あなたたちが追い回していたのって」
澪梨が端正な顔を戦慄させる。
「冗談じゃねえよ。この傷は古いだろう。あいつがずいぶん前に猟銃で自分の足をぶち抜いたからな。犬くらいの知能しかないし、当然だよな」
「わんわん」犬ちんこが声を出す。
「あんまりふざけたこと抜かすなよ」
結城が怒りに震えて松崎に向かっていくが、松崎は突然猟銃を結城に向けた。
「なんだ・・・やるのか?」
その展開に咲良が「ひっ」と声を上げる。
「お前こそなんだ・・・。こいつで俺を殺すのか」
結城は言った。
「やれるもんならやれよ・・・」
「やらないと思っているのかよ」岸下が結城の即頭部に銃口を押し付ける。
「俺たちは人を殺したこともあるんだぞ。お前みたいなクソガキを・・・」
「やめろ」
松崎がわれに帰ったかのように声を上げる。
「それってさっき社長を殺したってことかな」都が目をぱちくりさせる。
「馬鹿な。もう2年も前だよ。それにその件では俺たちは不起訴処分になっている。つまり何の罰も受けない。ですよねぇ、お局様」
「ええ」
明華が地面に這いつくばる犬ちんこを蹴りながら笑う。
「あの男はこの犬チンコみたいな人並み以下のクズよ。人並み以下を殺したくらいで警察はわざわざ捕まえに来たりはしないわ。それにあいつは殺された方が幸せだったのよ。どうせこの先も生きていても仕方がない存在なんだし」
明華の冷徹な声で話す横で、田口葉空は歯ぎしりしながら耐え難いものを耐えるかのように肩を震わせていた。
「やめなさいよ」
秋菜が明華を突き飛ばす。
「何よ・・・またぶっ叩かれたいの?」
明華が凄むと、それを結城と勝馬が取り囲んだ。
「ワレぇ・・・・お前・・・秋菜になにかしたのか」
「野郎ぶっ殺してやろうか」
「2人ともやめて・・・」秋菜が低い声で言った。
「喧嘩になったら今度は私が顔面側頭蹴り入れるから」
「蒸気抜きにすんぞ。変態エロババァ」勝馬が明華に凄む。
「お、結城君もナニカされたんだ」千尋が目を輝かせる。
「コホン」瑠奈が咳払いをした。
「話がややこしくなりそうだし。今日はもう寝ましょう・・・。それに」
瑠奈はずたずたにされたテントを見た。
「私たちはその殺人者に島に閉じ込められたのよ。今後のことを考えないとダメだわ」
「瑠奈ちゃんの言うとおりね」澪梨が小さくため息をついた。
「私たちはこんなところに閉じ込められた。犯人はまだ殺人を繰り返す気よ」
「冗談じゃない」
松崎は言った。
「明日になったら山狩りをしてやる・・・」
「さて」
結城はため息をついてから、
「さっきから空気が薄い都ちゃん・・・何かわかったかな」
と結城は都に言った。
「全然わからない」
都は目をぱちくりさせ、結城はガクッとなった。
「おいおい」
「私はこの島に別の誰かがいて、その人が渡辺社長を殺したとしか思えない・・・だって全員にアリバイがあるもんね」
「そうかぁ」
千尋が頭をポリポリ掻いた。
「なんか、大変なキャンプになっちゃったね」
瑠奈が悲しそうな声で言った。「せっかくみんな楽しみにしてたのに」
「でもどうするんだよ」
佐野が声を上げる。「相手猟銃を持っているんだろう。こんなところにキャンプを張って、それで銃撃でもされたらどうするんだよ。キャンプをズタズタにするような人間だぞ」
「確かにな・・・」
結城は声を上げた。
「ここだと遮るものはないから、寝ている間に銃撃されたら終わりだ」
「安心しろ」
松崎が荷物をまとめながら言った。「この先に炭鉱跡があっただろう。あそこの地下空間にビバークすれば大丈夫だ」
「確かに、あそこなら出入り口はひとつしかない・・・。犯人が外から襲撃できる場所は限られている。つまりそこだけを中から固めれば、銃撃犯を撃退できる・・・」
「なるほど」
田口が感心したように言った。
「そういうわけだから、死にたくない奴は俺たちの後についてくるんだ」
「私はついて行くわ!」明華が声を震わせた。
「怖いわよ。森の中に銃撃犯が潜んでいるなんて・・・お願い・・・私を連れてって」
「私たちもいいですか」
澪梨が手を挙げる。「テントの荷物みたいにずたずたにされるの・・・怖いし・・・」
「師匠はどうします?」
秋菜が都に聞いた。だが都は怖い顔をして考え込んでいる。
「お前・・・この事件、本当は何かわかっているだろう」
結城は小声で聞いた。
「この事件、考えられるパターンは2つ」
都も小声で言った。
「一つは本当に森の中に犯人が居る可能性。この場合、キャンプ場にいるよりは炭鉱の穴に行ったほうがまだ安全だと思う。二つ目はあの松崎と岸下がグルの場合だよ」
「なんだって?」
「2人がグルの場合、森の中から第三者が銃撃したという証言は互のアリバイを作るためのデタラメって事になっちゃう・・・。その場合あの人たちは銃を持っている・・・。一緒に穴に入ったら人質にされちゃうかも知れない」
都は言った。
「確かに・・・あの2人のアリバイは2人がグルだったら意味のないアリバイだよな・・・だからお前さっき何もわからないふりをしていたのか・・・。銃を持っているあいつらが凶暴化しないように」
「どっちにするか・・・究極の選択ですね」
と秋菜。
「まぁ、あの2人が殺人者だった場合、多分無差別殺人じゃないだろうから、無関係な俺たちが狙われる可能性は低いと思う。でも得体の知れない第三者が森に潜んでいたとすれば・・・」
「絶海の孤島は無差別殺人にはうってつけだよね。多分犯人はまだ殺人をやる目的で無線機を壊したんだよ」
都は言った。
「となると、やはり森の中に犯人が居る可能性が高いか」
結城は言った。
 
 結局全員で炭鉱の穴に入ることが決定した。夜の炭鉱は物凄く不気味だった。
ラピュタも夜は怖いんだろうな」
千尋はため息をついた。
「ここだ」
松崎が巨大な南京錠で封鎖された赤い鉄の扉を銃撃する。南京錠が吹っ飛ぶと鎖がジャラジャラと落ちた。
「この中に入っちゃえば、銃撃者は手出しできないってわけか。なるほど」
佐野が感心したように言う。
「お前ら手伝え」
松崎が指示を出して巨大な鉄の扉をこじ開けていく。耳障りな音がするので女の子たちは耳をふさいでいたが、結城、勝馬、佐野、松崎が力を合わせてなんとか扉を開けた。
「よーし、お前らから入れ」
松崎が指示を出す。結城はため息をついて懐中電灯で内部を照らす・・・。
「俺たち川口探検隊♫」鼻歌を歌う結城。その腕を掴むのは島都だ。
 坑道内部は一部コンクリートで補強されているがこの先はむき出しの岩盤だった。
「気をつけてよ」
都は言った。
「坑道はエレベーターが撤去されて落とし穴状態になった穴とかがあるから・・・落っこちたら、うわああああああだよ」
「足元を照らして進め・・・自信がなければ俺の後ろでムカデみたいに進めばいい」
「(>Д<)ゝ”了解!」
千尋が都にすがりつく。その後ろに秋菜、澪梨、咲良、瑠奈、勝馬、佐野、田口、瞳がひっつく。
「わ、私も・・・」
明華が瞳にすがりついた。
「気をつけろ」
結城が声を上げた。
「この先45度くらいの急斜面になっている」
結城が奥を照らす。ぐにゃぐにゃになったレールやなんかが散らばっている。斜面は岩と礫が入り混じっており、気をつけて降れば降れないこともない。
「ここからムカデコースは危険だ」
結城は言った。「各自気をつけて降りよう」
「大丈夫ですか・・・瑠奈さん」
勝馬が声をかけた。
勝馬君・・・大丈夫だけど・・・・私の胸、後ろから掴まないで欲しいかな・・・」瑠奈はちょっと笑った。「痛い」
「うわぁああああああ、ごめんなさい」
勝馬はあわててジャケットで両手を拭いた。「ほらほらほらほら、これで大丈夫」
「きゃっ」
すっ転んだ澪梨を、結城があわてて受け止める。
「ほら、大丈夫だ」田口が瞳の手を取ってゆっくり降りていく。
 やがて一同は平らなところに出た。懐中電灯を照らすと休憩所になっているようだ。炭鉱には地下に郵便局や会社の出張所があったりする。あるいはケーブルトロッコがあった時の電気設備か・・・。
 埃にまみれた壁に炭鉱図が書かれている。
「こりゃ、迷路だな」
結城は唸った。結城は迷路のような坑道図を見渡しながらため息をついた。その時、最後尾の松崎と岸下が猟銃片手に降りてきた。
「全員無事か?」
「Aさんは?」
千尋が訝しげに声をかける。
「犬ちんこ? あいつは外に出したよ」
岸下がへへへへと笑う。
「だってあいつ臭いし臭うだろ」
「何やってるんだ!」
結城ははじかれたように斜坑を再び登り始めた。勝馬や佐野も後に続く。埃まみれになって鉄の扉のところまで来ると、
「Aさん、Aさん」
と結城と勝馬は鉄の扉を開けようとするが、全く動かない・・・。その時だった。
「くくくくくく。これでお前たちは全員あの世行きだ」
と犬ちんこの声が聞こえてきた。
「僕を犬扱いしやがって・・・でもこんなに簡単に復讐の機会がやってくるとは思わなかったよ・・・・」憎悪に満ちた声。
「つっかえ棒か」
結城は唸った。
「犬ちんこてめぇえええええええええ」
後からやってきた松崎が大声で鉄の扉をたたくが、
「もうこの扉は開かないよ。ふふふふふふふ。僕は外の世界で自由に生きるんだ。やってきた漁船には別のボートで帰ったって言っておくよ。ひひひひひひ」
「冗談だろう・・・・」
勝馬は声を上げた。「俺たちは完全に坑道に閉じ込められた」
 
4
 
「クソッ、あの犬!」
明華が憎悪の声を上げる。
「俺たちまで巻き添えにするなんて」田口が絶望したように座り込む。
「ねぇ・・・懐中電灯の電池が切れたら私たち・・・一生真っ暗じゃない?」
澪梨がパニックになって叫ぶ。
「澪梨ちゃん・・・それは大丈夫・・・」
都は目をぱちくりさせた。「だって私の懐中電灯はこうやってレバーを回せば発電されて電気はつくから」
「探検部のガジェットよ」千尋は言った。
「食料と水はとりあえずたくさんはあるけど・・・」
瑠奈は結城を見た。
「ああ、俺たちが帰ってこないと騒ぎになればこの島にも捜索は来るだろう。鍵がぶち破られているのを見ればこの坑道にも調査は入るだろうから・・・。とすれば帰るのが明後日+2日と見れば、大体今から100時間はここに閉じ込められることを覚悟したほうがいいな」
「約4日・・・」
佐野が絶望的な声を上げる。
「冗談じゃないぜ。なんで俺たち無人島の海と空で楽しくアバンチュールを過ごすはずだったのに・・・こんな目に」佐野がべそをかきはじめる。
「全部あんたらのせいだからな」
佐野が立ち上がった時だった。突然松崎が佐野に銃で殴り倒された。
「ちょっと何をするのよ!」
秋菜が声を上げたが結城は止めた。
「寄せ、秋菜・・・」
結城は言った。
「こいつらは銃を持っている。閉鎖された地下空間ではこいつらが事実上支配者だ」
「よくわかっているなぁ。結城君」
岸下はヘラヘラ笑った。その表情はまさに世界をジャックしたようなテロリストの形相そのものだった。
「お前ら、今すぐリュックを全部よこせ。食料と水は全部俺たちが一括で管理する」
「なんでお前らに」
勝馬がぼやいたとき、岸下はズドンと天井に猟銃を発射した。耳を引き裂くような音がしたかと思うと跳弾で勝馬の頬が引き裂かれた。「きゃぁああっ」と女の子が悲鳴を上げてうずくまる。
「緊急避難だよ。これも・・・・俺たちは危機的状況に置かれた・・・。だからお前らを殺したとしても罪に問われるわけがない」
「あんだと」
勝馬が立ち上がると、田口は「よせ! こいつらは本当に人を殺せるやつだ!」と叫んだ。
勝馬君・・・・」
瑠奈が勝馬の手を握って厳しい表情で首を横に振った。
「ち」
勝馬は座り込んだ。都は田口の方を見た。
 リュックサックの食料は全て松崎、岸下、そして明華の手に渡った。
「私は勿論、君臨する側よね」
明華はニタニタ笑う。
「勿論ですよ。あなたは渡辺社長の金庫の暗証番号を知っているんだ。あなたはVIP扱いですよ」
「当然よ」
明華は笑った。
「けっ、今まで酷いいじめをしていたやつに逆襲されて暗いところに閉じ込められた分際で支配者気取りかよ。いい気なもんだ」
「そんな事を言う君の頭を吹っ飛ばしてもいいんだぞ」
松崎が冷血動物のような残忍な表情で勝馬に銃を向ける。
「お前たちは奥の坑道だ」
岸下が銃口指図する。だが彼は次の瞬間、こいつは瑠奈の手を取った。
「くくくく、瑠奈ちゃんだっけ? 君可愛いねぇ」
「どうも」瑠奈はそっけなく言った。
「瑠奈ちゃーん。俺は瑠奈ちゃんが俺らと遊んでくれるんなら食料をいくらでもあげようと思うんだけど。こっち側に来ない? 俺らいろいろ気持ちいいテクニックをしってるから。どんな何も知らない女の子もすっごく淫乱にしちゃう楽しいテクニックだよ」
「結構です。それに強姦で緊急避難が成立するなんてありえませんから」
瑠奈はそう言って手を振り払って歩いて行った。だがすぐに都に抱き抱えられた。
「都・・・すごく気持ち悪い」
「大丈夫だよ」都は瑠奈の背中を撫でてあげた。
「クソッ」
その様子を見て結城は歯ぎしりした。
 
 図面によるとこの先に少し広くなった休めるところがあった。壊れたトロッコが停車している。
「散々なアバンチュールだな」
田口が自嘲気味に言った。
「暗い・・・狭い・・・・俺はこういうところ嫌なんだ」佐野が膝を抱えて泣き声を上げる。「犬ちんこの野郎!」
「あの人にしてみれば、今が唯一自分がいじめから解放される瞬間だったのかもね」
咲良が沈んだ声で言った。
「だからって、俺たちまで巻き込むことないじゃないか・・・・。くそおおおおおおおおお」佐野が泣き叫ぶ。
「私はとりあえず生きて帰るよ。そしてこの体験談をアンビリーバボーと仰天ニュースに売り込む。そして最強のユーチューバーになるから!」
澪梨が屈託のない笑顔で笑って千尋は「それでこそ歌い手よ」とこぶしを突き合わせた。
「都・・・瑠奈は・・・・」
千尋がため息をついた。都は
「大丈夫・・・。誰だって怖いから」と座り込んで両手を覆っている瑠奈の背中をさすった。いつもニコニコ探検部を引っ張ってきた良心のこの状態に、事態のやばさが浮き彫りになってくる。
勝馬・・・ちっと小便に付き合ってくれ」
結城は立ち上がった。
「なんだよ。一人でいけないのかよ」
「小便中に会いたくない奴がいてな」結城はため息混じりいった。「しょうがねえなぁ」と勝馬も立ち上がる。
「あまり遠くへ行かないでくださいね・・・迷子になったら大変ですから」と瞳。
「へい」結城は立ち上がった。
 
 2人で坑道のトイレに連れションする結城。
「犯人はあの犬ちんこなのかねぇ」
勝馬
「いや、あいつは銃撃事件の間に俺と一緒にいたからアリバイがある。あのワンピースの女も同じ。俺たちは全員天体観測・・・仮に松崎と岸下がグルだったとしたらあいつらにはアリバイはないってことになるが、それ以外の全員にはアリバイがあるんだ。つまり、可能性としてはあいつらが犯人の可能性と、別に第三者がいるって事になる」
「別の第三者がいるってことは、逆に犬ちんこが危ないってことにもならないか」
「ああ、だがこればっかしはどうしようねえよ」
結城は唸った。
「逆によう・・・殺人者がこの坑道に潜んでいるって事は考えられないか?」
勝馬
「それはないだろう。扉には厳重に錠前がかかっていたんだ。誰かが中にいて外側から鍵をかけるなんて出来るわけがねぇ」
「それは犯人が一人だった場合だよね」
都は横で目をぱちくりさせて、結城と勝馬は「おああああああああああ」と声を上げてあわててしまうべきものをしまった。
「あああああ、出している最中にしまっちゃった」
ズボンを濡らしながら勝馬が飛び跳ねる。
「あっ、キタねえなぁ・・・着替えがあるから・・・持ってきてやるよ」
結城が声を上げ、都を促してみんなのいる方へ走り出した。
「全く・・・なんで来るんだよ」
「結城君に立ちションのやり方教えてもらおうと思って」
と都。
「出来るか!」と結城は突っ込んだ。
 
「うううう、都さんの前でなんたる失態・・・・」
坑道の中で勝馬がため息をついた時だった。
「バン!」
突然銃声が聞こえた。
「何だ、今の銃声・・・・」
結城が叫んだとき、きゃぁあああっという女の子の悲鳴が聞こえた。
「クソッ・・・お前ら全員懐中電灯を消せ・・・狙い撃ちにされるぞ」
結城は都を抱えたまま、都の懐中電灯の光を切った。
 静寂が訪れる・・・。誰かの足音が聞こえる。ぴちゃ、ぴちゃぴちゃ・・・・
(銃撃犯か)
冷や汗が流れる。
 さっきの都の言葉を反芻する・・・。もし銃撃者が2人だったら・・・。ひとりが坑道に入って獲物を待ち伏せ、もうひとりが外から鍵をかける・・・・。それが正しければ・・・。まさか銃撃者は・・・すぐそばに・・・。
「お・・・・・お・・・・・」
狂ったような息遣い・・・・。
「結城ぃいいい。出たっァああああ」
小便を華麗に濡らした勝馬がそこにいた。
「来てくれ・・・。結城・・・・」
電灯に照らされた勝馬の顔は真っ青だ。結城は嫌な予感がした。
 都と結城は勝馬が指し示した方の坑道を進んでいった。そして2分くらいで彼が見たものを理解した。
 死体だった。脳みそを正面からぶち抜かれた岸下保の死体がここにあった。そして岸下の猟銃が消えていたのだ。
「お前ら! お前らが岸下を殺したのかっ」
物凄い鬼のような形相の松崎が猟銃を結城につきつけた。
「冗談じゃねぇ」
結城は喚いた。
「俺らは銃を持っているわけねえだろう」
結城は死体を照らしながら喚いた。
「ついでに言えば俺たちは銃撃があってからずっとこの通路の出入り口側に居た・・・つまり犯人はこの坑道のあっち側にいるって事だ」
結城は喚いた。
「よーし・・・・」
松崎は銃を片手に都と結城を促した。
「お前ら2人で先に行ってもらおうか」
松崎は声を上げた。
 
 都と結城が歩かされている坑道の奥で、猟銃を構えた黒い影が息を殺していた。
 
(つづく)