少女探偵島都 2018年

2009年くらいから母親が書いていたシリーズ設定をもったいないので2018年より本格的にわいが引き継いでみました。大体1記事でアニメ1話分くらいの長さだと思ってください。コナンや金田一みたいな高校生探偵ミステリーを想定しています。

少女探偵島都「暗黒空間殺人事件」導入編

少女探偵島都「暗黒空間殺人事件」
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1
 
 暗い部屋の中で、黒い影は大切な人の筐を握り締めていた。
「全ての準備は整った・・・後は許しがたいあいつらをおびき出して・・・・この手で・・・・」
 
「な、なんだってぇ」
茨城県常総高校1年5組の教室で結城竜は柄にもなく素っ頓狂な声を上げた。
「頼むよ、結城・・・お前の顔が必要なんだ。無人島旅行で女の子を参加させるには」
サッカー部の田口葉空という少年が拝むような姿勢で言った。
「そうなんだよ・・・お前のそのイケメンな顔が、俺たちの旅行がむさくるしい男だけの汚い青春になるか、あるいはジャスミンな青春になるかの瀬戸際なんだよ」
空手部の佐野浩史も必死で頼み込む。
「いいじゃねえかよ。迫真空手部で仲良くやれば。それに俺の顔はそんなにイケメンか?」
「イケメンだよ。ニコニコ動画で歌い手やっているしゅがっぺ大明神が言っていたから間違いない!」
「なるほど・・・」
結城は無関心なふりをして窓ガラスに写りこんだ自分の顔をちらっと横目で見た。
「イケメンか・・・・」結城は窓ガラスにドヤ顔決めポーズをしてみせる。
「さぁ、皆さん」
佐野が大声で教卓に座って叫ぶ。
「今回の無人島合宿に結城君も来ることになりました! 他に皆さん行きたい人はいますか?」
「はーい、はいはいはーい」
原千尋が手を挙げる。
「おおお、藪原さん・・・さすがです。結城君効果絶大・・・。さぁ、他に結城君と無人島に行きたい人はいますか?」
「ほら、咲良・・・」
女の子に背中を押されて地味系で大人しそうな女の子、宮崎咲良がおずおずと手を挙げる。
「あ、あの・・・私も言っていいですか」
咲良はチラチラと結城の方を見つめている。
「大歓迎!」佐野が大声でサングラスをかけてメモを取る。
「お前も行くのかよ」
結城は後ろの席の藪原千尋に声をかけた。
「そりゃそうだよ・・・男同士のむさくるしい合宿での結城君・・・どんなインスピレーションが頭に浮かぶか・・・楽しみだわー」と千尋は言いながらひひひひひひと不敵な笑みを浮かべ始める。
「でも無人島合宿って・・・どこの無人島に行くんだよ」
すると田口が答えた。
北茨城市沖合にある御木々島っていう島だよ。あそこには無人島をまるまる使ったキャンプ場があってさぁ。俺の叔父さんがそこの管理人だって・・・。震災からの復興政策で市が無人島ツアーとして活用したいって考えててさ。叔父さんからクラスメイト連れて来てくれってさ。勿論モニターだから宿泊費はタダ!」
「最高じゃん」千尋は手を叩いた。
「ねぇ。私の人脈を使って、あと3人女の子を連れてきてあげようか」
「本当ですか!? 藪原大明神様!」
佐野が大喜びで声を上げた。
「やったぞ、田口・・・・俺たちのゴールデンウイーク・・・・桜の季節は・・・・保証された」
男たちは肩を組んで泣きあった。
「ちょっと待て」
結城は佐野に大声を上げた。
「俺はまだ行くとは一言も・・・」
 
 常磐線茨城県最北端、大津港駅に結城竜、藪原千尋、佐野浩史、田口葉空、宮崎咲良は降り立った。そして・・・・。
「うおおおおおおおおおおお」
スラリとしたナイスバディを活動的なTシャツに秘めた黒髪ロングの清楚で正当な美少女、高野瑠奈を佐野と田口は感動的に見つめている。
「お前ら、見せもんじゃねえぞ」
北谷勝馬がボディーガードにでもなった感じで、飢えた野獣どもをしっしっしと追い払う。
「相変わらず佐野君は女の子が大好きだねー・・・・」
後ろから呆れたような声がして振り返ると、セミロング姫カットの少女が立っていた。Tシャツはミミッキュで首からスマホを下げている。
「なんだ、いたのか・・・」
佐野はため息をついた。
「俺の同中の菅城澪梨って言うんだ。ま、こんな女だけど仲良くしてあげて・・・」
佐野の自己紹介をスルーして澪梨は結城の前に立った。
「君が結城君か」
澪梨はしげしげと眺めた。「ふふふ、やっぱりイケメンだね。それに背中にいる都ちゃんもかわいいし。やったーーーー。本物だァ」
「はぁ・・・・」結城はその背中によじ登って駅前のパノラマを楽しんでいる小柄な少女の重さを感じてため息をついた。
「当然・・・お前も付いてくるわな」
「おおお、結城君・・・私たち有名人だよぉ」島都という少女は嬉しそうに結城の背中を揺する。
「うおおおおお、シロッペちゃんじゃーーーん」
原千尋が嬉しそうに澪梨の手を取ってジャンプする。
千尋ちゃーーーーん、会いたかったよ」
「え、君らも知り合いなの?」
佐野が素っ頓狂な声を上げる。
「だってしろっぺちゃんはニコニコ動画では名の知れたキャス主で歌い手なんだよーーー。私とは同好会仲間だし」
「何の同好会だよ」
「結城君みたいな男の子と男の子を男の子同士であんなことやこんな事をする創作同好会」
結城はジト目をして何も答えなかった。
「結城君、お腹すいちゃったの」結城君の得も言われぬ表情を見た都が目をぱちくりさせる。
島都はまっすぐ駅前のお蕎麦屋さんを指さした。
「あそこで何か食べていこうよ!」
「港まで休日はバスがねえんだ。お腹を重くしていくのは無理だ。港に着いたら海鮮丼屋さんくらいあるだろう」
結城はため息をついた。
「でも一応あそこのセブンイレブンでポカリとかコーンフレークとかは買っておいたほうがいいかも」
と結城の従妹の結城秋菜が声を上げる。
「コーンフレーク?」
「非常食としては結構いいんだよ」
中学2年生の秋菜は言った。「スナック菓子感覚で食べられるし」
「でも水や食料はツアーで用意してくれるって」
と瑠奈。
「ダメですよ! 無人島へ行くもの、常に食料は自分で準備する・・・。何かあった時に後悔しても遅いんですから」
「何かあるって何があるんだよ」
結城はジト目をして従妹を見つめた。
無人島でボートが流されてクローズ・ド・サークル・・・・・閉じ込められるとか」
「えええ、そんな事・・・・」
藪原は否定しかけてメンバーを見渡して・・・・・「あるか・・・・死神もいるし」。
「ほえ?」
結城の背中で都がきょとんとした声を上げた。
 
「で、結局俺がポカリのボトル持っていくのかよ!」
結城はありったけのポカリをリュックに詰め込んでひーひー言いながら港への道を付いていく。一行は島都、結城竜、高野瑠奈、北谷勝馬、藪原千尋、結城秋菜、佐野浩史、田口葉空、宮崎咲良、菅城澪梨の合計10人の大世帯だった。
「結城・・・しっかり運べよ。俺たちは都さんや瑠奈さんや千尋さんの命を運んでいるんだからな」勝馬が同じく飲料水を運びながら言った。
「俺が運んでいる水で、瑠奈さんや千尋さんが体を洗ったりしてな・・・ふふふふふ」勝馬の顔が妄想に緩んで、鼻血が出ている。
「どうせ二泊三日だろう」結城は唸った。「キャンプ場だしシャワーくらいはあんだろうし。だいたい女の子でも2日くらい風呂くらいは我慢できるだろ」
「お前は本当にデリカシーがないなぁ。おおお、海が見えてきたぞぉおおお」
勝馬はぴょんぴょんしながら一行に走っていく。
「結城君・・・持とうか」
都が結城を覗き込む。
「都、気持ちはありがたいが、イソップ物語で馬とロバの話知っているか?」
「ほえ? 馬さんとロバさんが鬼ヶ島に行ってシンデレラを助ける話?」
「つまりだ・・・お前が荷物を持って道中へばったら、俺はお前をおんぶする羽目になるんだ」
「あ、そうか・・・」都は言った。
「私、一個くらいは持てるよ。結城君・・・」
恥ずかしそうな声で宮崎咲良が声をかけてきた。
「本当か・・・そりゃ助かる」
結城がペットボトルの袋をひとつ渡した。
「結城君の役に立てて良かった」咲良は嬉しそうに恥ずかしそうに前を走り出した。
「えええ、なんで私には私てくれないのー」
都はうるうると結城を見た。
「あああ、わかった・・・」結城は袋の中からポッキーを取り出した。
「これを運んでくれ」
「うん」
都は頷いた。ちょっと不満そうだった。
 
 大津港につくと
「藪原千尋と愉快な仲間たち様ですね」
とクスクス笑いながら15歳くらいの少女が出てきた。セミロングで利発そうな・・・民宿を切り盛りして家族を支えている感じの素朴な少女だ。
 結城は予約をしたであろう千尋をちらっと見る。千尋は得意げだ。
「私は佐藤瞳といいます。お待ちしておりました。では、ボートに案内しますね」
瞳はここで結城と勝馬を見た。
「随分たくさん水をお持ちですね。食料や水、テント用具は私たちが用意していますのに」
「まぁ、備えあれば憂いなしですよ。サバイバルに長けたものとしては当然ですなぁ」と勝馬は得意げに眉毛をピクピクさせた。
「そうですか。それでは皆さん漁船を用意していますのでお乗りになってください」
華麗にスルーされてしょげる勝馬に、都は「どうどうどう。ポッキーあげるよ」とポッキーを勝馬に渡した。
「うううう、ありがとうございます。都さん」勝馬はポッキーを受け取った。
 
 漁船に乗って、10人の高校生たちは海原の上を目的の島に向かっていった。
「結城君! 見て、タイタニック
「あぶねえよ都・・・」
結城はあわてて都を引っ張って船の甲板に座らせる。
「いきなり波が来て揺れることがあるからねぇ。島さん、気をつけて」田口が都に言う。
「でもあんたがこんなに大勢女の子を連れてくるなんてね」
瞳がカラカラと笑った。「見直したわ」
「うるせぇ・・・」恥ずかしそうな田口。結城はふと「ああ、お前らまさか親戚同士か?」と聞くと、「まぁ。俺の叔父さんの娘だからな」と田口は言った。
「あれが御木々島です」
瞳が島を指さした。
「鬱蒼とした木々に覆われた無人島が見えてきた」
「大津港沖合10km。元々は小さな炭鉱があったのですが、今は人は住んでいません。でもそれなりに廃墟はありますから廃墟マニアの人も楽しめるんじゃないかなって思っています。アニメ会社にも物語の舞台にしないかアプローチをかけているみたいですけど」
「どんなアニメが舞台になるんだろう」
秋菜が首をかしげる千尋
「廃墟男色高校生-孤島の夏編」
とおもむろに言ったので、
「今は春だぞ」と結城はツッコミを入れた。
「そうだよ・・・千尋ちゃん、季節感が足りないよ・・・やっぱり『結城君迫真春画漂流記』の方が」
澪梨の発言に「そっちの春かよ!」と結城はツッコミを入れた。
 
 漁船が島の桟橋に到着し、一行は船を降りて高台に通じる道を上がっていった。高台には炭鉱の庁舎だったらしい赤レンガが草にうもれ、それでも十分テントが張れる空間が確保されていた。
「おおおお、ラピュタだ。ラピュタっぽい!」
千尋が興奮して赤レンガの廃墟に両手を広げる。
千尋ちゃん、トトロだよ。トトロがいるよ!」と都も大はしゃぎだ。
「いねえよ、ラピュタにトトロなんて」
結城が突っ込むと、勝馬は「結城君は夢がないなぁ・・・都さんの純粋な気持ちを見習ったらどうかね」と声を上げる。
結城は「俺は間違ってねえよなぁ」と瑠奈に同意を求めたが、瑠奈は「気にしたら負けだと思う」と困ったように笑った。
「やれやれ・・・ん、俺たち以外先客が居るのか」
結城はキャンプ場の隅っこにあるテントを見つめた。
「あれは地元のアミューズメント会社様の社員旅行です。社長がアウトドアが好きで、会社への団結と忠誠を鍛えると言って毎週この島に従業員さんを連れてくるんです」と瞳。
「要するにブラックか・・・」
結城はため息をついた。
「それじゃぁ、早速テントを張るか」
田口が大きく伸びをしながら言った。「佐野、結城、勝馬・・・ちょっと魚を釣ってきてくれるか? 岸壁からなら魚を釣れるはずだ。アジとか・・・結構釣れるぞ」
「まかされおーーー。岸壁釣りの鬼と言われた俺だ。ガンガン釣り上げてやるぞ!」
勝馬がやたらと張り切る。
「都、私たちは薪を集めましょうか」
「ほーーーい」
瑠奈に言われて、都が手を挙げた。
「じゃぁ、田口君と私と咲良はテント係だね」と千尋
「お前、ちょっと待て・・・何野郎は全員釣りに行かせて女の子と一緒になれる仕事割りしやがって!」と佐野が田口に抗議する。
「佐野君」
瑠奈が声を上げた。「男の子達が釣ってくる魚・・・・楽しみにしているから」
 瑠奈の笑顔に佐野の顔が赤くなった。「ふ、ま、まぁ。瑠奈さんがそう言うなら・・・」
「やるね。瑠奈」千尋が結城に同意を求めた。「ああ」結城も頷く。
「瑠奈ちん・・・アダルトだね」都が感心したように頷いた。
 
 テントを張っている時だった。突然ブラック軍団のテントからワンカップ手にした初老のひげおやじが千鳥足で絶賛テント設営中の千尋に向かってきた。そしていきなり千尋の右腕を掴んだ。
「え、ちょっと何?」
千尋が驚いて手を解こうとするが、オヤジは「いいじゃないかよ。女子高生なんだろう・・・叔父さんが日本経済について話してあげるから・・・こっちでおじさんの相手をしてくれよ」と離さない。
「お断りだわ。クソ親父」
千尋は声を上げた。
「とっとと自分のテントに帰って! そうしないとミートゥー#でツイッターにあんたのことを書くよ」
「なんだと! 人を性犯罪者みたいに言いやがって」
おやじが怒り出した。
「私はこの地方で数百人雇っている大企業のボスだぞ! 渡辺康幸といえば、この地方じゃ知らない人間はいないんだからな」
「私は知らないよ!」と千尋
「やめてください」
秋菜が割って入った。
「これ以上しつこいと・・・」
秋菜がいきなり足を蹴り上げて渡辺の顔面スレスレに持ってきて、その迫力で渡辺は尻餅をついた。
が、その均衡は突然破られた。
「ちょっと私の夫に何するのよ!」突然金切り声を上げてけばけばしい化粧の女が乱入し、いきなり秋菜の頬を叩いたのだ。きゃっと声を上げて秋菜が地面に倒れる。
「何ひどいことするのよ!」千尋が猛抗議する。が、女は怒りの表情そのままだ。
「この女、康幸さんに色目を使って、康幸さんにハニートラップをしかけて全てを奪い取るつもりだったのよ。許せない・・・許せないわ!」
さらに殴りかかろうとする女、渡辺の愛人東山明華を必死で抑えながら「はははは、悪かったね。みんな・・・彼女嫉妬深くてね・・・残念だよ・・・きっと楽しくなったのに」と酔いがさめた渡辺は困った顔で明華を抱えてテントに戻っていった。
「ねぇ、あなた・・・・私を愛しているのなら、今夜もあれをやってくれる?」明華が甘えたように言うと、
「マイハニー、もちろんだよ」
と渡辺は彼女を落ち着かせるようにキスをした。
「愛人がいるなら、そっちを大事にしろよ」田口が声を上げる。
千尋は腕をさすりながら、秋菜に駆け寄った。
「大丈夫? 秋菜ちゃん・・・」
「別に・・・・そんなに痛くはなかったですから・・・」秋菜はため息をついた。
「あんな人たち・・・反撃する価値もないです。ああ、それとこれは兄と勝馬君には内緒で」
「なんで・・・あの2人に言ってこの島をコマンドーの世界にしちゃそうよ」目をぱちくりさせる千尋
「だからですよ」
秋菜はぼそっと言った。「楽しい無人島生活で警察沙汰はいやです」
 
 同時刻。都と瑠奈、澪梨は大きな枯れ木をまるごと引きずり出してきた。
「これでみんなをびっくりさせちゃえるよね」ズルズルと3メートルはある枯れ木を引きずりながら、都は得意げだ。
「さすが、都・・・薪探し王の実力は高校生になっても健在ね」と瑠奈が笑う。
「えへん」
その時だった。突然バンという音と同時にちゅんという空気を切り裂く音がしたかと思うと、突然枯れ木がばっと飛び散った。
「きゃっ」
突然悲鳴が上がって瑠奈が思わずその場に尻餅をついた。澪梨も咄嗟の出来事に立ち尽くす。
「銃声!」
都が咄嗟に瑠奈をかばいながら林を見上げると、そこには両銃を構えたひとりの男が立っていた。
 
2
 
「ごめんごめん・・・てっきりイノシシだと思ってさ」
長髪の若い男が猟銃を上にあげて笑った。
「獲物って、何を考えているんですか! もう少しで当たるところでしたよ!」
温厚な瑠奈が大声で抗議する。
「大体こんなところで狩猟なんてしていいんですか?」と澪梨。
「禁猟区とは書いていないし。別にいいだろう」長髪のハンターの岸下保バツの悪そうに頭を掻いた。
「でもイノシシと間違えたって、こんな無人島に猪なんて来るんですか?」
「来るよ」
後ろからメガネで短髪の男がため息混じりに言った。冷静な印象のある男だった。
「イノシシはこれでも20kmくらいは海を泳ぐんだ。この島にも時々本土からイノシシが来るんだよ」
「そんなことよりさぁ」
メガネの松崎勘太郎の説明をぶった切って岸下が瑠奈たちの行く手を遮るように立ちふさがって笑顔で言った。
「君たち可愛いねぇ。俺たちのテントに来ない? いろいろ楽しい遊びを教えてあげるからさ。それにジビエ料理とかもあるぜ」
「遠慮しておきます」
瑠奈がきっぱりと言った。
「そうですよ。動物と人間の区別がわからない人の料理なんて食べたくありません」
と都。
「結城君の丸焼きとか勝馬君の豚汁とかが出てきたら嫌ですし」
「まずそーーー。勝馬君の豚汁」
と澪梨。
「行くぞ・・・岸下」
松崎に促され岸下はちぇっと声を上げながら、森の奥へと消えていった。
「ねぇ・・・この島に猪ってそう頻繁に来るものなのかな」
都はぽつんと呟いた。
「2キロ四方の島でしょう。そんな滅多に来ないんじゃないかな」
「それにしてはあの人たちの装備すごいよね。まるでこの島に獲物がいることを前提にしているみたいに」
都は目をぱちくりさせた。
 
 キャンプ場の焚き火には男の子達がつってきた味が開きにされて金網であぶられている。さらに砂浜でとってきたハマグリなんかもジューシーなエキスを出しながら貝殻を開いていた。
「さすが男の子達は役に立つねぇ」
千尋が大喜びでうちわを仰いで煙を男の子達のほうに向ける。
「さぁ、海鮮の匂いを嗅ぐのだ」
「結城君はどれを釣ったの?」
と都。
「ああ、俺はな・・・」結城は目をそらした。
「まぁ、あれだ」
結城は切り株に乗せられた長靴を指さした。
「大丈夫だって結城君」都は結城君の頭をナデナデした。
「いつかはシーラカンスを釣れるようになれるって」
シーラカンスはちょっと無理だと思うよ。動物の森じゃないんだから」と澪梨がツッコミを入れた。
「で、でも・・・・結城君一生懸命魚を釣ろうとしてくれていて・・・すごく嬉しかったです」咲良がもじもじと声を上げた。
「となると、ここのアジとかは」
「俺が全部釣りました」勝馬がえっへんとふんぞり返った。
「どうです。俺が釣り上げた魚介類の数々・・・」
「おおお、すげえええええ。イワガキだぁ」
佐野と田口が大はしゃぎする。
「え」勝馬はきょとんとそっちの方を見ると、佐藤瞳がウエットスーツ姿で立っていた。
「さっき素潜りで捕まえてきました。じゃーん。伊勢海老もありますよ」
「うおおおおおおおおおおおおお」
都が目を蘭蘭と輝かせてそっちを見る。勝馬はポツーンとなった。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
突然笑い声がして隣のキャンプの方を見ると、渡辺社長と明華、岸下と松崎ともうひとりヒゲを伸ばし放題の無人島にもともと居たんじゃないかというような汚い風貌の男が焚き火を囲んでいる。渡辺と明華、岸下、松崎は椅子に座っているが、もうひとりの男は椅子に座っている。
犬ちんこ・・・餌だぞ」
岸下が何かを放り投げると、犬ちんこと言われた男は地面に落ちたそれを「わんわん」と言いながら犬食いしている。
「何なんだ、あいつら」
勝馬が呆れたように言った。
「秋菜・・・ほっぺたどうしたんだ赤いぞ」
結城が秋菜に気にかけると、秋菜は「毛虫を触った手で触っちゃっただけ」とそっぽを向いた。
「ご飯食べ終わったら天体観測しない? 小さいけれど、望遠鏡もあるんだよーーーー」都が嬉しそうに言うと
「探検部の装備パネェ」と佐野が大声を上げた。
 
 満天の星空の丘の上で、みんな望遠鏡を見てわいわいやっている。
「へぇ・・・・これが北斗七星なんだァ」
レンズを覗き込みながら澪梨が感嘆の声を上げる。
「今が見頃なのよ」瑠奈が笑顔で説明する。「その周りの星をつなげばおおぐま座になるの」
「瑠奈さん。死兆星・・・死兆星はどれですか!」
北斗の拳モードになった勝馬が興奮したように叫ぶ。
「あんた、早死したいの?」千尋がツッコミを入れた。それからそこ」
千尋は何やら円盤を書いている都にツッコミを入れた。
「UFO呼ぼうとしないの」
「バレましたか」と都。「でへへへへ。ん、結城君どこへ行くの?」
「小便だよ」
「じゃぁ、私も連れションに」
「行けるか! 馬鹿!」
結城は突っ込みを入れた。
「全く男女で連れションに行ってどうするんだ」
「結城君もお花を摘みに行くくらいの表現言えばいいのに」
呆れたような千尋
「悪かったねぇ。お花を摘みに行ってきます」
「薔薇で頼む」と千尋
「ふざけんな!」と結城は言ってから森の中に入っていった。
 その時、結城は森の中で無精ひげの目がギラギラした人物、あの犬ちんこに遭遇した。そいつはずっと結城の方を見ている。
「あ、あの・・・恥ずかしながら小便をしようと思っていてなぁ」
「あら、おしっこならトイレがあるわよ」
暗闇からもうひとりの声がした。その声は東山明華だった。高慢な明華はらりったような笑いを浮かべながら、結城に近づいていく。「今何時かしら」
「20時44分」
結城はデジタル時計を見た。
「ここは天然記念公園よ。むやみに立ち小便をするべきじゃないわ」
「言いにくいのですが、簡易トイレがあるキャンプ場までは15分はあるでしょう。ま、間に合いそうにないんですが」
「あら、トイレならここにわるわよ」
突然明華は白いワンピースを捲り上げ、何も履いていない下半身を見せつけようとした。
「この中でおしっこすればいいじゃない」
「何を言ってるんだ!」
結城は顔を真っ赤にして喚いた。
 だが女は意に介さず、「私はセックスが好きなの」と結城に迫ってくる。
「ふざけんな! 頭おかしいんじゃないのか」
その横で犬ちんこが「わんわんわんわん」と叫びながら四つん這いで走り回っている。
「とにかく今すぐしまって連中のところへ帰れ、俺たちは気持ち悪い遊びをしに来たんじゃねえんだよ。何考えているんだ」
踵を返した結城は森を抜け元来た天体観測地点に戻ってきた。
「あああ、高野・・・今すぐ綺麗な星を見せてくれ」
恩田はげっそりした声で言った。
「どうしたの、結城君。お化けでもいたの」
「お化けだったらどれだけ良かったか」
結城がため息をついた直後だった。
-ズダーン-
かすかに銃声のようなものが聞こえた。
「ねえ、結城君。今銃声のような音がしなかった?」
千尋が言う。
「どうせ狩りでもしているのよ」と澪梨。だが瑠奈は「こんな夜中に?」と疑問を呈した。その直後、都ははじかれたように走り出した。
「待て都」
結城と勝馬が同時に走り出す。
 キャンプ場への獣道の途中を「あなたーーーー、あなたーーーーーーー」と白いワンピースの女が獣道をすごいスピードでふわふわ走り、その後ろを犬ちんこが「はふはふ」言いながら追いかけている。その後ろから15分後にキャンプ場に到着したとき、
「うわぁああああああああああああああああ」
と岸下がキャンプの前で悲鳴を上げていた。岸下の前には人が倒れている。結城と都はそこに駆け寄った。
 首を撃たれて体を痙攣させた男が、凄まじい形相で仰向けに倒れていた。懐中電灯によって夥しい出血が見られる。
「クソッ」結城はあわてて喉の出血を抑えた。
「何があったの?」
都が聞く。
「骸骨の男が・・・骸骨の男が森から出てきて、俺たちの目の前で社長を」
松崎が声をあげる。
「いやぁあああああああああああああああああ、あなたぁああああああああ」
結城の背後で明華が絶叫した。
 
(つづく)